叡 Ei Takahiko / Marisa

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「菊慈童」返信1/前世の記憶で繋がるふたりの往復書簡

愛する毬紗さん 『菊慈童』、事前に解説して頂き堪能できました。ありがとうございます。 実際に鑑賞すると、謡本を読み通しただけでは掴みきれない魅力が詰まっていますね。舞台芸術はやはり一期一会、生の舞台を体感しないと。 この能楽を楽しむ上で鍵となる、穆王(ぼくおう)が護身として慈童に伝授した、法華経の以下の二句、  慈眼視衆生(じげんししゅじょう) 福聚海無量(ふくじゅかいむりょう) 私なりに簡約すると、「生きとし生けるものを大切にせよ、そうすれば福が広大な海のように集

    • 「生き写しを求める愛」『源氏物語』の愛を読む—前世の記憶で繋がるふたりの往復書簡

      愛する毬紗さんへ 新緑の季節の高野山は、生命の気が溢れる別天地だったのではないかと察します。あの加持祈祷の凄まじいほどの熱量は、六条御息所の怨念を体感するのに打ってつけですね。少し恐くはありますが、一度は経験してみたいです。ぜひ次の機会はご一緒に。タルトタタンの恨みの方が恐かったりして(笑)。 桐壺帝の孤独は、紫式部自身、夫と結婚後三年もせずに先立たれ、娘を一人で育て上げなければならなかった孤独と重なります。道長の手引きによる宮仕えで見たのは、藤原氏の権力のもとで自主性が

      • 「菊慈童」/前世の記憶で繋がるふたりの往復書簡

        愛する敬彦さん 中国の乞巧節(きっこうせつ)である七夕の日に、同じく中国の伝説をもとに創作された能楽「菊慈童」をご覧になるとは、浪漫あふれることですね。 「菊慈童」は、周の穆(ぼく)という王に寵愛された侍童の慈童が、王の枕を跨いだ罪で宮中を追い出され、山奥へと流刑された物語です。荘厳華麗な暮らしを与えられた幼い童が、雨露をしのぐ術も持たぬまま形影相弔の身となる。なんて寂しいことでしょう。 物語はその慈童が、魏の国の文帝に支える廷臣たちの前に、七百年の歳月を生きた不老不死

        • 「帝の孤独と愛」『源氏物語』の愛を読む—前世の記憶で繋がるふたりの往復書簡

          愛する敬彦さん 先日の青苔の美しい高野山詣では、密教の加持祈祷を間近で拝見し、不動明王と炎が渾然一体となる祈祷のパワーに圧倒されました。 真言呪を唱える僧侶の声の、なんと力強いこと。 あのエネルギーにも屈しない六条御息所の念を考えると、光への恨みも愛も相当に深かったのだと想像してしまいます。 もしも私が敬彦さんに恨みを抱いたら、どうなるでしょう…… うーん、「1人で美味しいタルトタタンを食べてしまわれた」程度のことしか思い浮かびませんでした。(それは結構長く恨むかも) 真

        「菊慈童」返信1/前世の記憶で繋がるふたりの往復書簡

          「美しい女を手に入れる罪②」『源氏物語』の愛を読む—前世の記憶で繋がるふたりの往復書簡

          愛する毬紗さんへ ご返信ありがとうございます。 毬紗さんからの影響を受け、能楽への関心度が高まっていますので、ぜひそのうち『班女』はご一緒ください。 来世でも二人が出会い共に暮らせるよう、狂女のごときその愛を目に焼き付け、あなたを見失わないためにも。 桐壺帝に対する男性からの嫉妬は、私には気付かない視点でした。 生まれながらにして地位と権力が約束された天皇という存在に敬いの気持ちは持ちつつも、周りの公卿たちは内心どう思っていたか想像は膨らみますね。 源氏物語のストーリー

          「美しい女を手に入れる罪②」『源氏物語』の愛を読む—前世の記憶で繋がるふたりの往復書簡

          「美しい女を手に入れる罪①」『源氏物語』の愛を読む—前世の記憶で繋がるふたりの往復書簡

          愛する敬彦さんへ 能楽『班女』の舞台へ、いずれご一緒に参りましょう。 遊女花子(はなご)の物狂いの舞は、面(おもて)のお貌がせつなくて。 愛する人への想いを重ね続けることを、物狂うというのならば、私も敬彦さんを狂女のごとく、前世より深く想いつづけています。 きっと来世も。 夕顔と月の扇は、今世で再び結ばれる約束の印。 『源氏物語』では夕顔の死に際して淡白にみえる惟光の役割を、扇の裏表ひらりと返すように、縁を結ぶ使者に擬えるとは。 敬彦さんのお考えに嬉しくなりました。 ご一

          「美しい女を手に入れる罪①」『源氏物語』の愛を読む—前世の記憶で繋がるふたりの往復書簡

          「運命の女性を苦しめる愛③」『源氏物語』の愛を読む—前世の記憶で繋がるふたりの往復書簡

          愛する敬彦さんへ 愛と権威に身動きがとれない帝の悲哀が切々と伝わるお返事を、ありがとうございます。 桐壺の更衣も、父親の強い希望で宮中に参内し、慣れない環境のなかで苦しみを味わいました。 帝も自分の意志を通せない、更衣と似たような境遇であったと、お返事を読んでいて胸が苦しくなりました。 敬彦さんに記していただいた、ここです。 宿命を背負うふたりには、それを越える課題があったのではと現代の私は考えてしまいます。 私たちも、過去のしがらみやトラウマから解き放たれなければ

          「運命の女性を苦しめる愛③」『源氏物語』の愛を読む—前世の記憶で繋がるふたりの往復書簡

          「運命の女性を苦しめる愛②」『源氏物語』の愛を読む—前世の記憶で繋がるふたりの往復書簡

          愛する毬紗さんへ 『源氏物語』について、手紙を交わしながら深く読み進めることをご提案くださりありがとうございます。 私たちは前世以前からよく手紙を交わしていましたね。 今世で再会したきっかけはネットでの交流でしたが、手紙のことは少し気にかかっていました。 今までふたりの心を結び付けてきた絆を通して、再び心を通わせることはとても自然な流れ。 ふたり揃っての文学好きは今世でも変わりませんね。 なぜ私たちが再会できたのか、この長い物語を通して何かが見えてくることを期待しましょ

          「運命の女性を苦しめる愛②」『源氏物語』の愛を読む—前世の記憶で繋がるふたりの往復書簡

          「運命の女性を苦しめる愛①」『源氏物語』の愛を読む—前世の記憶で繋がるふたりの往復書簡

          愛する敬彦さんへ 私たちの前世の書簡をみつけて、 「私たちも手紙を交わし、その真似事をしてみましょう」 との提案をお受けくださり、ありがとうございます。 敬彦さんと『源氏物語』を細やかに読んでみたいのです。 緑豊かな庭園に座り、心置きなく、おしゃべりをするように。 私たちが再び出会えた理由を知る心の旅を、ともにしたいと考えたからです。 敬彦さん、私たちはなぜ、再び今世で出会ったのでしょうか。 以前に敬彦さんが 「私たちはなぜ再び出会ったのかと、考えることがあります」 と

          「運命の女性を苦しめる愛①」『源氏物語』の愛を読む—前世の記憶で繋がるふたりの往復書簡