怪談百物語#6 よく見つけたね
ノリで肝試しに行くことになった。
売り言葉に買い言葉、サークルのなめてかかってくる後輩達の口車に乗せられて。
幽霊が出るという山に向かうことになった。
心霊現象とかあったことない。そもそもあいたくない。
ほんといやなのに何でこうなった。
俺の雄姿見に来い!
なんて言って後輩達にもついてきてもらうことになった。
良かった。一人とか怖すぎる。
何か、何人かニヤニヤしてるけど
なにあれ?ドッキリでもしかけてる?
怖いんだけど。
車を出しに一旦家に帰る。
家に着いた。一応準備していこうかな。
非常袋からライトを取り出す。一応非常食と水も持っていこうか。
悪ノリが過ぎたら、もしもの事があるかもしれない。
ほんと止めて欲しい。
待ち合わせの場所に車を飛ばす。
あいつらも何か準備してくれてるかな。
ライト一個じゃ足りないぞ。
待ち合わせの店に着いた。
店の前には後輩がポツンと立っている。
一人だけじゃん。何があったのよ。
後輩の中でちょっと浮いてる、真面目系の女の子。
二人で山とか怖いわ。犯罪臭するし。
「車、お邪魔します。よろしくお願いします。」
礼儀正しいけど、めっちゃ乗り気。
真面目じゃないの?
怖い。
見張りさせられてる?
あまりに乗り気だから聞いたけど、違うみたい。
この子、虐められてないみたいでよかった。
何か皆、別の店で一杯やってるらしい。
ほんとなめてんな。
とりあえず言った手前、山には向かってるけど。
夜の山で後輩乗せて何かあったら怖い。
だからここから歩いていこうか、って最寄りの駐車場に車を止めた。
「先輩って生真面目ですよね。」
ほめられてんのかわからんけど、後輩がクスクス笑ってる。
気恥ずかしい。
つき合わせてごめんな。さっさと行って帰るからさ。
ライト片手に山道を登る。
まだ夕日は明るいけど、ちょっと怖い。
しばらく進むが何もない。細い道路が坂になってどこまでも続く。
「幽霊自販機でしたっけ。もう少し上にあるって聞きましたよ。」
詳しいじゃん。
どの辺にあるのか、他の後輩に聞いてきてくれたらしい。
ほんと助かる。気が利くね。
――幽霊自販機。自販機で何か買って、取り出し口に手を入れる。すると幽霊に手を掴まれる。
らしい。
それは教えてくれなくてもよかった。
別に写真撮って帰るだけだから。
気の利かないやつ。
そらからさらに歩くも、何も見つからない。
辺りはすでに暗く、夕日も沈んでいた。
ライトがないと何も見えない。
猪とか猿とか出そうだし、もう帰ろう。
そう後輩に話した瞬間
――ガサ、ガサ
風がないのに木が揺れた。
後輩の手を取って急いで山を下りる。
――ガサ、ゴソ
駐車場はすぐそこだった。
かなりのぼったはずだよな、と後ろを振り向くと
「先輩、怖がってほとんど進んでなかったですよ。」
後輩がクスクス笑っていた。
なんだよもう。
誰にも言わないでね。
ついてきてくれた後輩に遅めの夜ごはんをごちそうした。
せっかく来てくれたから、お礼になるかはわからないけど。
「先輩、ありがとうございます。ごちそうさまでした。」
いいよいいよ、ほんとついてきてくれてありがとうね。
「よかったらなんですけど、家まで送ってもらえませんか。」
いいよ。近くまで乗っけてくよ。
ナビお願いねと聞くも返事はない。
振り向くと、コクンとうなずいたように見えた。
「先輩、ちょっと聞いてもらえますか。」
さっきまでと違って、震えるような声で後輩が聞いてくる。
様子がおかしい。
どうした?コンビニ寄ってくか?
ミラー越しに見えた震える姿、エアコンを切る。
車内が無音になる。
「走って山を下りてる途中、見たんです。」
自販機?
「錆びてたんですけど、たぶんあれだと思います。」
幽霊の手が出るっていう。
よく見つけたな。
明かるかったら写真とれたんだろうけど。
まあ仕方ないか。
「すごい音でしたから。」
音?
不思議に思ってミラー越しに後輩を見る。
真面目そうな顔が、恐怖でクシャリと歪む。
「ガサ、ゴソって。あれ、ずっと自販機から聞こえてたんですよ。」
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