短編小説 秘密のYouTube




 スコアブックという本を初めて見た。若葉は圭祐の差し出したそれをパラパラとめくってみる。音符や数字、アルファベットなどが所狭しと書いてあり若葉はため息をついた。
「何が書いてあるのか、全然わかんない」
「初めはそうだよ、みんな」
 俺もそうだった、と圭祐は言った。ただの譜面だと呟いて若葉からスコアブックを受け取る。圭祐はYouTubeにギターを弾く動画をこっそり上げている。
 圭祐の家族以外でそれを知っているのは若葉だけで、若葉も動画を見ている事を圭祐以外には言っていない。しかし再生回数は100を超えるものもあり、若葉はいつか圭祐がバズるのを心配している。
 いや、バズって欲しい。建前だけど。圭祐が喜ぶならそうなって欲しい。
 でも若葉は圭祐が自室で緊張しながらギターを弾いているのを見るのが好きなのでバズってしまったら見なくなるかも、と思っている。
 一人っ子の若葉は高校で出来た圭祐という友達が愛おしくて仕方ない。弟のようで、世話を焼きたくなるが荷物を持ってくれたりする時には頼り甲斐を感じる。つまりはオトコというものに興味を持ったきっかけは圭祐なのである。

 圭祐はスコアブックを眺めながら真剣な顔をしている。
「何考えてるの?」
 若葉が聞くと次は何を練習しようか迷っているという。圭祐は昔流行ったようなミュージシャンの曲ばかりを上げる。今の流行曲にすれば?と思うがバズったら嫌だからアドバイスはしない。
「ねぇ、もし1000回再生されたらどうする?」
 若葉は圭祐を覗き込む。圭祐はうーむと唸った後はにかんだ。
「わかんね消すかも、動画」
「えっ」
「知り合いにバレたりしたらさ、面倒くせーし」
 まぁそこまでいくことはない、と圭祐は笑う。若葉はドキドキと胸の高鳴るのを隠したくて下を向いた。嘘がバレた時のような気分で何とも居心地が悪かった。
「でもさ、昨日聞かれたんだよな。サッカー部のタケイ知ってる?」
 若葉は頷く。タケイは圭祐と紙の漫画を貸し借りする間柄だ。
「YouTubeのおすすめに、俺に見えなくもない奴がでてきたんだって」
「なんて言ったの?」
「ふーん、そっかって。内心やべっと思ったけど」

 若葉は家に帰るとすぐに圭祐の動画を見た。再生回数は37回の最新動画。昨日見た時は20回だった動画。若葉はまさかね、と思いながら20回近く見たのは自分だった事を思い出す。
「他の動画は……」
 三ヶ月近く前のものが141回。これが一番再生回数が多いが前見た時もこんなものだったはずだ。
 若葉はため息をつく。タケイに想いを馳せながら。できれば圭祐のYouTubeは長く続いて欲しい。それだけを思っていた。

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