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【#27】Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民【創作大賞2024参加作品】

【本編連載】#27

視点:ノボー・タカバタケ 30歳
『西暦3230年8月(新星1年10月 青日) エリンセにて』

 乾杯をした後、僕たちは、日々のことや地球での話をした。3人でマスターの料理を食べながらお酒を飲んでいたら、地球のマスターの店にいるような錯覚に陥った。
 研究で遅れていたシーが、今にも扉を開けて入ってくるような気がした。
 少しビールのペースが速いのかもしれない。
 
 ヤマバが、ビールを飲みながら「しかし、大統領もワインファンなんだし、もっとワインを優遇すればよかったんだよ」と言った。

「え、そうなの? 私、大統領に会ったことない」とアンジョーが黒オリーブの実を口に放り込みながら返事をした。

「あのおっさんは、ずいぶん変わっているぞ」

 ヤマバのその言葉に「あらー、ヤマバ。どんな風なのよ?」と、厨房の中からマスターも話に参加してきた。

「うーん、変としか言えないなあ。しゃべることもマニアックだし。でも俺は好きだな。理由はわかんないけど。なんとなくコシーロ教授やユミさんとも似ている気がする」
 ヤマバがそう言うと、「へーそうなんだ」とアンジョーは相槌を打ちながらビールを飲んだ。

 お酒の力もあったのかもしれない。僕は思い切ってヤマバに聞いた。
「ヤマバ、僕と大統領と、会うことはできないかなあ」

 ヤマバは僕のその突然の言葉に、表情を硬くした。
「ノボー、どうしたんだ急に」

「いや、どうしても大統領と話したいことがあって」


「繋げないこともないが、内容いかんによっては、俺は繋がない」
ヤマバは、ビールを飲みほし、容器を『ドンッ』と置いた。

「だってお前、政府に思うところがあるんだろ?」

「いやそれは……」

「いまさらシーの話をして、恨みごと言ってみろ。お前にとって得することなんかまったくない。ましてやこの星のトップに食って掛かったら……あのおっさんは許してくれるかもしれないけど、周りは黙ってないぞ?」

 アンジョーもビールを飲みほして容器を『ドンッ』と置いた。
「ノボー! 駄目よ。駄目よ絶対! そんなことしてもシーは喜ばないわ!」
 「ハイお待ち!」
 マスターがこの店定番の『なすのカプレーゼ』を出してくれた。
 みんな黙ってそれを口に運んだ。その味は地球にいるころと変わらず美味しかった。

 アンジョー違うんだ。僕は後ろ向きな話をしに行くんじゃない。そろそろ地球に戻るための具体的な話し合いをしないといけないんだ。シーと約束したんだ。必ず帰るって。
 2人にそう言いたかった。でもこの話は秘密にしなければならなかった。聞いてしまえば、この星で生きていく2人には重荷にしかならない。

「……まあ」とヤマバが口を開いた。

「まあ、とりあえず会えるかどうかは聞いておく。でも、俺が納得できる理由を聞くまでは話は前に進めないからな」

「……うん」

 その重い空気を打ち破るように、マスターが明るい声をあげた。
「ところで、意外と美味しいワイン見つけたんだけど、白と赤どっち開ける?」

「おお!」と言うヤマバの声は、ちょっとだけわざとらしく聞こえた。

 僕が「やっぱり赤ワインを飲みたいですね。若い赤も悪くないですし……」とそう言っている最中に「絶対白!」と、アンジョーは僕の声にかぶせるように言った。

 マスターはウーンと考えるように腕を組んでから、「よーし、じゃあ両方開けてしまいましょ!」と笑顔を作った。
3人の歓声が重なった。
 

 8つのグラスが4人の前に並ぶ。
 まず僕は、白に口をつけた。すっきりとしているけど、コクも酸味もあった。体にしみいるような美味しさだった。
 続けて飲んだ赤は、若くてさわやかで、それでいてブドウの果実味が力強く美味しかった。
 ヤマバも、アンジョーも「美味い!」「おいしー!」と嬉しそうに声をあげた。

