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【#26】Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民【創作大賞2024参加作品】

【本編連載】#26


【8章 新しい朝】

SIDE(視点):ノボー・タカバタケ

視点:ノボー・タカバタケ 30歳
『西暦3230年8月(新星1年10月 青日) エリンセにて』

西暦3230年8月(新星1年10月 青日) エリンセ 

 今日は久しぶりに、ヤマバとアンジョーと3人で集まる。マスターの店『テッラ』で夕食の待ち合わせだ。
 
 大月の日(青日)は、恒星の日(白日)よりも、気温が低い。季節が固定されているこの星で、僕たちのいる場所は政府施設があり、もっとも過ごしやすいエリアの1つだった。
 大月が地平線に沈むのを見つめながら、僕はあの暑かったTOKYOでの夏を思い出した。太陽の熱から逃げ出したはずなのに、地球を焼いていたあの太陽が懐かしかった。
 僕の自動運転は、まだ大月が地平線に沈む前に、店の前まで到着した。予定よりずいぶん早い。3人で会うのは久しぶりで、気持ちが高ぶっているせいだろう。

『テッラ』に入ると、オリーブオイルとニンニク、そしてセロリの匂いがした。
 この店のコンセプトは古き良き旧イタリア国のトラットリアだ。しかし、よくここまでアンティーク風に作り上げたものだと感心する。移民の際、一般の人は地球のものをほとんど持ってこられなかったんだから、それを思うとマスターの情熱はすごい。
 いや、マスターだけじゃない。この星に来てから、人々はみんな変わろうとしている。AI新法により、働き手は格段に減った。その分、人々への負担は増えた。しかし、人々はそれを受け入れ動き出した。だぶん人には負荷が必要だったのだろう。仕事に向き合い、人と向き合う。そうやってお互いに刺激を与えあい、新しい明日が作られていった。
 
 そこには前に進もうという意志があった。人々は地球との別れを、ちゃんと受け入れているようだった。
 でも、僕にはそれを受け入れることができなかった。僕の未来は地球の方向に向いていた。地球に戻る上で、さみしいことがあるとしたら、それはヤマバやアンジョーに会えなくなることと、ここの料理を食べられなくなることだけなのだろう。

 だからこそ、今日のこの集まりを心から楽しみたかった。
 実はヤマバやアンジョーには秘密にしておいたことがある。今日は店を貸し切りにして、マスターと一緒に僕も厨房に入り、料理を振る舞う。
 僕はマスターから、最近ここの味を習っていた。エリンセに別れを告げるなら、少しでもここの味を覚えたいと思っていた。
 
 厨房の中で料理の下ごしらえをしていたマスターは、扉が開く音で僕に気が付いた。
「あら、ノボーさん。早いわね」

「マスター、こんばんは」

「ねえー、今日はいいスズキが入ってね、アクアパッツァを作ろうと思ってるのよ」

「いいですねー」
 僕は荷物を椅子の上に置いてから、下ごしらえの手伝いをした。
 
 

