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中央ヨーロッパ1周弾丸鉄道旅❶-アムステルダム〜ベルリン-

2年前の秋に家族に土下座をして1人で中央ヨーロッパ鉄道の旅に行かせてもらった。目的はただ単に鉄道で中央ヨーロッパを円を描くように鉄道に乗って旅するだけという、途中虚無感と腰痛に包まれそうな旅。何しろ2年前のことなので記憶がところどころ曖昧だが、今後ヨーロッパ旅行を計画されている方に「こんな経路もあるのか」と少しでもお役立てることに淡い期待を寄せながら、書きまとめてみることにする。

まずは1周旅行の起点となる中央ヨーロッパの都市に降り立たねばならない。自分が住んでいるノルウェーのベルゲンから飛行機で行きやすい所となると、消去法を使うまでもなくオランダ🇳🇱・アムステルダム。いきなり「中央ヨーロッパちゃうやないか」と今回の旅の定義から外れてしまうが、飛行機・鉄道ともにアムステルダムは非常に便利なので、そこはご容赦願いたい。

朝6時のKLM機に乗って1時間20分ほどでアムステルダム・スキポール空港に着陸。ここから起点のアムステルダム中央駅までオランダ国鉄の列車で10数分。予約したベルリン東駅行きの列車は午後1時頃なので、適当にアムステルダム市内を徘徊しながら時間を潰す。今さらっと言ったが、ここからドイツ🇩🇪の首都ベルリンまで直通で行けてしまうのである。オランダ・ドイツ両国の国鉄が運行するインターシティ・ベルリンという列車。これがここアムステルダムを起点とした理由であり、ご理解いただけるだろうか。

朝方のアムステルダム中央駅

街を歩いて時間を潰すことにも限界が来たので少し早めに駅へ行く。ダメ元で1本前のベルリン東行きの列車に変更してもらおうとしたが、やはり変更可能な切符を選んでいなかったので無理であった。仕方ないので自分が次に乗る列車はどんなものだろうとその1本前の列車を見に、プラットホームへ上がる。オランダ国鉄(NS)の機関車に引かれたドイツ国鉄(DB)の客車がホームへ入ってくるが、出発予定時間になれども一向に発車しない。30分ほど待っただろうか、駅の掲示板からもその列車の案内が消え、乗客が列車から降りてきた。何事かと駅員に聞くと、国境付近の信号機の故障で復旧に目処がたたず、この列車はキャンセルと耳を疑う説明。自分が乗る列車は2時間後なのだが、それもキャンセルなのかと聞くと「わからんから、とりあえず別のフランクルフトに行く列車に乗って」と促され、旅の出鼻を見事なまでにくじかれる。その列車はキャンセルされた列車の乗客と正規の乗客ですでに満員。こんな調子でベルリンまで行くのは意味がないので、故障がなおるように祈りながらとりあえず自分が乗る列車をビールを飲んで待つことにした。

駅構内コンコースにあるカフェで瓶ビール(500ml)を頼もうとしたが、女性店員の態度が明らかに悪い。白ビールをくださいと比較的丁寧な英語で注文したにもかかわらず、「は?何?」みたいな感じで聞き返され、さらにぶっきらぼうに「もう売り切れ」と半ば捨て台詞のように追い討ちをかけられる。仕方なく瓶のピルスナー系のものを頼むと「もっていくから席に座ってて」とビール代を支払って言われるがままに席に座る。自分が頼んだのは瓶ビール。栓抜きで簡単に開けられる瓶ビール。冷蔵庫から出せば提供するまでに10秒とかからない瓶ビール。10分、15分と待てど暮らせど席に運ばれてこない瓶ビール。仕方なく別の店員に頼んだ瓶ビールがまだ来ないんですが?と尋ねると、その店員は注文を受けた店員のところに行き、自分の方を指差し説明しているが、その件の店員は何やら(少し離れていたので完全に憶測だが)言い訳もしくは私わからないわ的なことを言っている素振り。もはやこれまで。その店員に向かって首を横に振りながら、手のひらを返す仕草をして店を後にする。

