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【#28】Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民【創作大賞2024参加作品】

【本編連載】#28 

視点:ノボー・タカバタケ 30歳
『西暦3230年8月(新星1年10月 青日) エリンセにて』

 マスターはチーズ入りの特製パン『チーズボール』と『キャベツの煮込みコンソメスープ仕立て』を出しながら。
「じゃあ次はパスタよ。ノボーさん、ヨロシクね」と言って、僕を厨房に招き入れた。

「よっ! ノボーシェフ!」

「ノボーシェフがんばってー」

「今日のパスタはスパゲッティにするけど、2人は何を食べたい?」

「私はフレッシュトマトなら何でもいい!」

「俺はペペロンチーノだな」

「そうだね、せっかくだから、2種類作るよ。ペペロンチーノと……えーと、そうだなあ。じゃあ、フレッシュトマトは、アンチョビー入りで作るよ」

「サイコー!」
 アンジョーがワイングラスを上げ、ご機嫌で答えた。
 

 ゆで汁には1%の塩。厨房ではマスターが事前に準備をしてくれていたので、もうすでに寸胴鍋にたっぷりのお湯が沸騰していた。
 スパゲッティを入れる前に、まずはフレッシュトマトのソース。旧式の銀色のフライパンを調理熱機にかける。
 オリーブオイルを入れニンニクのみじん切りを入れたら、アンチョビーペーストと千切りにしたアンチョビーのフィレをいれ、ある程度熱が入ったところで、ジャパニーズ・サケを入れる。
 再び沸騰したら、フレッシュトマト、ミニトマトを入れて煮込んでいく。
最後に小さく切ったパンをソースに溶かし、コクのために醤油を少々入れ、ミニトマトのソースは完成。
 そろそろ、スパゲッティを投入しよう。ゆで時間は8分だ。

「……ところでさぁ」
 カウンターの向こうから、ヤマバの声が聞こえた。……どうやらアンジョーと大統領の話をしているみたいだ。僕はパスタを作りながら、その話に聞き耳を立てた。

「あのおっさんに初めて会ったとき『君たち、英雄が訪ねてきたら願いを1つだけ叶えるんだ』、とか言ってきてさ」

「えー、だったら私、億万長者にしてもらおうかなあ」

「いやいやマジな話。そいで、結構真剣な顔で聞いてくるんで、なんか俺あまのじゃくなとこあるだろ?」

「あまのじゃくというか、冗談ばかり言っている気がする」

「まぁ、俺があまのじゃくだから、そういう表現になってしまうだけなんだけど……。それで、かるーく、いつものノリで言っちゃったんだよ」

「なにー? その気になる言い方」

「『マリーゴールドのマリーに会わせてください。俺が自分で叶えられないことはそれだけですんで。それが俺の願いです』って」

「……まぁ、自虐的というか、へそ曲がりというか」

「そしたらさあ、あのおっさん。腕組んで考えたかと思ったら。そのポーズのままニカって笑って『なんだそんなことでいいのか。お安い御用だな』なんて言うんだぜ?」

「へー、大統領もお茶目というか、適当というか」

「まあ、願い事叶えるってところから、ジョークなんだから、それに乗っとけばいいんだよ」

「大統領の意外な一面を聞けたわ。てか、本当になんかご褒美ないの? こっちに来て働いてばっかりいる気がするわ」

「まあ、俺は仕事好きだから別になんにも思わないけど」

 ……
 大統領、意外と人間味があって、気さくな人なのかもしれない。
 それにしても、2人とも研究室のころに比べれば、ずいぶん仲良くなった。アンジョーがアルコールを飲めるようになったのがよかったのかもしれない。

 そこまで聞いてから、僕はペペロンチーノの調理に集中した。ペペロンチーノはシンプルだからこそ難しい。
 フライパンのオリーブオイルがあったまったら、ニンニクのみじん切りを入れる。ある程度、熱が通ったところで、輪切りのトウガラシを入れる。今度は白ワインを入れひと煮立ち。汁は少し多めがいい。
 そのタイミングでスパゲッティが茹であがった。お湯をしっかりと切りフライパンに投入する。後は感性だ、ヴァージンオイルと塩と黒胡椒で味を調える。器に立体的に盛り、最後に刻んだパセリをかければ……スパゲッティ・ペペロンチーノ完成だ。
 再びフライパンの前に戻り、すでにフレッシュトマトのソースの中に入れてあった残りのスパゲッティをソースに絡め、味を調える。器にきれいに盛ってから、最後にヴァージンオイルをひとまわしかけた。

