平凡に憧れを抱いて
この世界は魔法が使える世界。
もちろん自ら炎を出すことも水を出すこともできる。
夢描いた人も多いだろう。
だが魔法にはそれぞれの個体差があり、通常の火の玉でさえ出すことが難しい者もいる。
その個体差は魔力値で決まる。
魔力値が高ければ高いほど、優秀とみなされ国のために戦う魔力団として加わり国を守る英雄とされる。
皆はこれを目指し魔力学校に通い魔力値を鍛える訓練をする。
そんな世界で、ただただ平凡を夢見た1人の少年の話。
ガチャ
森の外れの小さな家の扉が開いた。
「よかった。今日は天気がいい…」
扉をあけながら外の天気を伺う一人の少年。
髪は白銀、目はうっすらとグレーに近いが、
日差しが目に反射してたまに緑色になる。
「んっ〜、、、」
少年は腕を空の方へ軽く伸びをする。
昨日はひどい土砂降りだったが一転して太陽が雲から覗いてる。
樹雨がキラキラと輝いて落ちてくる。
空気がスッと澄んで気持ちがいい…。
「さて、洗濯洗濯」
腕の袖を捲り上げ洗い場へと向かうこの少年、ライアは、平凡な暮らしを夢見ているため自身の高い魔力値をかくしながら生きてきた。
魔力値が高いだけで国の奴隷になるのは嫌だ。
魔力が高いお父さんは僕が生まれてから2.3度しか会えていない。
お母さんは体が弱く最後は僕が看取った。
お父さんに連絡する手段もなく手紙を送っても返信もない。
まず、届いていないのであろう。
そんな国を守りたいなんて一度も思ったことがない。
平凡な暮らし本当に、平凡でいい。
魔力値が高いことはお母さんと僕だけの秘密だった。5歳になるとある程度の魔力値が安定していくため魔力値を測るために小さな水晶の塊を渡されそこに魔力をそぞきこむ。
すると水晶はみるみる大きくなりその大きさで魔力値を測るやり方だ。
一般的な大きさはせいぜい拳ぐらいの大きさ。
だが、僕は5歳にして自分の頭身ぐらいの大きさまでに水晶が大きくなった。
お母さんはすぐに魔力学校へ入学するべきと言われたがお母さんと暮らしたいと説得したら許してくれた。
渋々ではあったが、お母さんも自分の体のことはわかっていたのだろう。
魔力学校は必ず行かなければならない。
国の方針であり、義務教育のようなものだ。
入学するには決まった年がありその都度入学できるようになっている。
「そろそろ行かないと」
洗濯物を出し終えお母さんの叔父に会いに行く。
お母さんが亡くなってもう2年。
お父さんとの連絡も取れず1人で生活していたが、
叔父のニーマンが僕を快く引き取ってくれた。
お母さんとの思い出が詰まった家を出る勇気がなかった為ニーマンはこの家にいることを許してくれた。
絵を描くことが得意なライアは叔父が画家をしており、その助手で働いていた。
身支度を終え早足で叔父のアトリエに行く。
年は16にもなった。
17で魔力学校に通える年にもなる。
いろいろな不安がよぎり頭の中で悶々と考え事をしていた。
「どうしようかな…」
ぼそっとライアの口からこぼれた言葉にニーマンが振り返る。
「どうしたんだい?」
ハッと我に帰るライア。
「すっ!すみませんなんでもないです!!」
しまった、仕事中だった。
ライアは首を横に何度か振り、先ほど浮かんでいた思いを消し去ろうとした。
「何か悩み事があるなら言ってごらん。」
少ししゃがれた優しい声で目を細めながら言った
ニーマンは僕にとって第二の親みたいな存在だ。
ニーマンは博識でありお父さんと同じ魔力値が高い人でもある。
この人は自分の本当の魔力値を隠しながら生きている。
1人で抱える問題ではないと思ったライアは意を決して相談することにした。
「その…僕は来月で17になります。魔力学校に入るべきか悩んでいまして…。すみません仕事中に」
ライアは持っていたキャンバスを壁に立てかけ頭を下げた。
ニーマンはうーんと唸りながら手についた絵の具をぬぐい。こちらに体を向けていった。
「ライアはどうしたいんだい?」
まっすぐライアを見る目は陽の光が少しはいり、とても綺麗なエメラルドに変わった。
お母さんと同じ目だ。
「正直…まだ何も決まっていないんです。この仕事は続けたいけど魔力学校に入ってなければ安定した職にも就けなくなる…。でも、一番怖いのは」
最後まで言い切ったところでニーマンが口を開いた
「“魔力値“の問題だね」
ライアは俯き首を縦に振る。
魔力値が人より高いことがばれれば戦場行きだ。そんなの死に急ぐようなものだ。
お父さんもきっと…
「ライア」
名前を呼ばれて顔を上げる
「魔力値の抑えかたを教えてあげよう。だから学校には必ず行きなさい」
手汗をかいたライアの手を両手で支えてくれた。
冷たくて、気持ちいい。
「魔力値の抑え方ですか、、、?そう言ったものが本当にあるのですね」
「自分で抑えることもできるがとても難しい。だがライアなら半年で学ぶことができるだろう。
やってみるかい?」
「も、もし抑えることができなかったら…」
弱気なライアの発言に細く笑みをこぼすニーマン。
「ライアならできるよ。私の大事な甥っ子だから来年の4月には通えるようになるよ。」
ニーマンは懐から小さな水晶を取り出し
ライアの手の中におく。
ライアの手を包むようにニーマンが魔力を注いでいく。
手全体から暖かい光を感じた。ニーマンの魔力だ…心地がいい。
コロンと手の中で転がってきたのは拳より小さめの水晶。
「これが…ニーマンの魔力値…?」
「本当の魔力を出すとこの小さな家が潰れてしまうからね。」
ニコッと笑うニーマンはイタズラを考えているかのような子供のような笑顔だった。
「ニ、ニーマン怖いですよ…。」
ライアの苦笑いに
アハハと笑うニーマンの笑い声がアトリエに響く。
続く