 マスターは赤ワインを一口飲み、ワイングラスを持ったまま、静かに口を開いた。
「ノボーさん。エリンセはエリンセで新しく歴史を作り始めているのよ。こうやって作り手も頑張って、一からだけれど美味しいワインづくりに情熱をかけているわ。
私ももちろん、シーさんのこと覚えている。すごくすごく残念よ。でもね、世の中にはどうしようもないこともあるの。
過去は変えることはできない。私も地球は懐かしい。でも、私たちは前に向かって進むしかないの。
もちろん思い出は大切よ。でも今と未来を大切にしないと、シーさんにも失礼よ」

 横でヤマバが「そうだ、その通りだ!」とうなずきながら言った。
 アンジョーは、少し暗い顔をしていた。シーのこと思い出しているのかもしれない。

 マスターの言いたいことは僕にも十分理解できた。
 でも……。

#28👇

6月19日17:00投稿


【登場人物】

ワープ理論『時空短縮法』を発見し人類を救った天才科学者
【使徒】として地球の意志を聞いたスーパーAI
私邸育ちの謎多き14歳の少女
世界企業リコウ社から来た、現場引き抜きの研究員
研究アカデミー世界最高峰と言われるAC.TOKYO筆頭教授
政府とも太いパイプを持つ
コシーロ研究室助教授。コシーロとは婚姻関係
βチルドレンで、ヤマバと共に過ごす。6歳で永眠。

【相関図】

【地球-エリンセ 年表】

【語句解説】

(小説を読む中で必要な部分は、本文に記載してあります)

『地球』
Dr.タカバタケの世界は、2024年現在の私たちの時代の延長線上にある。
ヒトの身体的な進化などはなく、現在と同じ生体。一部障害を持った人が、その機能を補うために身体の機械化をおこなっているが、全世界の共通認識とまた世界条約として人体の機械化はタブー・禁止されている。クローン・人体錬成なども同様に、大きなタブーであり重い罪とされている。
変わったところがあるとしたら、平均身長が5~10センチほど小さくなった程度。

『惑星エリンセ (Elimssehs
3229年に全ての人類が、惑星移民をした移民先。
この星の1日は48時間。サイズは地球の2.5倍。
恒星は1つ、衛星は4つ。
奇跡的に星の質量や惑星・衛星の影響等で重力はほぼ地球と同等になっていた。
 環境は地球に酷似。ただ、地軸にほぼズレがないので四季はなく、エリアによって生態系が分布している。 
 気候は(エリアによるが)住居するには穏やかこの上なく、そのうえで知的生物は存在していない。
 新星1年は西暦3229年と3230年を指す。公転が2倍なので、地球の2年分。
最大の衛星:青月(あおつき)-ブルースターと恒星:望日(ぼうび)-ホープスターが24時間で入れ替わる(日照時間は12時間)。
青月は大変明るいので、人は24時間の生活サイクルを崩すことなくおくることができる。
青月の日を『青日(せいじつ)』、望日の日を『白日(はくじつ)』と呼ぶ。

『時空短縮法』
 ノボー・タカバタケが発見したワープ理論

『時空短縮装置』
惑星間移動を可能にした装置

『ネオジャパン』
2024年現在の日本とほぼ同じ領土である。国境間にパスポートが不要になったので、様々な国の人が行き来している。首都はTOKYO

『チップ(脳内チップ)』
全人類に義務づけられた、脳内に入れる機械部品。記憶の拡張や、翻訳など様々な機能がある。また、国家管理のための個人情報が収めれれている。

『クロックカレンダー』
脳内に入れられたチップにより、日にち・時間が把握できる。また、アラーム機能など様々な機能がついている。国家観を超える連絡の時に、時差の把握にも便利。

