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「生きづらさ」にどう対応する?相談援助業務とキャリアコンサルタント制度

2016年から丸8年近く、このキャリア相談の世界に浸かってきました。
その中で感じてきた大きな問題点の一つについて、思うところをお伝えしています。

キャリア相談界隈の問題点:多様な「生きづらさ」への理解と対応スキルが養成課程に含まれない

先日、自分自身が平成16年から約20年間経験してきた、(キャリアコンサルティング以外の)ひとり親家庭自立支援や自殺防止相談、児童虐待相談、学校教育(児童・生徒やその保護者の悩み)相談を振り返って、どんな悩みが多かったか、軽い気持ちで書き出してみました。

そうすると、少なくとも私の経験上、悩みはその「生きづらさ」の影響度の高低(強弱)で大きく分けられることに気づきました。

「生きづらさ」とは?

例えば「片付けられない」の程度がひどいと、探し物をするだけで毎日数時間が過ぎてしまい、遅刻はもちろん、納期や提出期限に間に合わないなど、現代日本社会で「普通に生きる」だけでも、非常にキツくなってしまうことがほとんどです。

定刻や納期といった「期限」に間に合わない人だと周囲に認識されてしまうと、他者評価が下がるのはもちろんですが、自己評価(自己肯定感・自己効力感)も大きく低下してしまいます。

そのため、「自分なんてゴミクズだ」「生きていても仕方ない」「生きていても他人に迷惑をかけるだけ」「何をやってもムダ」などのネガティブ思考が常態化し、抑うつ状態に陥ることも珍しくありません。

しかし、これを他人が理解し、適切な支援が提供されるケースは非常に少なく、通常は「甘え」「なまけ」「やればできる(やっていないだけ)」と非難されてしまうことがほとんどです。

その結果、自己評価と他者評価の双方が低下し、社会的に孤立している(またはしやすい)状態…

これが私の考える「生きづらさ」です。

では、どんな悩みが「生きづらさ」に影響しやすいのか、細かく分類するのは面倒なので、思いついた順に書き出したまま、転記します。

「生きづらさ」への影響が高い悩み

・多動
・先延ばし
・片付けられない
・HSP
・学力低迷(学習努力が報われない)
・癇癪
・暴言や暴力、各種ハラスメントが止まらない(又は受けている。いじめを含む)
・こだわり、とらわれ
・偏食
・拒食
・過食
・痛み(疾患に由来するものなど)
・トラウマ(PTSD)
・パニック
・起立性調節障害
・うつ
・強迫観念
・幻聴
・解離性人格障害
・不眠
・過眠
・PMS
・どもり、赤面、あがり症
・不安
・無気力
・飽き性
・容姿等劣等感
・親からの過干渉
・依存(ゲームや異性、アルコール等)
・アレルギー

などなど、また思い出せば追記しますが、こういった悩みが「生きづらさ」に大きく影響することはご理解いただけるかと思います。

そして、現実の相談実務ではこれらの悩みが複合して「主訴」となることが一般的です。

例えば「親から友人関係への干渉がひどく、女性の友人ができなかったこともあり、職場で女性との適切な距離感が分からず、トラブルからアルコール依存になってしまった結果、職も失い今後の不安からうつと診断されている。今後の就職をどうしたらよいか」という感じですね(分かりやすくするため、ちょっとモリモリにしていますが…)。

「生きづらさ」への影響が低い悩み

上記に対して、「生きづらさ」への影響が比較的低い悩みもあります。同じように、思いつくまま書き出してみます。

・複数からのオファー(複数の大学・学部に合格した、複数の会社に内定した等)
・愛情が無くなった相手との今後(離婚等)
・復縁
・「名づけ」トラブル(子どもの名前についての悩みは非常に多い)
・義両親や友人、近隣との付き合い
・ノウハウ的な悩み(就活の仕方が分からない、勉強の仕方が分からない、子育ての方法が分からない等)
・配属やクラス替えが希望どおりにならない

こういった感じでしょうか。

キャリアコンサルタント養成課程で取り扱う悩みは、「生きづらさ」への影響が低い悩みがほとんどである

さて、悩み(主訴)における「生きづらさ」への影響について、例を挙げてみましたが、キャリアコンサルタント試験、特に実技(面接・論述)試験では、この「生きづらさ」の影響が低い悩みしか取り扱いません。

実際に、2級キャリアコンサルティング技能士の面接ロールプレイ試験で出題される事例を見てみます。

下記は、第32回2級キャリアコンサルティング技能士試験の面接ロールプレイ試験で出題された事例です。

出典:キャリアコンサルティング協議会キャリアコンサルティング技能士サイト

いかがでしょうか。

このように、いわゆる【ライフステージ上の「節目となるキャリア選択」の悩み】に対する相談援助スキル、これがキャリアコンサルタント(キャリアコンサルティング技能士)養成及び試験での評価対象となっており、【「生きづらさ」とその原因となった悩み】に対する相談援助スキルは、まず出題されることはありません。

もちろん、現在の養成課程制度や試験制度下で「生きづらさ」までを試験範囲に含めることは、不可能に近いことも事実です。

しかし、コーチングや一部の社内面談(1on1など)を除き、「生きづらさ」が相談の多くを占めるのが現実の相談援助です。

「生きづらさ」への知識や理解が不十分なまま、現場にデビューさせられてしまうキャリアコンサルタント制度では、対応するキャリアコンサルタントにとっても、またクライエントにとっても、良い制度とは言えません。

キャリアコンサルタント国家資格化から10年、今後は「生きづらさ」への対応を。


キャリアコンサルタントが国家資格化されてから、10年を迎えようとしています。

厚労省では、現在の1級キャリアコンサルティング技能士の上位資格として、SV(スーパーバイザー)制度の導入がほぼ確実視されている状況と言われます(既に導入決定されている場合はご容赦ください)。

しかし「生きづらさ」は、これまでの養成課程・試験で問われてこなかったテーマであり、現行制度で研鑽されてきた多くのキャリアコンサルタントにとっても、未知の領域となります。

初期からキャリアコンサルタント養成に関わってきた一人として、この「養成課程(及び試験)と実務との乖離」が少しでも解消され、「生きづらさ」への相談援助に対応しうるキャリアコンサルタント制度となることを願ってやみません。

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