嘘をつく

いつかはばれる嘘だと知りながら、今日も寝る前に「鬼が来るよ!」とまるで息をするように嘘をついた。
鬼には本当に足を向けて寝られないくらいにお世話になっている。
暗くなったら鬼はやってくる。小さな妹に手を出せばまた鬼はやってくる。どこからともなくやってくる。

我が家の三人の子供たち。
一番上の子は間もなく6歳だ。いろんな魔法がとけるまで時間の問題だ。彼女の魔法がとけるとき、それすなわち、まだ魔法の最中にいるはずの幼い弟と妹の魔法にも陰りが訪れる、ということでもある。
鬼ほど万能に子供の心に働きかける偶像が他にあるだろうか。いや、ない。断言しよう。

「鬼はどこから来るの?」
「本当にいるの」
「どこで見てるの」
「すぐに来るの」

随分と賢くなった長女。なかなかに鋭い。隣では3歳の息子が姉の質問に感心しながら私の答えを待っている。

こういう時の答えにはわかりやすさよりもリアリティが必要なのだ。
お山の洞窟に住んでいるとか、雲の上から見ているとか、現実から離れる嘘はその場しのぎだ。成長とともに鼻で笑われてしまう。

「Uberよ。Uberというシステムがあって、夜寝ないでいたり悪いことしたりすると一番近くにいる鬼に連絡がいくシステムがあるのよ。Uber鬼っていうのよ」
疑り深い娘も食い入るように聞いていた。
よく分からない、くらいがちょうどよいのだ。そして、この先Uberという単語の普及と共に、ああそういえば鬼もUber とか言ってたな、と現実味を帯びながら耳にしてくれたら私の勝ちだ。鬼はリアルを味方に子供の成長と共に生き続けることができる。鬼万歳。
今のところ、この目論見と私の抜群の演技力でまだ鬼の効力はかなり力を発揮している。
このままできればあと5年は鬼のお世話になりたい。切実に。

また読みにきてくれたらそれでもう。