![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/147587732/rectangle_large_type_2_0f6d7d56b80497346faefa6350b40534.png?width=1200)
書店経営難を考えるを読んで考えてみた
上記記事を読んだ。こちらは、あくまで書店サイドから見たアイデアが語られていて、それはそれでわかる部分も多いのだが、やや近視眼的なのかもと思ったので、元出版社社員として出版社側から見た景色も記載しておこうかと思う。
出版社が負担しているものー①物流協力金
元記事にもあるが、もともと雑誌物流に合わせて毎日書店に届いていた書籍だが、雑誌ビジネスが大幅に縮小し、相乗りが出来なくなって書籍の物流も非効率になった。
その上で、書籍の物量も縮小し、燃料価格、運輸コストの増大もあって、取次は書籍物流では赤字になっている。
で、数年前から取次から出版社に物流協力金の支払い要請があり、現在では結構な額を毎年支払っている。要請があった際、返品率改善は取次にも益のある話で、その返品率に応じた報奨金もすでにあった中での話だったので、ふざけんなよと強く思ったのでよく覚えている。
なお、もっと昔から雑誌などは地方正味格差撤廃負担金なるものもあり、それも存続中である。詳しい経緯は下記に詳しいので興味があれば読んでみてほしい。
https://www.jbpa.or.jp/nenshi/pdf/p37-47.pdf
まぁ、何が言いたいかというと、とうの昔に物流は崩壊しているのである。それを無理やり延命させているのが現状になる。
それだけ無理をした状態でも、消費者の求める本の物流には程遠い。
書店の経営難をどうにかする前に、この物流もどうにかしないと話は進まない。
出版社が負担しているものー②在庫
現状は書籍は自由に返品が出来てしまう。本来はそういう取引ではないはずの注文出荷商品だって、新刊出荷と区別がつかないため、なし崩しに自由に返品がなされているのが現状となる。
売れなかった本はすべて出版社に帰ってくるため不良在庫は出版社が抱え、処分する格好になる。
会計上、在庫はBS上の資産であり、きちんとした会計をする場合、期末に在庫評価を行って、仕入時より評価額が安くなったら評価損を出す必要があるものとなる。
現状、書店や取次は評価減が起こりそうな在庫は、年度末だけ返品して、翌期に再度注文するといった形で会計上の損失を避けることができてしまう。
取次にとって返品は物流を伴うので自らのコスト増だが、書店は現状では物流コストを負担していないため、それを避ける要因が無い。なので、昔、特定チェーンから特定の時期に大量返品されるというようなことはままあったことだった。
このコストも出版社と取次が負担している、書店からは見えにくいコストだ。
では、対応策は? 再販価格維持をやめるとどうなる?
元記事にもあるが、解決策の一つは再販価格維持をやめることだ。それぞれのプレイヤーがそれぞれで必要なコストと利益を載せて価格を決める。単純だが、純粋に必要とされ、お金を支払われるものが残り、非効率なものは消えていくことになる。
結果としてどういうことが起こるかをざっくりと予想する。
商品のバーゲンと仕入れ値の値下げ交渉が起こる。
返品が原則自由→原則不可に変わる
書店が仕入れを真剣にやるようになる
企画での販売ではなく、現物商品の取引が増える
企画として売れなさそうなものの多くが没になり刊行点数が減る。
新刊などは期間限定の委託販売も増える。
小さい出版社がごっそりつぶれ、マイナーな書籍は作られなくなるか、価格が跳ね上がる。
取次の多くが無くなる。
リアル雑誌は委託商売のままかな…。
お店によって同じ書籍でも価格が変わり、地方は高くなる
数の売れない書店(特に地方にある書店)はガンガンなくなる
と、こんなところだろうか。
1はわかりやすい。価格が自由につけられる場合、書店では近隣店舗との競争もあって近隣でいちばん安値を付けようとする。その上で利益を確保しようとするので、仕入れ値をなるべく下げようという交渉となる。
いわば普通の商取引になるのだが、その際ものを言うのは販売力だ。
販売力の強い、ロケーションに恵まれた書店や、チェーンとして総合的な販売力、交渉力を持つところが強く、それ以外は競争上どんどん苦境になっていく。たとえるなら、地域の個人経営の八百屋と、大きなショッピングセンターの競争のようなものだ。生鮮食料品と違い、鮮度の違いはないため、純粋にロケーションと価格の競争になる。(本来ならサービスでも差別化はできるはずだが、小売店舗のサービスってなかなか難しい部分がある)
もちろん、数を仕入れるから仕入れ値を下げるということも日常的に行われるようになるが、数を仕入れるということは在庫リスクが高まるということなので、それには必ず返品不可の条件がついて回ることになる。結果として2の返品不可条件への移行が同時に進むだろう。
気楽に返品できないとなると、書店側は売れる商品しか仕入れなくなる。そのため、3の仕入れを真剣にやることになり、商品をきちんと見極めてから仕入れ交渉を行うことになる。
その結果、見極めのために仕入れ時にきちんと見本があって、内容が確認できることが条件になっていく。つまり4現物商品の取引が多くなる。
そうやっていくと、1点1点の仕入れに手間暇がかかることになるため、総体として書店における商品の種類は減っていく。なので、仕入れてもらえる本の種類が減っていき、出版社としてはテストマーケティングなどをしながら企画を厳選していくことになるため、5書籍の刊行点数は減っていく。
こうなると新しい企画のために、6期間限定、店舗を絞っての委託販売といった形でテストマーケティング的に販売する機会も増えていくだろうと思う。
また、こういう状況になると、出版社はものを作ってから売り込んでようやく売上が立ち、その後、お金を回収する形になるので、今よりも回収期間が伸びる。企画も厳選されていくとなると、7小さい出版社、マイナーな書籍を出しているところの多くは商業ベースから脱落するだろうと思う。一部はクラウドファンディングなどに移行し、AmazonKindle出版的な電子だけの販売が増えるだろうし、少ない企画で稼がねばならないので、本そのものの価格は大きく上がるだろうと思う。文庫はたぶん成立しないんじゃないかなという気がする(もうすでに1500円とか2000円の文庫があって、文庫ってなんだっけ? と思わなくもない状態があるけど)。
書店、出版社の淘汰が進み、お互いに取引相手先が減ってくると直取引が増える(今でも増えてるけど)。その結果、取次も役目が無くなっていき淘汰されるだろうと思う(8)。
9、雑誌は細々と委託条件のまま残るだろうと思う。もともと販売期間が決まっているものだし。MOOKという形態は無くなりそうな気はするけど…。
そして、10、当たり前だけどお店によって値付けが変わる。物流費がかかる離島や人口の少ない場所などは輸送コストが大きくなるので、価格が跳ね上がることになる。結果として今以上にオンライン書店もしくは電子に移行することになるので、11人口の少ない地域の書店はほとんどなくなるだろうと思う。少なくとも都市部に住んでいる人以外は、自転車で行ける距離に書店が無いのが当たり前になるんじゃないかなと。
つらつらと書いたが、つまり総合して何が起こるかというと、産業の再編と規模の縮小だろう。業界の再編と共に、市場規模も下がり、バランスの取れるレベルに縮小するのだろうと思う。
それがいいか悪いかは何とも言えない。私も業界にいた身ではあるので寂しい気持ちはあるが、おそらく避けられない未来としてすぐそこにあるんだろうと思っている。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?