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特級ファイナルご来賓インタビュー(2)町田樹さん

特級を応援してくださるご来賓の皆様の中から、町田樹さんにもお話を伺うことができました。

元フィギュアスケーターとして、オリンピックという大舞台で活躍された町田さん。ソチオリンピックでストラヴィンスキーの『火の鳥』を使われた演技や、名作として語り継がれている『エデンの東』での表現の美しさは、今も脳裏に焼き付いておられる方は多いことでしょう。

町田さんは現在、スポーツ&アーツマネジメント研究、身体芸術論等を専門分野とし、國學院大學人間開発学部 健康体育学科助教でいらっしゃいます。また近年、フィギュアスケートの振付家として、ショパンの生涯や音楽を研究の上、田中刑事さんのために作られた新作『ショパンの夜に』も話題となりましたね。
フィギュアスケートの芸術性を確かなものとし、完成された振り付けのプログラムを、継承されるべき「作品」として価値を高めていきたいと考える町田さんに、ファイナルのステージを聴いたご感想を語っていただきました。

4名の演奏を聞かれた直後に、お話を伺いました

「森永さん、神宮司さん、北村さん、鶴原さん、どのピアニストの方の演奏も、コンペティションという勝負の舞台であるにも関わらず、ある意味でそれを感じさせない素晴らしいステージでした。『勝ち負け』とか、『金賞』『銀賞』ということよりも、音楽の中に没入していく集中力のほうが前に出ていて、純粋に、音楽にどう奉仕するかということを、ひたむきに考えて今日の舞台に臨まれたんだなということが、ひしひしと伝わってくる演奏で、大変感激いたしました。

コンクールのステージでは、演奏前にピアニストの名前がコールされて、ステージに出て、終わったら袖にはける。演奏直前にはおそらく指先のウォームアップなどをしているでしょうし、演奏直後には緊張感から解き放たれていることでしょう。その一連の過程は、アスリート、とくにフィギュアスケーターとほとんど共通している流れです。

私も20年ほど競技者としての経験がありますので、共感する部分がありました。

『勝ち/負け』や『失敗/成功』や『得点』、そういうものに心が囚われた瞬間に、いいパフォーマンスはできなくなります。そこを凌駕するほどに、自分は作品に奉仕するために存在しているのだという感覚があるかないか。つまり、作品に純粋に没入することで、何人(なんぴと)にも侵すことのできない領域が、その人の精神の中にも外にも立ち現れるのです。今日の4名の演奏は、どなたもその不可侵のフィールドがしっかりと作り上げられていたと思いましたし、だからこそファイナルまで残ってこられた方々なのだなと感じました。

一方で、単に作品の中に没入するというだけでなく、協奏曲はやはりオーケストラとの共演でもありますから、共演者との意思疎通、"one for all , all for one"の精神で弾かれているのも、とてもよく伝わる、そんなコンペティションだったと思います。

今日私はサポーターという立場で応援をしに来たにも関わらず、大いに刺激をいただきました。私もまだ若輩者ではありますが、若いピアニストのみなさんが芸術に没入して自分の世界を作りあげるその勢いに刺激を受けたのです。私もまだまだ止まってはいられないな、と逆に背中を押され応援していただいたような4時間でした。

とくにこのピティナのコンペティションは特級のみならず、多くの級に何万人もの方々が出られています。自分の培ってきたものでパフォーマンスをするというのは、精神も肉体もぎりぎりのところで臨まれていると思います。
コンクールに挑戦するのは、『落ちる』『負ける』といった経験にもつながるので、本当に勇気のいることですから、ひたむきに頑張ってこられた、すべてのピアニストに最大の敬意を表したいと思います。皆さんのご活躍を心から応援しています」(町田さん)

第一線で厳しい競技生活を長きわたり経験されてこられた町田さんならではの、深く優しく美しい言葉に感動が止まりません。町田さん、ありがとうございました!

(取材・撮影/飯田有抄)


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