 ドアタイプの扉が開く。まるで大昔の娯楽映画みたいだと思った。

「よう、ノボー早いな!」
 ヤマバとアンジョーが一緒に入ってきた。今2人は同じチームで働いている。ヤマバが惑星開発責任者で、アンジョーはその右腕だ。
 
 「ノボー! なんで厨房にいるの?」
 アンジョーがいつもみたいに、僕に食って掛かるような言い方をした。久しぶりに会ったアンジョーは変わりがなくて、嬉しかった。
 
「うん、実は、今日は僕も厨房に入るんだ。パスタは全部僕に任せてよ」

「そういえば、ノボーはパスタ研究家だもんなあ」

「いや、ヤマバ。自分が好きなだけ。マスターの味には遠く及ばないから、勉強させてもらっている最中だよ」

 マスターは唇を舐めながら、「今日はノボーさんが手伝ってくれるから、私もそっちの席で飲んでいいみたいなのよね」と言った。

「えー? 楽しそう。それで店の前に貸し切りの掲示板が出ていたのね」

 ヤマバが悔しそうに、「あーくそ! こういう時こそ、年代物のワインを開けたいのに!」と言った。

「まあまあ、しょうがないじゃない」とすぐさまアンジョーが慰めた。

 そうなのだ。惑星移民の際、ワインは宇宙船に乗ることができなかった。当然、ワインのためだけに移民船にいろいろと設備を整えるわけにもいかない。
 もちろんブドウの遺伝子は持ってきているが、ワインにとって重要な月日をかけた熟成を行うことはまだできていない。この星に来てから作られたワインは、まだ初年度のものだけだ。しかもテロワール(土壌や気候条件)を再現できているかも怪しいので、当面はエリンセワインには期待できそうもない。

 それに対してビールはよかった。ビールは出来立てしぼりたてが美味しいのだ。だからこの星に来てから僕たちはビールで乾杯することにしていた。新星新法でアルコールが禁止されなかっただけでも感謝しなければいけないのかもしれない。
 
 

#27 👇

6月18日17:00投稿


【登場人物】

ワープ理論『時空短縮法』を発見し人類を救った天才科学者
【使徒】として地球の意志を聞いたスーパーAI
私邸育ちの謎多き14歳の少女
世界企業リコウ社から来た、現場引き抜きの研究員
研究アカデミー世界最高峰と言われるAC.TOKYO筆頭教授
政府とも太いパイプを持つ
コシーロ研究室助教授。コシーロとは婚姻関係
βチルドレンで、ヤマバと共に過ごす。6歳で永眠。

【相関図】

【地球-エリンセ 年表】

【語句解説】

(小説を読む中で必要な部分は、本文に記載してあります)

『地球』
Dr.タカバタケの世界は、2024年現在の私たちの時代の延長線上にある。
ヒトの身体的な進化などはなく、現在と同じ生体。一部障害を持った人が、その機能を補うために身体の機械化をおこなっているが、全世界の共通認識とまた世界条約として人体の機械化はタブー・禁止されている。クローン・人体錬成なども同様に、大きなタブーであり重い罪とされている。
変わったところがあるとしたら、平均身長が5~10センチほど小さくなった程度。

『惑星エリンセ (Elimssehs
3229年に全ての人類が、惑星移民をした移民先。
この星の1日は48時間。サイズは地球の2.5倍。
恒星は1つ、衛星は4つ。
奇跡的に星の質量や惑星・衛星の影響等で重力はほぼ地球と同等になっていた。
 環境は地球に酷似。ただ、地軸にほぼズレがないので四季はなく、エリアによって生態系が分布している。 
 気候は(エリアによるが)住居するには穏やかこの上なく、そのうえで知的生物は存在していない。
 新星1年は西暦3229年と3230年を指す。公転が2倍なので、地球の2年分。
最大の衛星:青月(あおつき)-ブルースターと恒星:望日(ぼうび)-ホープスターが24時間で入れ替わる(日照時間は12時間)。
青月は大変明るいので、人は24時間の生活サイクルを崩すことなくおくることができる。
青月の日を『青日(せいじつ)』、望日の日を『白日(はくじつ)』と呼ぶ。

『時空短縮法』
 ノボー・タカバタケが発見したワープ理論

『時空短縮装置』
惑星間移動を可能にした装置

『ネオジャパン』
2024年現在の日本とほぼ同じ領土である。国境間にパスポートが不要になったので、様々な国の人が行き来している。首都はTOKYO

『チップ(脳内チップ)』
全人類に義務づけられた、脳内に入れる機械部品。記憶の拡張や、翻訳など様々な機能がある。また、国家管理のための個人情報が収めれれている。

『クロックカレンダー』
脳内に入れられたチップにより、日にち・時間が把握できる。また、アラーム機能など様々な機能がついている。国家間を超える連絡の時に、時差の把握にも便利。