「お待ちどうさま!」

「おお!」

「おいしそー!」

「あらー、ずいぶん上手になったじゃない」
 
 アンジョーが取り分けた皿で、まずはヤマバがフォークを口に運んだ。
「おお! 最高!」

 アンジョーはスプーンとフォークを使って、スパゲッティを器用に口に運んだ。
「美味しー!」

 マスターは「あらあら、私といい勝負まで来たんじゃない?」と唇をオイルでテカテカと光らせながら、そう言った。
  

#27 👇

6月20日17:00投稿

【登場人物】

ワープ理論『時空短縮法』を発見し人類を救った天才科学者
【使徒】として地球の意志を聞いたスーパーAI
私邸育ちの謎多き14歳の少女
世界企業リコウ社から来た、現場引き抜きの研究員
研究アカデミー世界最高峰と言われるAC.TOKYO筆頭教授
政府とも太いパイプを持つ
コシーロ研究室助教授。コシーロとは婚姻関係
βチルドレンで、ヤマバと共に過ごす。6歳で永眠。

【相関図】

【地球-エリンセ 年表】

【語句解説】

(小説を読む中で必要な部分は、本文に記載してあります)

『地球』
Dr.タカバタケの世界は、2024年現在の私たちの時代の延長線上にある。
ヒトの身体的な進化などはなく、現在と同じ生体。一部障害を持った人が、その機能を補うために身体の機械化をおこなっているが、全世界の共通認識とまた世界条約として人体の機械化はタブー・禁止されている。クローン・人体錬成なども同様に、大きなタブーであり重い罪とされている。
変わったところがあるとしたら、平均身長が5~10センチほど小さくなった程度。

『惑星エリンセ (Elimssehs
3229年に全ての人類が、惑星移民をした移民先。
この星の1日は48時間。サイズは地球の2.5倍。
恒星は1つ、衛星は4つ。
奇跡的に星の質量や惑星・衛星の影響等で重力はほぼ地球と同等になっていた。
 環境は地球に酷似。ただ、地軸にほぼズレがないので四季はなく、エリアによって生態系が分布している。 
 気候は(エリアによるが)住居するには穏やかこの上なく、そのうえで知的生物は存在していない。
 新星1年は西暦3229年と3230年を指す。公転が2倍なので、地球の2年分。
最大の衛星:青月(あおつき)-ブルースターと恒星:望日(ぼうび)-ホープスターが24時間で入れ替わる(日照時間は12時間)。
青月は大変明るいので、人は24時間の生活サイクルを崩すことなくおくることができる。
青月の日を『青日(せいじつ)』、望日の日を『白日(はくじつ)』と呼ぶ。

『時空短縮法』
 ノボー・タカバタケが発見したワープ理論

『時空短縮装置』
惑星間移動を可能にした装置

『ネオジャパン』
2024年現在の日本とほぼ同じ領土である。国境間にパスポートが不要になったので、様々な国の人が行き来している。首都はTOKYO

『チップ(脳内チップ)』
全人類に義務づけられた、脳内に入れる機械部品。記憶の拡張や、翻訳など様々な機能がある。また、国家管理のための個人情報が収めれれている。

『クロックカレンダー』
脳内に入れられたチップにより、日にち・時間が把握できる。また、アラーム機能など様々な機能がついている。国家間を超える連絡の時に、時差の把握にも便利。

『太陽膨張』
かつて、2000年代には、太陽膨張による地球上の生物の滅亡は5億年以上先だと予想されていた、しかし3000年に入る頃には、太陽は狂ったように膨張をはじめ、3300年には人類が生存していくのが難しいと予想されている。