ひりついた気持ちを落ち着かせながら別の店でビールを飲んで一息つくことにした。列車が来るのかどうかの不安、到底受け入れられない態度を取られた行き場のない憤り、さらに妻子をノルウェーに置いてこんな思いまでして自分はこんなところで何をしているんだという虚しさが一気に押し寄せる感情の波となり、一筋の涙が頬をつたう。

ベルリン中央駅行きのインターシティ

もう全部とりやめてノルウェーに戻ろうかと一瞬頭をよぎるも、列車の案内が表示されたのでホームへと上がる。どうやら今度はキャンセルされずに運行されるようだ。せっかく1等車の席を予約したのだ、気を取り直して列車へと乗り込む。67.8ユーロで購入した1等車は4席が2席ずつ向かい合わせになっている個室・コンパートメント。真ん中に共有の広いテーブルが置かれており、仕事で移動する際にも作業はできそうだ。客車はかなり年季の入ったものだが、中は綺麗に保たれており、シートも快適。

1等席のシート

1本前の列車が運行中止になったのが嘘かのように列車は定刻通りにアムステルダム中央駅を発車。ここからオランダを東に向かい、オスナブリュック(Osnabrück)・ハノーバー(Hannover)などドイツ鉄道の結節点を通りベルリン東まで。自分の降車駅はひとつ手前のベルリン中央駅。1等車の隣がちょうど食堂車になっているので、確認しておきたいところ。ヨーロッパの長距離列車には日本からは忽然と姿を消してしまった食堂車やカフェテリアなどが連結されているので、これもヨーロッパ鉄道旅行の醍醐味。もちろん価格は多少割り高だが。

食堂車のメニュー

アムステルダム中央駅で飲めなかった白ビールを購入し、自分の席に戻ってあの空白の時間を取り戻していると、アーメルスフォールト(Amersfoort)で向かいの席に他の乗客が乗ってきた。恐る恐る聞いてみるとどうやら彼の行き先もベルリン中央駅のようで、仕事で出張らしい。お互いの仕事のことや家族、出身国(彼は韓国出身で幼い頃にオランダに移住)のことについていろいろ話した。国同士だとあまり関係が良いとは言えない両国だが、個人レベルではまったく問題ない。むしろお互いの国の文化を褒め合うというなかなか気持ちのいい会話。こうやって背景に関係なくお互いが敬意をもつことができれば、要らぬ諍い・争いを生まないと思うのは甘い考えだろうか。

車内の通路で車窓を撮っていると、眩しいまでの満面の笑みを浮かべた若い車掌から「次の駅で機関車の交換があるから、面白いものが撮れるぞ」と教えてもらい、国境駅バート・ベントハイム(Bad Bentheim)に着くや否や早速連結部へ。同席となった韓国人の彼や、この若い車掌の温かさでアムステルダム駅での出来事が抉った心の溝が埋まっていくのがわかる。

オランダ・ドイツ国境の駅で機関車を交換

列車は快調にベルリンに向かい、ドイツの大地を直走る。10月ということもあり、ハノーバーを出る頃には夕陽が眩しい。日没の頃になると既にベルリン市内に入っておりベルリン・シュパンダウ駅を発車した後に荷物をまとめる。アムステルダム・ベルリン間はおよそ6時間。飛行機でいけば1時間ほどで着く距離だろうが、1日に5往復しているということはそれなり需要があるのだろう。今回は鉄道旅というよりも、内面についてのまとめとなってしまった感が強いが、車窓に興味がある方は動画のほうを見ていただければ此れ幸い。

ベルリン中央駅で同席の彼と別れ、この日は駅近くのホテルに宿泊。

明日は7時の列車なので早めに就寝。

つづく。

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