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バルセロナ市内の町クラブで実際に見た保護者のサイドコーチング

日本では、保護者のサイドコーチングについて問題になっている。保護者のサイドコーチングとは、練習や試合を見ている保護者が、指示を出したり、ダメ出しをしたりすることである。サイドコーチングとは本来、指導者がする仕事であり、保護者のすることではない。外から見ていて、あーだこーだ言いたくなる保護者の気持ちはすごく分かるが、ここは指導者に任せてほしいというのが指導者側の意見である。保護者としては、分かっているけど口を出したくなってしまうというのが本心だろう。


保護者のサイドコーチングはなぜ問題なのか

保護者がサイドコーチングしたくなる気持ちは分かる。しかし、指導者と保護者、両者からの指示は選手を困惑させてしまう。両者のコーチングが異なる場合、選手はどちらのいうことを聞けばいいのか分からなくなってしまう。選手の年齢が若いほどこのような困惑は頻発してしまう。また、サッカー経験が浅い若い選手ほど、周りの声に従順になるため、自主性を失い、創造的なアイデアを奪われてしまう。サッカーの最も楽しい部分を若いうちに奪われてしまうとサッカー自体を好きじゃなくなってしまう恐れがある。育成年代の選手は大人の操り人形ではない。正しい知識を持った人間(=指導者)が、選手に合わせた最適なコーチングをかけることができる。保護者はサッカーに詳しいだけ、または目の前に見えてる状況に詳しいだけで、サッカーの指導に詳しいわけではないだろう。それならば、指導の部分は指導者に任せるべきなのである。

保護者はどうしたらいいか?

環境を与えてあげる

指導者の指導に満足いかず、口を出したくなるなら、優れた指導者のもとに子供預けるべきだろう。自分が何も言わなくても勝手に育つ環境を与え、伸び伸びプレーさせてあげることが保護者にしかできないことである。また、子供が指導者を怖がったりサッカーが楽しくないと感じている場合も、新しい環境を与えてあげるということが保護者にしかできないことである。

ポジティブな声掛け

選手というのは、ミスをしたり、指導者に厳しいタスクを与えられたりすることがある。それにより、選手によってはメンタルが落ちてしまうことがある。そういったときに、保護者からのポジティブな声かけが心の拠り所になる。もしここで、保護者が選手のミスを指摘したり、ネガティブな言葉を与えたりしてしまうと、選手のメンタルはさらに落ちてしまう。指示をせず、ダメ出しもせず、環境を与え、ポジティブな声をかけてあげることが保護者にしかできないコーチングなのである。例えば、試合中なら「ナイス!行けるよ!素晴らしい!」というような声、試合後なら「試合どうだった?どこが上手くいった?お疲れ様」というような声かけが選手の心の拠り所になる。

バルセロナ市内の町クラブで実際に見た保護者のサイドコーチング

現状

選手の育成に力を入れているバルセロナでは、さぞ保護者のサイドコーチングへの理解があるのだろうと期待していた。しかし、それは期待外れだった。試合中は保護者の声が鳴り止まない。日本とは盛り上がり方が全く違った。「ここに出せ!」とか「急げ!」とか指示の声が大ボリュームで出る。審判のジャッジや相手のファウルには大きな声で不満を表す。選手の良くないプレーには大きなため息が出る。ただ、良いプレーに対しては全力で褒める。スタジアムでプロの試合を観ている観客のようだった。試合終了後には、保護者から私に「なぜフォーメーションを4-3-3に変えないのか」だとか、「攻めないと勝てないだろ、いつまで守備的に戦っているんだ」だとか、色々主張された。

スペインにいる指導者の特徴

スペインにいる指導者は、めちゃくちゃ情熱的だという日本との違いを感じた。保護者も指導者もサッカーに対して情熱的だという共通点があった。日本にも情熱的な指導者は存在するが、スペインではそれが普通だった。練習中は声を荒げるし、身振り手振りを使って指導していた。試合中に関しては、ベンチに座っていることはほぼなかった。一見、怖い印象を受けるかもしれないが、選手はどう思っているのだろうか。保護者と指導者について選手にインタビューをしてみた。

U-13の選手にインタビュー

私からの質問①〜③👇
①ご両親はあなたにサッカーについてアドバイスをくれますか? もしそうなら、それは嫌なことだと思いますか?