『AC.(アカデミア)』
各所にある研究機関。現在の大学の延長線上だが、教育よりも研究を中心に置こなっている。学位研究員としての期間は10年以内だが、状況によって延長が可能。

『人類忠心』
男女の恋愛が希薄になり、出生率が下がる2200年の少し前ごろから、人類は戦争・テロを行わなくなった(最後のテロは2189年と記録されている)。また、凶悪犯罪が急速に減少していった。同時に法整備、移動技術の進歩により、交通・移動事故による死者はほとんどいなくなった。また、医療体制も行き届き。人の死因は老衰と自己終了(尊厳死)の2つが中心となっていた。
つまり、寿命まで人は死ななくなっていた(3200年で平均寿命は160歳 ※自己終了含む)。
その一方で体力ない幼少期の死亡率が一定数ある事は、この時代においても無くなることのない悲劇の1つであった。
簡単に生まれなくなり簡単に死ななくなると、その1つ1つの命の価値が上がる。人が人として生き、人として死ぬ。そのことに、全人類が共通して敬意を払う。そういうことが社会通念上、当たり前の認識になっていた。

『人と自然』
人は、居住区と工場区(農業・酪農含・漁業含む)、自然区(開放区と非解放区=国定区)を分け、人の手の届く範囲とそうでないエリアを分けて生きていた。

『チルドレン(共通育成教育施設)』
出生~20歳までは一貫して、各国が管理し育成・教育をする。
施設での集団生活となり親との面会は可能であったが、一緒に住むことは禁止された。
世界の合計特殊出生率(以後、出生率)は2未満であり、子は宝。相互監視と国の指導を導入し、ネグレクトや犯罪などから子供を守るよう、徹底的な管理体制が敷かれた。

『ウインドスクリーン』
モニターであり、光や熱を遮断できる窓。
透過したり、空気を通したりすることも可能。

『テキスト技術』
脳に入れられたチップを通じて情報を交換する方法。
視覚的には空中に情報が浮いているように、感覚的には脳裏に直接流れ込んでくるように感じる。
眼鏡型の外部機器で補うことも可能。
脳内チップにはキーロック機能があり、解除区画の情報のやり取りしかできないように、法令上もシステム上もしっかりとしたセキュリティの中で作動している。

『S・W・I・M  (Shallow Well Interchange Meeting:表意交換会議)』
テキスト同様、脳内チップを用いて人員間でネットワークをつなぐ方法だが、テキストに比べると、より深い意識の階層に入るため、リスク分配のためオフラインでの使用は禁じられている。(S・W・I・Mにおける、オフラインの禁止)
一対一の議論に用いられることが多い。複数名での使用も可能であるが、発信者が特定しにくくなる、外部に対する意識が切り離されるので、安全な環境で行うことが義務付けられている。(S・W・I・Mにおける、外的安全の確保)
また、没頭しすぎて飲食の時間を忘れるので、一定時間がたつとオンラインアラームが鳴り、さらに過ぎると、オンラインポリスより警告が来る。(S・W・I・Mにおける、使用時間の順守)

『シップ』
地上、水上、空中を移動できる船。
自動運転のように決められた領域内を移動するだけではなく、様々なところに移動が可能。
ただし、政府の免除を必要とし、公安による管理下に置かれての航行となる。
自動運転以外にも、AI補助付きの半手動による運航も可能。
国境を超える場合は、各管轄国の承認が必要。
大気圏内用と宇宙用があり、宇宙用は主要6国の承認が必要。



【1章まとめ読み記事】

https://note.com/pu_ukuleleguitar/n/n48198ece8add


【4つのマガジン】

https://note.com/pu_ukuleleguitar/m/mb3b7966bb1e1

https://note.com/pu_ukuleleguitar/m/m16a9dfdce32c

https://note.com/pu_ukuleleguitar/m/m247043760121

https://note.com/pu_ukuleleguitar/m/m8185ac482bf0


【連載開始前‐関連記事】

自分のオリジナル曲から小説の生まれた経緯と予告

https://note.com/pu_ukuleleguitar/n/n184f4da4333d


今回に向けて小説の勉強をし、大幅に直しました!

https://note.com/pu_ukuleleguitar/n/nc796b63bf2bc





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