『太陽膨張』
かつて、2000年代には、太陽膨張による地球上の生物の滅亡は5億年以上先だと予想されていた、しかし3000年に入る頃には、太陽は狂ったように膨張をはじめ、3300年には人類が生存していくのが難しいと予想されている。

『AC.(アカデミア)』
各所にある研究機関。現在の大学の延長線上だが、教育よりも研究を中心に置こなっている。学位研究員としての期間は10年以内だが、状況によって延長が可能。

『人類忠心』
男女の恋愛が希薄になり、出生率が下がる2200年の少し前ごろから、人類は戦争・テロを行わなくなった(最後のテロは2189年と記録されている)。また、凶悪犯罪が急速に減少していった。同時に法整備、移動技術の進歩により、交通・移動事故による死者はほとんどいなくなった。また、医療体制も行き届き。人の死因は老衰と自己終了(尊厳死)の2つが中心となっていた。
つまり、寿命まで人は死ななくなっていた(3200年で平均寿命は160歳 ※自己終了含む)。
その一方で体力ない幼少期の死亡率が一定数ある事は、この時代においても無くなることのない悲劇の1つであった。
簡単に生まれなくなり簡単に死ななくなると、その1つ1つの命の価値が上がる。人が人として生き、人として死ぬ。そのことに、全人類が共通して敬意を払う。そういうことが社会通念上、当たり前の認識になっていた。

『人と自然』
人は、居住区と工場区(農業・酪農含・漁業含む)、自然区(開放区と非解放区=国定区)を分け、人の手の届く範囲とそうでないエリアを分けて生きていた。

『チルドレン(共通育成教育施設)』
出生~20歳までは一貫して、各国が管理し育成・教育をする。
施設での集団生活となり親との面会は可能であったが、一緒に住むことは禁止された。
世界の合計特殊出生率(以後、出生率)は2未満であり、子は宝。相互監視と国の指導を導入し、ネグレクトや犯罪などから子供を守るよう、徹底的な管理体制が敷かれた。

『ウインドスクリーン』
モニターであり、光や熱を遮断できる窓。
透過したり、空気を通したりすることも可能。

『テキスト技術』
脳に入れられたチップを通じて情報を交換する方法。
視覚的には空中に情報が浮いているように、感覚的には脳裏に直接流れ込んでくるように感じる。
眼鏡型の外部機器で補うことも可能。
脳内チップにはキーロック機能があり、解除区画の情報のやり取りしかできないように、法令上もシステム上もしっかりとしたセキュリティの中で作動している。

『S・W・I・M  (Shallow Well Interchange Meeting:表意交換会議)』
テキスト同様、脳内チップを用いて人員間でネットワークをつなぐ方法だが、テキストに比べると、より深い意識の階層に入るため、リスク分配のためオフラインでの使用は禁じられている。(S・W・I・Mにおける、オフラインの禁止)
一対一の議論に用いられることが多い。複数名での使用も可能であるが、発信者が特定しにくくなる、外部に対する意識が切り離されるので、安全な環境で行うことが義務付けられている。(S・W・I・Mにおける、外的安全の確保)
また、没頭しすぎて飲食の時間を忘れるので、一定時間がたつとオンラインアラームが鳴り、さらに過ぎると、オンラインポリスより警告が来る。(S・W・I・Mにおける、使用時間の順守)

『シップ』
地上、水上、空中を移動できる船。
自動運転のように決められた領域内を移動するだけではなく、様々なところに移動が可能。
ただし、政府の免除を必要とし、公安による管理下に置かれての航行となる。
自動運転以外にも、AI補助付きの半手動による運航も可能。
国境を超える場合は、各管轄国の承認が必要。
大気圏内用と宇宙用があり、宇宙用は主要6国の承認が必要。



【1章まとめ読み記事】


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