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投薬療法と心理療法

 壊れた心を治す医療行為には、大きく分けて二つあるようだ。一つは、薬物療法。もう一つは、心理療法。現在の私の主治医は、心理療法を得意とする先生だ。先生は、心理療法を得意とするが、投薬も行っている。しかし西洋の薬剤だけに頼らず漢方を用いたり、同じ院内に複数の心理カウンセラーやマッサージ師などを待機させ患者の症状やその原因の種類によって彼らの施術を患者に対して処方している。心的外傷ストレス障害と解離性同一性障害を抱える私が受けているのも投薬ではなく、心理療法だ。

 今思えば、私が以前行って「何も治療することがない」と言ってきた心療内科は、投薬療法専門の医師であったのだ。「幻聴が聞こえる」「震えが止まらない」「眠れない」などの具体的な身体症状が出ている人に対して、その症状を緩和するための薬を出してあげるのがあのお医者さんの専門だったのだ。現在2018年。今の段階で心理療法を得意とするお医者さんは日本にはそれほどいない。基本的に日本の心療内科、精神科のお医者さんはこの投薬治療専門の人の数の方が断然多いようだ。

 薬の力はとても強い。私の友人で精神科に通いだした友人は薬を服用し始めてずっと薬を切らすことができない体になってしまったと言っていた。薬の服用の他に、楽になるからとマリファナやドラッグを使っていた子もいた。たまに会うと彼らの目はいつも虚ろで、ぼんやりしていた。笑い方もリラックスし、はつらつと腹の底から笑う感じではなく、ちょっと酔っている人みたいな感じでヘラヘラ、ニヤニヤ、ケラケラと笑った。私は自分も障害の苦しさを抱えて本当に日々藁をも掴みたい気持ちだったけど、彼女たちと同じ方法で苦しみを和らげる気にはどうしてもならなかった。彼女らが、あんまり幸せそうに見えなかったし、苦しみはまだそこに、彼女たちの中にあるのだということがありありと感じられたから・・・。

 幼少期に無力で逃げられない状況で暴力や虐待・いじめ・長時間にわたって否定的な言葉を浴びせ続けられるモラハラを受けたことがある人。その時のことが今も忘れられず何度も頭の中でリピートして苦しい人、自分に自信が持てなくて「どうせ私なんか」「私のせいで?」と自分の存在がこの世の中の迷惑であるように感じてしまうことがある人、支配してくる者(例えば親や配偶者)から離れたにもかかわらず、いつも似たパターンで誰か(例えば恋人や上司や友達や仕事仲間)に振り回されたり、支配されたりを繰り返してしまう人。・・・つまり私みたいな人は、投薬療法ではなく心理療法やカウンセリングを得意とするお医者さんを探すことをお勧めする。(お医者さんじゃなくても腕が良ければ民間のカウンセラーでもいいのだけど、お医者さんは保険が効くから。治療のために気楽に何度も通えると良いなということを考えると経済的な面でも「腕の良い心理療法のできる医師」は、巡り合うまでしつこく探し続けたら良いと思う。)

 私に今の主治医を紹介してくれた私の恩人である友人のお母さんも10年来のうつ病だったようだ。もともと友人のお母さんは、ずっと元気で4人の子供を育てあげ、仕事も婦人会の活動も精力的にやるような女性だった。それが、50過ぎて子宮ガンになり、子宮を摘出したあたりからホルモンのバランスが崩れて一気に鬱状態に突入。家事も来客に対応するのも、家の外に出ることさえ嫌になって、10年近く引きこもるようになってしまったのだという。10年間の間、全国の色々なお医者さんや治療機関を訪ねて様々な投薬や治療を受けたが治らなかったそうだ。そして10年目に出会った心理療法を行うお医者さんで初めて自分の過去やトラウマに向き合う作業をし、それを癒すための心理療法を受け、たった1年足らずでお化粧をして外出をしたりできるようになったのだという。そのお母さんもお医者さんに出会うまでの10年間の間に様々な薬を処方され服用してきたが、ボーっとして立ち上がれなくなったり、まっすぐ歩けなくなったり、無性に自殺したくなって道路に飛び出しそうな衝動が湧いてきたりと、薬の力にかなり振り回されたようだった。

 最近、私が知り合った束縛しすぎる母親との関係に苦しむ若い女の子も大学病院でたくさんの薬を処方され服用していたのだと言っていた。自分に似たものを感じた私が心理療法を専門とする自分の主治医を紹介したところ、薬の量もすごく少なくなったそうだ。彼女はその後仕事を見つけ経済的にも自立し、母親とも距離をとることにしたと晴れ晴れと言っていた。投薬治療専門医からたくさんの薬を処方されて服用していた頃は、「わたし頑張らなきゃ」「わたし変わらなきゃ」と言いながら、ただ自分の症状を抑えこんでコントロールしようと自分を押し込めるばかりで、苦しみの原因となる母親からの束縛に対しては、やられるがままだったようだった。彼女は、心理療法を受けたことによって内側から癒されて、強くなって、自分で自分を守れるようになったのだなと思う。これが本当の意味での「治る」「癒える」ということだろう。


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