ACAO ART RESIDENCE #9

project ATAMI

「熱海の魅力をアートにより再発見」することを目的に2021年にスタートした「PROJECT ATAMI」は、滞在制作型プロジェクトである「ACAO ART RESIDENCE」と、若手アーティスト応援プロジェクト「ATAMI ART GRANT」を二本の柱として取り組んでいます。

「PROJECT ATAMI」の柱のひとつ、「ACAO ART RESIDENCE」は、アーティストの制作活動支援を目的としており、制作活動におけるアトリエの提供・制作費を支援する滞在制作型プロジェクトです。プロジェクトは2021年3月に始動し、1年を全4ターム(期間:2022年3月~2022年12月)に分け、各ターム5名のアーティストを招聘します。

2022年第4ターム(9〜10月)には、外国籍のアーティスト5名が参加し、同年11/3(木)〜11/27(日)に開催されたATAMI ART GRANT 2022にて、滞在制作した作品を展示してくれました。

Amanda Moström (アマンダ ・モストロン)さんとLucas Dupuy (ルーカス・デュピュイ)さんはまだ暑さの残る今年9月半ば頃にイギリス・ロンドンから来日し、今回のART RESIDENCEのために初めて熱海を訪れました。

Amanda Moström Install photo of Participating in a chair, 2019 Castor London

アマンダさんは元々スウェーデン・ウメオの出身で、現在はイギリスと二国を行き来しながら活動しています。アマンダさんの実家には、犬や猫はもちろん、馬、羊、山羊そしてアルパカなどが暮らしていて、アマンダさんも小さな頃からたくさんの動物に囲まれ一緒に家族として育ちました。

Amanda Moström "Rosen", 2019 Castor London

そのためアマンダさんの作品には動物のモチーフ、羊やアルパカの綿毛などもよく使われています。

Amanda Moström "Know"

ルーカスさんは、イギリス・ロンドン出身のアーティストで、主に絵画や彫刻、インスタレーションなどのメディアを通して制作活動しています。

Lucas Dupuy Installation view with Castor, 2021

様々な素材やグラフィックを組み合わせた、素朴でありながら、温かみと同時に無機質さを感じさせる不思議な色合いやパターンが特徴的です。

Lucas Dupuy "U, Wood, pva, sand, Gouache", 140 x 20 x 65cm 2022

お二人とも日本には過去に何度か来たことがありましたが、東京ではない場所に長期滞在をするのは初めてで、熱海への滞在中は新鮮な海鮮類や温泉のある暮らしを大いに楽しんでくれました。

滞在中は居酒屋やスナック・パブが立ち並ぶ熱海の渚町や銀座町といったエリアをよく歩いて散策に出かけ、美味しい地物料理はもちろん、お店のオーナーさん達との会話を楽しみました。
訪れたお店の一つ、渚町のホワイトハウスという老舗カラオケパブは元々展示会場ではなかったものの、オーナーの木田さんのご好意でアマンダさんの作品を快く展示させて下さいました。

Amanda Moström "Coffee grinds audio of me n nan", photo by Masahiro Muramatsu

熱海の繁華街でよく見られる店前のオーニングテントにドローウィングを施した作品で、白地に映える可愛らしい色合いも相まって、道ゆく人たちの注目を集めていました。ドローウィングは、アマンダさんがよく家族と一緒に描いたという絵をモチーフに制作されました。

一方ルーカスさんはART GRANT 2022にて、滞在していたHOTEL ACAO ANNEX (旧ニューアカオ)にあるユニークな屋上庭園に着目し、錦ヶ浦の絶景を背景にスケール感を活かした彫刻作品を展示してくれました。

Lucas Dupuy "another time", photo by Masahiro Muramatsu

さらにHOTEL ACAO ANNEX内にある和室の宴会場の一つにも、絵画とサウンドのインスタレーション作品を展示してくれました。

Lucas Dupuy "Seashore instrumental", photo by Masahiro Muramatsu

底面近くに置かれた4枚の絵画達に向かって2つのスピーカーが設置されており、ルーカスさんが滞在中熱海のあらゆるところで録音してきた音を素材に製作されたオリジナルのアンビエントサウンドが流れるインスタレーションです。

和室のグリーンと窓の外の海景に溶け込んだインスタレーション、奥に立っているのがルーカスさん。
窓際にも小さな作品。陽の光が紙に透けて見え方も変化する。

アマンダさんとルーカスさんの他にも、アラブ首長国連邦 (United Arab Emirates : UAE)にルーツを持つRESIDENCEアーティストが3名参加してくれました。

Shaikha Al Ketbi (シャイハ・アル・ケトビ)さんはUAEのアル・アイン生まれのビジュアルアーティストで、現在東京藝術大学大学院でグローバルアートプラクティスを学んでいます。

Shaikha Al Ketbi "AlUkhra", 2019

Shaikhaさんの作品は写真、ドローイングやインスタレーションなどマルチメディアを活用しながら、自己認識をテーマに現実とフィクションが夢の中で混じり合うような雰囲気が特徴的です。

