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診療とガイドラインの動向

診療とガイドラインの動向
松村剛
JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATION
第31巻・第2号(通巻365号)・2022年2月号 P114-120

Key  Words:筋ジストロフィー、リハビリテーション、診療ガイドライン、運動機能評価、サイバニック治療

【アブストラクト】

Ⅰ.筋ジストロフィー医療の全体像

 筋ジストロフィーとは、「筋繊維の変性・壊死を主病変とし、進行性の筋力低下を見る遺伝性疾患」である。

骨格筋に加え平滑筋や心筋も障害され、進行するからことで運動機能障害はもちろん、呼吸機能障害(呼吸不全)、心筋症(心不全・不整脈)、嚥下障害等が現れ、生命予後に影響する。

また一部疾患では、中枢神経障害や全身的合併症を伴うことでQOLや社会参加が影響される。遺伝性疾患である側面もあり、疾患受容や生活設計・家族計画等、患者はもちろん家族への影響も大きいことは考えられるが、現時点での根本的な治療薬はまだない。

 近ジストロフィー医療において症状の治療も重要であるが、精神面でのサポート、進行により起こりうる機能障害・合併症への集学的ケア、社会活動、 QOL向上への介入も重要である。

 リハビリテーション介入については古典的には、一次性障害の筋力低下に対する筋力強化、拘縮・変形予防、移動能力確保、二次性肺障害予防、嚥下訓練・栄養管理、IT・意思伝達・社会参加支援、環境調整等、社会的不利解消を診断直後からターミナルまでに介入、ADL・ QOLの維持拡大、生命予後改善に関係する。

Ⅱ.筋ジストロフィーにおける診療ガイドラインの意義

 筋ジストロフィーは希少疾病であり、一般病院では症例数も少なく、医師の習熟は困難であり、医療課題や経過、支援制度・体制等の背景疑問の情報提供や、エキスパート・パネルの回答が得られる意義は大きく、ガイドラインを通して疾患の全体像や医療課題や浮き彫りになることで、専門医療機関との連携が潤滑となる。

また、新規治療薬開発の発展にも寄与しており、新規治療の有効性や安全性は、標準的医療を受けた状態で評価する必要があり、標準的な医療の均霑化には重要である。

Ⅲ.デュシェンヌ型筋ジストロフィー診療ガイドラインとその有用性

 筋ジストロフィーの代表疾患であるデュシェンヌ型(DMD)は幼児期に発症し10歳前後で歩行不能となり、10代で呼吸不全・心不全を呈する。20歳未満での死亡例も多かったが、人工呼吸法や心筋保護治療の普及で生命予後は著しく改善したが、それに伴い健康状態維持とADL・QOL向上が必要となっている。

 DMD診療ガイドラインは、総論、診断・告知・遺伝、検査・機能評価、リハビリテーション、ステロイド治療、呼吸ケア、心筋障害治療、整形外科的治療、麻酔・鎮静、食関連のケア、心理社会的ケアで構成され、リハビリテーションの項目では適切な運動量、関節可動域訓練の早期実施、過度な筋力増強訓練の防止、装具・環境調整、 QOL向上に向けてのアプローチ、呼吸理学療法等が取り上げられている。

Ⅳ.筋強直性筋ジストロフィー診療ガイドラインとその有用性

 筋強直性(DM)は筋ジストロフィーの中でも患者数が多く、出生時から重篤症状を呈する先天型、自覚症状が乏しく生活を過ごす軽症型までの発症年齢や重症度の幅が広い。

 DMガイドラインでは疾患の基本情報、診断・遺伝相談、機能評価・検査、合併症評価、社会支援・制度が総論で述べられ、各論では、運動機能障害・リハビリテーション、呼吸障害、心臓障害・不整脈、嚥下障害・消化管・歯科学的問題、中枢神経障害、代謝障害、その他合併症、周産期管理・先天性患者、麻酔・外科的処置で構成されている。

その中でリハビリテーションに関連するものでは、運動時の注意点、リハビリテーション報告、福祉用具・環境整備、呼吸理学療法があるがエビデンスが乏しく、呼吸理学療法以外は推奨ではなくBQとしている。

 また医療関係者のみでなく、患者側への情報提供を行うことが標準的医療の普及に繋がる。診療ガイドラインはそのための役割も担っているが患者側がこれを理解することは難しいため、ガイドラインを基に誰もが入手可能な一般書籍として刊行されている。 

Ⅴ.診療の標準化、均霑化についての問題点と展望

 筋ジストロフィーの新規治療薬の開発も進んでおり、心肺負荷を増大させない工夫も必要で薬物療法とサイバニック治療の併用、ウェアラブル端末を用いた運動量評価、心機能障害への早期治療等に取り組む必要がある。

【勉強となった点】

 筋ジストロフィーは運動機能障害に加え、呼吸機能障害、心不全、嚥下障害を伴う、中枢神経障害やさまざまな合併症を呈しているが、今日までに根治的治療法は確立されておらず、病型、症状進行、社会的側面を理解し治療に臨む必要がある。

しかし専門院以外では目にすることも少なくなるため、診療ガイドラインの普及による標準的医療の拡大と担保が必要であることがわかる。

【最後に一言】

 根治的治療法が確立されていない分野であり、このような症例を担当する際には多くのセラピストが頭を悩ませるのではないでしょうか。私自身も知識では病態を理解しているが、実際に介入したことはなく、今後の臨床において非常に役立つにようであった。一人でも多くの人に診療ガイドラインの有効性を周知してもらい、医療の均霑化が進んでいくことを願っています。

執筆:本多竜也

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