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伊代ちゃんはなんにも悪くない

多分、もう15年位前だと思う。
なにかのバラエティ番組で、松本伊代さんが朝食を紹介していた。
健康番組だったのか何なのか記憶は定かではないのだけど、その紹介した食事に対して、栄養士さんだったりお医者さんだったりがなにかしらコメントをするというもの。
当時、伊代ちゃんには小学生の息子がふたりいて、伊代ちゃんは「朝食はお弁当の残りを出しています」、と言っていた。
大きなモニターには唐揚げだったり、プチトマトだったりブロッコリーだったりが少々雑に並べられたお皿が映し出された。

そして、コメントをする有識者らしき女性が、これでは栄養が偏ってしまいます、そう言ったのだ。
伊代ちゃんは、信じられない、という様子で目を見開いてしばし言葉を失った後、「これでは栄養が足りないってことですか…?」と言葉を繋いだ。

有識者らしき女性は「そうですね。お昼ごはんと同じ栄養素しか摂れませんので云々」長々と話していたけれどそれ以外はよく覚えていない。

当時の私は、多分、高校生だか短大生だかの子どもで、単純に番組が仕掛けるバイアス、つまり、伊代ちゃんにダメフラグを立てる、方向にあっさりと誘導されてしまって、「そうか、これは駄目な朝食なんだな」と真正面から受け取った。そして、あろうことか、その数年後、自分自身をその呪縛にぎちぎちに絡ませてしまうことにもなった。

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子どもが生まれてから、あの日観た「朝食と昼食の栄養素が重なってはいけない」に何度振り回されただろう。朝食の残りを昼食に与えたら「駄目な例」になってしまう、と思っていた。
特に長女の頃は。
朝も昼も、品目数に気を配って、違う料理を出した。冷蔵庫の中には常に複数種類の野菜がみちみちに入っていた。

*

それからさらに数年が経って、子育てのいろんな山場を越えて、ようやく私は「伊代ちゃんなんにも悪くないじゃん」と思えるようになった。
お弁当の二番煎じが朝ごはんで何が悪い。朝も昼もおんなじ栄養だって、栄養があるならいいじゃないか。贅沢を言うんじゃない。
現に、伊代ちゃんの息子さんたちは元気に成人している。それは伊代ちゃんの勝利を意味しているのと同意だ。

なんで急にこんなことを書いているかと言えば、今日のお昼ごはんはカレーだった。
それも、朝食のミネストローネからマカロニだけをつまみ出して、代わりにひき肉とルーをぶち込んだやつ。はっきりとした二番煎じ。ありのすさん風に言うと二毛作。
すっかりカレーになった元ミネストローネのお鍋をぐるぐるかき混ぜながら、ああ、伊代ちゃん、あの日のあなたはなんにも非難されるはずじゃなかったのにね、なんて思った、というお話。

カレーもミネストローネもちゃんとおいしかったよ。

また読みにきてくれたらそれでもう。