②試合中に観客の指示に戸惑ったことはありますか?

③コーチが怖くてトレーニングに行きたくないことはありますか?

選手Aの回答
①両親は私にサッカーのアドバイスをしてくれますが、それは私が選手として上達するためだと思います。

②私は観客の指示ではなくコーチの言うことを常に聞き、そうでない場合は自分が最もやりやすいと思うことをするので、戸惑ったことはありません。

③トレーニングを欠かしたことはありません。なぜなら、それは私がやりたいことであり、コーチはチームの中で最も重要な役割を果たしていると信じているからです。彼らは通常とても歓迎してくれるので、怖いと思ったことは一度もありません。

選手Bの回答
①両親は改善するためのアドバイスをくれますが、それは嫌なことではありません。

②観客の声に戸惑ったことはありません。試合をしているときは、試合に集中しているあまり、人の話を聞いていないことがあります。人が何と言おうと気にしません。

③コーチが怖くてトレーニングに行きたくないと思ったことは決してありません。

選手Cの回答
①両親はアドバイスをくれますが、嫌なものではありません。

②観客の指示に耳を傾けません。コーチの指示だけに耳を傾けます。

③コーチを恐れたことはありません。

考察

私がインタビューできた3名については、保護者からのアドバイスをありがたいこととして受け入れていた。試合中については、自分のやるべきことを理解し、観客の声を気にしていないようだった。指導者に対してもリスペクトを持ってサッカーに取り組んでいることが分かった。そして、最も驚いたことはインタビューに対して、ハキハキと自分の考えを述べられることだった。これはほとんど全てのスペイン人に共通していた。練習中も指導者と対等に話し、指導者からの一方的な指示になっていなかった。恐らく、日常から保護者とも上手く対話し、良い関係を築いているのではないかと思った。

しかし、スペインの指導者に聞いた話によると、保護者のサイドコーチングによって、試合中ピッチで固まってしまう子供がいたり、最悪サッカーを辞めてしまう子供がいたりするという現実も日本と同じように存在するそうだ。

改めて、日本の保護者にできることは、普段から子どもと対等に会話をすることだと考える。バルセロナ市内の町クラブの選手が指導者と対等に話し、保護者のサイドコーチングを嫌がらないという実状は、普段から保護者と対等なコミュニケーションを行い、子供の不満が溜まらないからではないかと考える。

保護者のサイドコーチングに対する対策

バルセロナ市内の町クラブにはコーディネーターという総監督的なポジションが存在する。コーディネーターの仕事は、チームの大きな方針の決定、選手獲得、各カテゴリーの問題解決などのような総合的な仕事を担っている。その仕事のひとつに、保護者と指導者の仲介という役割もある。保護者のサイドコーチングをやめさせるのは指導者ではなく、コーディネーターだそうだ。指導者と保護者の感情的なやりとりを防ぎ、コーディネーターを挟むことで客観的な問題解決に導くことができる。指導者も保護者も守られるこのような仕組みは日本でも取り入れることができるだろう。

選手と保護者たちとパシャリ。コーラおごってくれました(笑)

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最後までお読みいただきありがとうございました!

自己紹介

●氏名:島澤一杜(しまざわいっと)
●学歴:市立浦和高校→東京都立大学 卒業
●出身:福岡生まれ埼玉育ち
●好きなサッカーチーム:浦和レッズ、アビスパ、マンチェスターシティ
●最近ハマってること:太鼓の達人
●サッカー経歴
・沼影SSS→FC FESTA→内谷中サッカー部→市立浦和高校サッカー部→ランゲ浦池(埼玉県3部)
・クーバーコーチングサッカースクール浦和校卒
・浦和レッズjr.アカデミー選抜
・メトロポリタンリーグ(関東リーグ)出場
・高校サッカー選手権埼玉県ベスト8メンバー
・社会人サッカーチームランゲ浦池キャプテン
●Twitter: @it_rangeuraike


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