Shaikha Al Ketbi "遊び PLAY لعب", photo by Masahiro Muramatsu

ATAMI ART GRANT 2022ではHOTEL ACAO ANNEX内の大きな宴会場「錦松の間」を使って、プロジェクションと大型絵画のインスタレーションを展示してくれました。
Shaikhaさんはタイトルにもある「遊び」をテーマに、誰もいないホテル館内の各所で当作品映像の撮影を行いました。映像や絵画に現れる民族衣装を身に纏った女性像はShaikhaさんの作品に度々用いられるイメージで、不特定の存在ながらもUAEを含む社会全体での女性性の認識を表すといいます。
映像の中では彼女が複数の遊びを通して、自分の力で運を掴み取っていく情景が、静かな語りと共に流れていきます。

大きな宴会場を広々と使った没入感ある展示作品

ShaikhaさんはUAE大使館の職員さんでもあり、ART GRANTのオープニングセレモニーへも大使をご招待くださるなど、まさに積極的に日本とUAEの架け橋となってくれました。

Bady Dalloulさんは、歴史上の出来事やフィクションを絡めて制作活動を行う、フランス・パリ生まれのアラブ系二世のマルチメディアアーティストです。

Bady Dalloul "Bound Together" 2019-2020, photo by by Iheanyi Onwuegbucha & Sophie Potelon

Badyさんの作品では彼自身の多国籍なバックグラウンドも基に、ドローイングやビデオ、オブジェなどを通し、世界的な移民問題に対する社会学/歴史学的な考察や問題提起が込められています。
ART GRANTではHOTEL ACAO ANNEXの客室の一つの中に、2台のプロジェクターを使ったインスタレーションを展示してくれました。

Bady Dalloul "Inner Child", photo by Naoki Takehisa

鑑賞者は、彼がパリや東京、熱海を含む複数都市にて撮影した2つの異なるビデオを前に、それぞれの映像に合わせたナレーションをヘッドフォンから聞きます。
Badyさんは日本に住む友人達と一緒にこの作品を制作しました。そのうちの一人はマルチリンガルの催眠療法士である中西麻美 (なかにしまみ)さんで、Bady自身の声が聞こえるヘッドフォンと並んで、もう片方から聞こえる穏やかな女性の声は彼女のものです。

映像の正面の座椅子に座り、それぞれのヘッドフォンからのナレーションと共に鑑賞する, photo by Naoki Takehisa

畳の上でリラックスし、熱海の美しい海や東京の夜景などが映り変わる映像を見つめながらナレーションに身を任せていると、まさに「Inner Child」−本来の自分へと立ち返っていく瞑想の旅をしている感覚に陥ります。
窓際にももう一つヘッドフォンが置かれ、ゆっくりと瞑想体験ができるオーディオを楽しむことができました。

そして最後にキュレーター/編集者のSophie Mayuko Arni (ソフィー・麻由子・アルニ)さんです。
彼女はスイスと日本の両親の元に生まれ、学生時代はアブダビという国際都市で芸術大学に通いました。Global Art Dailyというグローバルアートデジタルマガジンを創設・監督したり、現在は東京のスタートバーン社の広報チームに参加したりと、現代美術のグローバル化に焦点を置き幅広く活動しています。

"East-East_ UAE meets Japan" 2016, curated by Sophie Mayuko Arni

ソフィさんは今までアラブ首長国連邦と日本の文化の架け橋となることをテーマとした企画展示を度々行ってきました。ATAMI ART GRANT 2022では、二国の外交関係樹立50周年を記念した特別な企画展として「East-East: UAE meets JapanVol.5, Atami Blues」を、UAEにルーツを持つ上記2名を含む外国籍アーティスト達、そして日本のアーティスト達8組と共に行いました。

Lamya Gargash "Majilis", photo by Masahiro Muramatsu
HOTEL ACAO ANNEXのダイニングを舞台に、UAE家庭の「Majilis」−社交界を映した写真を展示

日本の高度経済成長期の最中1973年に建設されたHOTEL ACAO ANNEX (現ホテルニューアカオ)に、アーティスト達の華やかながら繊細な作品が散りばめられました。

布施琳太郎 「名前たちのキス」, photo by Naoki Takehisa
GROUP 「浴室の手入れ / Repair of a Bathroom」, photo by Naoki Takehisa

ソフィーさんが初めて熱海に訪れたのは、実は前回のATAMI ART GRANT 2021を観にきたことがきっかけでした。それから約1年後、熱海やホテルでのたくさんの出会いや時間を経て今度は彼女自身がこの企画展を発表するに至ったのです。

ATAMI ART GRANT2022オープニングセレモニーでスピーチをするソフィーさん, photo by Masahiro Muramatsu

ソフィーさんは、「この展覧会では、UAEと日本のアーティストや建築家達が沿岸の環境と相互作用する際に行った選択を模索してほしいと思います」と述べ、日々多様化する社会の流れの中で巡り合う同じく多様な価値観を持つ人々や文化の中にも、共感や共通の意識を見出していくグローバル化の試みを示してくれました。

UAE特命全権大使のシハブ・アハマド・アル・ファヒームさんもオープニングにてスピーチしてくださった, photo by Masahiro Muramatsu

今年もたくさんの方々との縁や出会いの輪があってこそ実現したACAO ART RESIDENCEやATAMI ART GRANT。いよいよ3年目となる来年も、熱海という場所でそれぞれのアーティスト達が特別な体験をしていけるよう着々と準備を進めていきたいと思います。
今後も新たな取り組みを積極的にトライし各所で発信していきますので、どうぞ引き続き応援して頂けると嬉しいです!
(事務局 竹内)

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