『太陽膨張』
かつて、2000年代には、太陽膨張による地球上の生物の滅亡は5億年以上先だと予想されていた、しかし3000年に入る頃には、太陽は狂ったように膨張をはじめ、3300年には人類が生存していくのが難しいと予想されている。

『AC.(アカデミア)』
各所にある研究機関。現在の大学の延長線上だが、教育よりも研究を中心に置かなっている。学位研究員としての期間は10年以内だが、状況によって延長が可能。

『人類忠心』
男女の恋愛が希薄になり、出生率が下がる2200年の少し前ごろから、人類は戦争・テロを行わなくなった(最後のテロは2189年と記録されている)。また、凶悪犯罪が急速に減少していった。同時に法整備、移動技術の進歩により、交通・移動事故による死者はほとんどいなくなった。また、医療体制も行き届き。人の死因は老衰と自己終了(尊厳死)の2つが中心となっていた。
つまり、寿命まで人は死ななくなっていた(3200年で平均寿命は160歳 ※自己終了含む)。
その一方で体力の少ない幼少期の死亡率が一定数ある事は、この時代においても無くなることのない悲劇の1つであった。
簡単に生まれなくなり簡単に死ななくなると、その1つ1つの命の価値が上がる。人が人として生き、人として死ぬ。そのことに、全人類が共通して敬意を払う。そういうことが社会通念上、当たり前の認識になっていた。

『人と自然』
人は、居住区と工場区(農業・酪農含・漁業含む)、自然区(開放区と非解放区=国定区)を分け、人の手の届く範囲とそうでないエリアを分けて生きていた。

『チルドレン(共通育成教育施設)』
出生~20歳までは一貫して、各国が管理し育成・教育をする。
施設で集団生活が原則となり親との面会は可能であったが、一緒に住むことは禁止された。
世界の合計特殊出生率(以後、出生率)は2未満であり、子は宝。相互監視と国の指導を導入し、ネグレクトや犯罪などから子供を守るよう、徹底的な管理体制が敷かれた。

『ウインドスクリーン』
モニターであり、光や熱の遮断できる窓。
透過したり、空気を通したりすることも可能。

『テキスト技術』
脳に入れられたチップを通じて情報を交換する方法。
視覚的には空中に情報が浮いているように、感覚的には脳裏に直接流れ込んでくるように感じる。
眼鏡型の外部機器で補いことも可能。
脳内チップにはキーロック機能があり、解除区画の情報のやり取りしかできないように、法令上もシステム上もしっかりとしたセキュリティの中で作動している。

『S・W・I・M (Shallow Well Interchange Meeting:表意交換会議)』
テキスト同様、脳内チップを用いて人員間でネットワークをつなぐ方法だが、テキストに比べると、より深い意識の階層に入るため、リスク分配のためオフラインでの使用は禁じられている。(S・W・I・Mにおける、オフラインの禁止)
一対一の議論に用いられることが多い。複数名での使用も可能であるが、発信者が特定しにくくなる、外部に対する意識が切り離されるので、安全な環境で行うことが義務付けられている。(S・W・I・Mにおける、外的安全の確保)
また、没頭しすぎて飲食の時間を忘れるので、一定時間がたつとオンラインアラームが鳴り、さらに過ぎると、オンラインポリスより警告が来る。(S・W・I・Mにおける、使用時間の順守)

『シップ』
地上、水上、空中を移動できる船。
自動運転のように決められた領域内を移動するだけではなく、様々なところに移動が可能。
ただし、政府の免除を必要とし、公安による管理下に置かれての航行となる。
自動運転以外にも、AI補助付きの半手動による運航も可能。
国境を超える場合は、各管轄国の承認が必要。
大気圏内用と宇宙用があり、宇宙用は主要6国の承認が必要。



【1章まとめ読み記事】


【4つのマガジン】


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