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【P+Bインタビュー】株式会社ウテナ(前編)これからは「ニッチ」がZ世代の心を動かす

InstagramをはじめとするSNSでZ世代の間でバズったヘアアイテム「マトメージュ 前髪グルー」「ミーアンドハー あざと毛スティック」をご存知でしょうか? 前者は、カンペキにつくった前髪が崩れないようおでこに前髪をのり(グルー)で貼り付けるというアイテムで、後者は、顔まわりの前髪や横髪をトレンド感のある繊細な毛束にスタイリングする整髪剤です。どちらも斬新な発想とネーミングが決め手となり2022年3月の発売以来大ヒットを記録しました。

これらを企画・販売したのは、スキンケアやヘアケアの老舗・株式会社ウテナ。そこで今回「あざと毛スティック」を開発し、自身もZ世代にあたる小西すみれさん(開発統括部マーケティング部マーケティング2課ミーアンドハーブランド担当)、「前髪グルー」の開発に携わった中島恵司さん(開発統括部マーケティング部マーケティング2課課長)、広報担当の則包裕美さん(経営統括部総務部広報室)に、前編・後編にわたってお話を伺いました。

(左)「あざと毛スティック」を企画・開発した小西すみれさん(開発統括部マーケティング部マーケティング2課ミーアンドハーブランド担当)と、「前髪グルー」の開発に携わった中島恵司さん(開発統括部マーケティング部マーケティング2課課長)

万人受けする必要はない“ニッチ”な着眼点の見つけ方

―まず初めに、御社の商品や特徴について教えていただけますか?

中島:弊社はスキンケアやヘアケアの会社で、今年で創業95年目を迎えます。商品の考え方は、「万人受けする必要はなく、10人に1人でも熱狂的なファンになってもらえるようなもの」。つまり、ニッチな商品で構わないという考えがあります。

もともとロングセラーの商品が多く、比較的高い年齢層がターゲットと思われがちなのですが、これまでも若い世代に向けてアプローチをしていなかったというわけではありません。「マトメージュまとめ髪スティック」(※)発売から25年以上たつ商品ですが、常に若い世代へアプローチを続けているおかげで、メインの購買層は10代・20代でずっと変わりません。ただそれだけではなく、今後若い人をターゲットにして、ニッチでありつつウケる商品をどう生み出していくかを考えた時、若手社員を中心にした開発チームを結成することにしました。それが2018年で、ちょうど世の中で“ジェネレーションZ”とか”Z世代”とか言われるようになった頃ですね。

マトメージュ公式サイト https://www.utena.co.jp/matomage/

(※)マトメージュまとめ髪スティック…髪に直接なでつけるだけで、中途半端に短い後れ毛(アホ毛)をまとめることができる、株式会社ウテナのヒットアイテム。

―「前髪グルー」はそのチームで企画されたのですか?

中島:はい。そのメンバーが発案しました。また、ほぼ同時期に「ミーアンドハー」という弊社内のブランドで、濡れ髪に関するアイテムを何か出そうという話が持ち上がりました。最近はもう定番のスタイルになってきていますが、当時は濡れ髪というのがまだブームになり始めたばかりで、ニッチなスタイルでした。そのミーアンドハーに、2020年に入社した小西が「あざと毛スティック」を企画しました。

昔からそういったニッチなものをどんどん出していくスタンスは変わらないのですが、最近やっとメディアでも取り上げていただけるようになったというのが正直なところです。

―「前髪グルー」も「あざと毛スティック」も発売前からかなり話題だったのだとか。

則包:はい。どちらも2022年3月に発売されたのですが、今までとは圧倒的に違う反応でした。通常のプレスリリースを出して、ちょっとWebのメディアなどに取り上げられれば良いな、くらいの想定でしたが、「前髪グルーは使い方が面白い、今まで他にない商品だ」と発売前からSNSで話題になったのです。まだ店頭に並んでないにもかかわらず美容アカウントの方が自発的にどんどん紹介してくださって拡散しました。

中島:そこからテレビにも波及し、民放3社の情報番組に取り上げられるまでとなりました。「あざと毛スティック」も同時期に出て、やはりこの面白い使い方のアイデアや、今までなかったニーズを捉えているというところが取り上げられやすかったポイントだと思っています。

則包:最初はマツモトキヨシグループ・ココカラファイングループ限定での販売だったので、そこまで売れると思っていなかったのですが、想定の4.5倍以上売れて、9月からバラエティショップでも販売するようになりました。今では「前髪グルー」は累計で6万5000個、「あざと毛スティック」は1万7,000個売れています。

―ヒットの決め手は何だったと思いますか?

中島:やはりニッチで発想がとがっていたからではないでしょうか。前髪に関連する商品は、これまでも他社からもたくさん出ていますが、前髪をおでこに貼るという発想や、「あざと毛」という言葉がウケたのだと思います。これが「おくれ毛スティック」だったらヒットしなかったかもしれませんね。

―ありそうでなかったものを、急に思いつけと言われても思いつくものではないと思うのですが、アイデアを生み出す秘訣はあるのでしょうか。

中島:最近はSNSが一番有益な情報元になっています。「前髪グルー」や「あざと毛スティック」のような商品は、普通の調査を行っただけではニーズが表に出てこず生まれなかったかもしれません。Webや会場、対面で行うでは、普段とは異なる状態で回答するので本音を聞き出すのがすごく難しくなります。それに対してSNSは、本音がポロッと出てくるメディアなので、そういったものをしっかりとくみ取ろうと意識して情報を集めています。

