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「運命の女性を苦しめる愛②」『源氏物語』の愛を読む—前世の記憶で繋がるふたりの往復書簡

愛する毬紗さんへ
 
『源氏物語』について、手紙を交わしながら深く読み進めることをご提案くださりありがとうございます。

私たちは前世以前からよく手紙を交わしていましたね。
今世で再会したきっかけはネットでの交流でしたが、手紙のことは少し気にかかっていました。
今までふたりの心を結び付けてきた絆を通して、再び心を通わせることはとても自然な流れ。
ふたり揃っての文学好きは今世でも変わりませんね。
なぜ私たちが再会できたのか、この長い物語を通して何かが見えてくることを期待しましょう。
 
それでは『桐壺』から。
先日お話しましたように、私は桐壺帝の行動や生き方に、あるもどかしさを感じていました。
更衣の病や子を残して他界する不幸への悲しみと嘆きは理解できるものの、帝自身の考え方・生き方の幅がまだ小さくて、更衣が直面する試練を和らげるように関われなかった。
それは帝の責任ではなくて、宮中のしきたりや暗黙のルールといった、物理的にも精神的にも閉じた世界の中で生きざるを得なかったから。
帝という立場の宿命のようなもの。
そして当の帝自身は、そこから何か救いを求めていたのかもしれない。
 
更衣の心情が込められた歌、

限りとて  わかるる道の悲しきに 
いかまほしきは  命なりけり

からは、更衣も帝を愛していた、二人で過ごす時間は限られていて、とても大切でお互いを愛おしんでいたことが伝わってきます。
更衣からは立場上言葉にはできなかったのかもしれませんが、帝を愛しつつ、彼女も助けを求めていました。
 
帝は更衣を心から愛していた、運命の人と信じていた、しかしその彼女の心の痛みを感受はしても、その先に起こるであろう事態に対して寄り添いケアすることができなかった。
帝は更衣の死を経て、何かが変わったでしょうか。
若君は残されたけれど、その子はある宿命を持っていて天皇にはなれない。
「無常」と「宿世」に抗えない。
桐壺帝は結果的にこの抗えない世界の中から出ることはできなかった。
 
毬紗さんが感じ取られた、
「この人こそ、救われなければならない」
という思いには共感します。
私はお互いが救いを求め、お互いに相手が救われなければと思っていた、とも感じます。
それは言い換えると、「前世から愛し会うことを約束した魂を持った人」同士であったのかも。
しかしその願いは果たせなかった。
更衣が遂げられなかった思いは、生きうつしの藤壺に託され、帝が遂げられなかった夢は、若宮に託されたのかもしれません。
 
私が毬紗さんに抱く心情は、「この人を守って、助けてあげなければならない」です。
前世でも同じく、いろいろな壁が立ちはだかることはありましたが、その思いは変わりませんでした。
そう考えると、桐壺帝の心境に少し近づけたような気がします。
 
更衣は帝を愛して生き続けたかった。
次の世ではきっと再会できて、前世の苦難を、あのときは大変だったねと振り返っていたと思います。
お互いの瞳を見つめ合いながら、優しい笑顔で。

 
君に寄り添う敬彦より

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