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株式市場の季節性 -積み立て投資のパフォーマンスもあがるかも?

株式市場には一年のうち、毎年あるいは毎月同じ時期に、特定の需給を理由として同じような値動きをするという現象が存在する。もちろんニュースやマクロの影響が大きければ、そういった季節性から想定される方向に市場が動かないことはあるが、少なくともその方向へ動く圧力が働くことは確かである。
積み立て投資をしている人のうちには一定額ずつ毎月1日にただ同じものを同じ金額分だけ買い付け続けていくことがよくある。だがもし、一年のうち、この月とこの月は買い付けるべきでない、もしくは一か月のうちこのタイミングで買い付けるのがパフォーマンスが高くなりやすいということが合理的に想定されるのであれば、それを考慮に入れたうえで積み立てを行うこともできるはずである。
本稿では例として日経平均を対象として以下の2つの季節性について考える。

1. 機関投資家のトレードによる毎月/四半期ごとのリバランス
2. 配当債投資/分配金の売り

この季節性というものは証券会社のトレーダーやなど、 "プロ" として市場に参加する人間もポジションを取る際に考慮する重要なファクターである。

1.機関投資家のリバランス

株式市場においてはGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)をはじめとした各アセットクラス間の比率を決めて運用しているような機関投資家と、リスク固定ファンドのようにボラティリティの数値を一定に保つように運用を行う 機関投資家が大きな割合を占める。
結論から言うと、彼らは株が上がったら月末に売り、下がったら月末に買うという決まったオペレーションを行うことが多い。
まずはGPIFを例にアセットクラスの比を固定して、四半期ごとにリバランスを行い運用をする機関投資家のトレードについて考察しよう。
GPIFは国内株式、外国株式、国内債券、外国債券にそれぞれ25%ずつ投資を行う。月初時点での運用額が200兆円とし、国内株式以外のアセットの時価総額が変化しなかったとしよう。そのうえで四半期のの中旬にかけて国内株式が8%上昇したとすると、全体に占める国内株式の割合が金額ベースで約26.5%となる。なぜなら、国内株式で運用していた50兆円が54兆円となり、全体の運用額は204兆円となる。よって、国内株式の割合は54/205となるからである。よってこれを等しいウェイトになるように調整しなければならない。つまり、増えた4兆円のうち75%にあたる3兆円は株を売って他のアセットクラスに等分に振り向けることになる。

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この際の株の売却が四半期末にかけて株を押し下げる要因となる。
これとは逆に四半期の上旬から中旬にかけて株が下がった場合は四半期末にかけて国内株以外のアセットクラスからの資金が国内株式に振り向けられ上昇要因となる。

同様のリバランスは他のファンドによって月ごとにも行われている。長期的な積み立てを考えるのであれば、月初に積み立てを行うより月末に買付日を設定するほうがいいだろう。なぜならば株式というのは基本的に、長期的には上昇を続けていくものだからである。歴史的にも株価の推移をみると月初より月末のほうが株価が下がっている月が多い。よって、月末に買い付けと行うことで割安に株を買い続けることができる。

2.配当再投資/分配金の売りが日本株に季節性をもたらすメカニズム

代表的な日本株指数であるTOPIX・日経225に連動するETFは現在約100兆円の運用規模(TOPIX: 70~80兆円、日経平均:20~30兆円)となっている。
一般的に日本企業の株式には年2回(3月・9月など)配当がある。
全てのETFが現物株と同様に年2回、配当と同じタイミングで受け取った配当を分配すればシンプルなのだが、運用額が大きい以下のファンドでは年1回の決算のタイミングである7月にしか分配金の支払いがない。つまり、9月、3月などに受け取った配当金を7月まで保有しておいて年に一回まとめて配分を行うのである。






対象指標:TOPIX
・ダイワ上場投信-トピックス
・NEXT FUNDS TOPIX連動型上場投信
・上場インデックスファンドTOPIX

対象指標:日経平均株価
・ダイワ上場投信-日経225
・NEXT FUNDS 日経225連動型上場投信
※銘柄一覧はこちら(JPXに掲載のETF)から





このように「株式の配当」と異なるタイミングで「ETFの分配金」が支払われると何が起こるか考えてみよう。
3月の配当落ち日に指数は配当落ちが発生し配当の予想額の総額分だけ下落する。なぜならば指数というのは単に個別株の株価を集めてきて特定の計算に従って算出しているにすぎないので、中身の株価が配当落ちによって一斉に下落すれば当然下落する。他方ETFは個別株の配当落ち日に配当落ちの分だけ基準価格は下落するわけではない。ETFの基準価格が実際に落ちるのは分配金落ち日でなければならない。
したがって、ファンドは個別株の配当落ち日にその分だけ先物によって配当再投資を行う必要がある。そうでなければファンドは連動指数に対してトラッキングエラーを起こしてしまう。
実際にファンドがどのようなオペレーションを行うかというと、配当の権利付き最終日の大引けで配当相当額分の指数先物を購入して配当金相当額分の騰落率のトラッキングを維持する。その後、指数先物をEFP(Exchange of Futures for Physics)と呼ばれる現物と先物を交換するトレードを用いて、すべて現物の運用に切り替える。
そして7月のETFの決算日。この日が分配金の権利確定日となっておりETFの運用会社は分配金を支払うべく、その金額に対応した分だけ保有している現物株を売却し、ETFの基準価格はその分だけ減価する。
この時のマーケットインパクトがいかほどのものかというと、TOPIX・日経225連動型ETFの分配金利回りはおよそ1.7%程度なので、これだけでも約1兆円の機械的な売り圧力になる。

株式市場の季節性を考慮した積立戦略

上記の2つの考察から以下の2つのことが言える。
· 月末のほうが株価が下がりやすい
· 7月は株価が下がりやすい
よってこれらを考慮して一年の中で積み立ての季節調整を行うことができる。
具体的には、
· 買い付けは月末に行う
· 7月に多めの金額で買い付けを行う
といった調整を行うのである。
これによって株価が低いところで多く株を買うことができる確率が、何も考えずに買い付け日を機械的に毎月1日に設定するよりも高まるかもしれない。

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