則包:いわゆる調査をやると、「気になる場所は前髪です」というところまではわかるのですが、それ以上が出てきづらいのです。でもSNSを見ていると、「もう前髪が崩れたら帰りたい」とか「前髪がうまくいかないから今日はもう家から出ない」といった深層心理のようなものがでてきます。今回の「前髪グルー」も「前髪が崩れたらこの世の終わり」というキーワードを実際につぶやいてる方がいらっしゃって、ここまで前髪を重要視しているのであれば、「貼り付けてまでキープしたい人もいるはずだよね」というところから開発をしました。

あざと毛スティック開発秘話

―やはりSNSの声は影響が大きいのですね。小西さんは2020年入社とのことですが、「あざと毛スティック」を思いついた経緯を教えてください。

小西:私は入社してすぐミーアンドハーの担当になりました。最初の仕事がミーアンドハーをこれから3年間どうやって育てていくかという戦略を立てて資料を作るというものでした。「もともとトレンドブランドのミーアンドハーをこれから先どうするか」という話が出てきた時に、ミーアンドハーのこれからの考え方は「もっといろいろ新しいものを提案して、新しいおしゃれを教えてあげるような存在になりたい」という結論に至ったのです。そこで、今の若い人たちはどんな考え方をしているのかインスタで調べまくりました。その時はまだ「あざと毛」という言葉はそこまではっきり出てきていませんでしたが、それでもみんな自然とそういう髪型をやっていることがわかったので、そこのニーズを拾い上げて作った商品がこの「あざと毛スティック」です。

―入社して突然ブランドを育てるという担当になったのですね。企画の立案やマーケティングについて、社内で教えてもらったことなどはありますか。

小西:手段や考え方については教えてもらいましたが、どんなブランドにしたいか、何を作りたいかは最初から私に一任されていました。

―この「あざと毛スティック」を提案した時、社内での反応はいかがでしたか。

小西:年代問わず、特に「あざと毛」という言葉の響きにすごく引きがありました。

―キャッチーで一度聞いたら忘れられない言葉ですが、その言葉の由来は。

小西:「あざと毛」という言葉は、美容師さんが発信していたのがきっかけでした。以前は、顔周りの後れ毛を太く触角のように垂らす方が多かったですが、最近のトレンドヘアを見ると、後れ毛は、細く繊細な毛束で作られていました。あたかも「フワッと落ちましたよ、何もしてませんよ」という形があざと毛なのだなと。「今どきの女の子がやっている、自然でさらっと落ちるようなあざとい髪型は作れるものなんだよ」という提案をするために、これまでとの差別化としておくれ毛ではなく「あざと毛」という言葉を選びました。

―ここまでヒットするとは予想していましたか?

小西:思ってもいませんでした。一番驚いたのは、実際に使ってもらった人に、「こういうの探してた」とか「こういう前髪作りたかったの」という共感が生まれていたことですね。ニッチな商品なので、その便利さに気づくのに時間がかかるかなと思っていたのですが、「使った瞬間これ絶対リピする」という口コミもあって。

自然発生的なオーガニック投稿がさらに話題を呼ぶ

―ちなみに、プレスリリースを出した時点で話題になっていたと先ほどお話がありましたが、売り出すためのプロモーションは何かされたのですか。

則包:PRでは、やはりZ世代という点と絡めて提案することが多かったです。「Z世代以外だと前髪を貼ってまでキープしたいということがあまり理解されないな」と思ったので、Z世代への意識調査を実施してそれと一緒に出すことで、その世代にはすごく刺さる商品だということをしっかり最初に説明するようにしました。

中島:それこそ「前髪グルー」は使い方が特殊なので、とにかく塗って貼り付けるということを知っていただけるように、インフルエンサーの方から発信いただく取り組みは行いました。

―インフルエンサーの起用については、他の商品でもされているのですか?

中島:はい。検索した時にそれがヒットするかしないかはすごく重要なポイントになります。検索する際、まずブランドサイトよりはひとまずインスタで調べたりしますよね。それで何も出てこないと「メディアで騒いでいるけれどそうでもない」と思われてしまうので、しっかりそこで見せていく必要があります。

―実際インフルエンサーを起用すると、手応えというか効果は感じますか?

中島:はい。それで実際に話題になると、今度はオーガニックでいろいろな方が自然と投稿してくださいます。

則包:特にプロモーションやキャンペーンをこちらから打ったわけではないのに、ユーザーから自然発生したかたちで、InstagramやTikTokで「前髪キープチャレンジ」と称した、前髪グルーのキープ力を試す動画がたくさん投稿されました。そこでは「前髪グルー」で前髪をおでこに貼って振ってみたり逆立ちしてみたりという実証実験をやってくださっているのですよ。

―なるほど。ユーザーが自発的に発信してくれるようになるのですね。


株式会社ウテナが長年モットーとしてきた「万人受けを狙わず、10人に1人熱狂的なファンになってもらう」というコンセプト。こうした「ニッチ」はトレンドとは縁のないものだった時代もありますが、各人にこだわりの「推し」がたくさんいて王道トレンドの大空位時代である現代には、非常に示唆に富むコンセプトといえるかもしれません。人の心を動かす「ニッチ」から学ぶことはたくさんありそうです。

後編では、活躍するZ世代社員を育てる土壌についてお届けいたします。ご期待ください。

「前髪グルー」「あざと毛スティック」ヒットのポイント

✔ SNSにはいわゆる「調査」では上がってこない本音や深層心理が溢れている
✔ 10人に1人刺さるようなニッチなアイデアがSNSで話題に
✔ 一度聞いたら忘れられないキャッチーなネーミング

電通プロモーションプラスでは、Z世代をターゲットとしたプロモーションの企画・実施やZ世代との共創のサポートをおこなっております。お気軽にお問い合わせください。
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