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弁護士歴40年を超えるベテラン弁護士が、今だからこそ言えること。福井県の宮本・石倉法律事務所 共同経営者 宮本健治弁護士へのインタビュー

2023年6月某日。福井県にある宮本・石倉法律事務所の共同経営者である宮本健治弁護士に、インタビューを行いました。弁護士歴40年を超え、福井弁護士会会長や中弁連理事なども務めてきたベテラン弁護士が今だからこそ言える、後継者育成や事務所経営、事件との向き合い方。


弁護士、経営者としての悩みの解決につながるヒントが詰まったインタビューです。ストレスに立ち向かう若手弁護士へのメッセージも伺ってきました。

(聞き手:岩田いく実)

■先生のご経歴を教えてください。

福井県に生まれ、東京大学法学部を卒業後、昭和56年4月に弁護士登録しました。2年間は別の法律事務所に勤務、その後独立し現在は福井県福井市にあります「宮本・石倉法律事務所」の共同経営者です。後継者育成のため、石倉弁護士を迎えてから10年以上経ちます。得意分野は交通事故。企業法務や管財事件なども多くこなしています。

1.ストレスについて

■業務を行う上でストレスを感じることは?

仕事に追われ過ぎるとストレスになりやすいですね。ただし、仕事を減らそうにも過去の依頼者からのご紹介も非常に多く、業務量は常に多い状態です。

■ストレスはどのように解消していますか。

一番のストレス解消法は、難事件を成功させること。苦しいと感じるときも、常に「成功する場面」をイメージしています。
 
依頼者や関係者から感謝されること、喜ばれること、裁判所からの評価向上、入ってくる報酬などの楽しくて明るいことをイメージしながらこれまで何度も乗り越えてきました。
 
業務のストレスは家族に癒されることも多いですね。2か月に1回のペースで孫を連れてディズニーランド等へ旅行にいきます。年に1回は家族総出での軽井沢旅行にもいきますね。この日のためにスケジュールを何とかコントロールしています。

■長い弁護士歴の中で、つらかった出来事はありますか。

依頼に関するものだと、ある破産管財事件が記憶に残っています。事業譲渡を計画していたので、通常業務の他に朝早くから深夜まで譲渡先の弁護士との交渉がありました。具体的には朝は午前7時から午前9時まで交渉を行い、そこから夕方までは通常の案件に忙殺され、その後もほぼ毎日深夜1時まで譲渡先の弁護士との交渉を行う生活が1か月間続き、眠れぬ日々を送り、大変なストレスでした。この事件は譲渡期限の直前、12月28日午後11時50分に無事事業譲渡契約が成立しました。
 
この事業譲渡の成功により多くの従業員の雇用を守ることができ、従業員からは大変感謝され、裁判所からも本当にうまくいくとは思わなかったと評価を得ました。事業譲渡の成立は当時大きく新聞に報道されたので、ストレスフルな状況から一変し、「報われた」経験となりました。苦しいときは、今もこの時のことを思い出します。

■私生活において、ストレスを感じた経験はありますか。

嫁姑問題ですね、こればっかりは思うように解決できない。
家族サービスを大切にすることも、多忙な弁護士の務めかもしれないですね。妻には愛情を、母親には親孝行を、と決意をして長年やってきました。

■ストレスによる心身の不調を予防するために実践している工夫、勉強などはありますか。

運動をできる限りするようにしていますね。昔は野球をやっていたんですよ。スポーツは勝ち負けにこだわる必要があり、弁護士としてのメンタル作りに良い影響があったと思います。
 
弁護士となってからはテニスを週に3日くらい、1回につき2時間ほどしていました。私の子どももテニスを楽しんでくれました。
 
年を取って腰と膝を痛めてからは軽い散歩を楽しんでいます。
 
あとは勉強。私は交通事故の分野を得意としており、医師面談の際には医師に意見もします。なぜだろう、どうしてだろう…と好奇心を持ち続け、医学書も読み続けています。勉強をすると、もっと頑張ろう、どんな依頼者にも応えられるようにしよう、とモチベーションが高まります。

2.事務所経営について

■法律事務所経営歴も長いですね。経営面で苦労を感じた経験はありますか。

採用に苦労を感じたことがあります。事務員を採用したところ、1週間くらいで病気が発覚し、話し合いの結果退職に至ったことがあります。司法試験にチャレンジするために事務員として働きたいという希望を持った方から応募をいただき、その熱意を支援したいと思い採用しました。しかし、入所してからすぐに事務員から違和感があるとの報告を受けました。どうも作業の依頼をしてもパソコンの画面をじっと見つめており、作業ができない状態だったようなのです。そこでお話を聞いてみると、うつ病を患っていらっしゃることがわかりました。司法試験に落ちたことがある経験から、法律事務所で働くことにかなりのストレスを感じていらしたようで、働き続けるのがとても難しい状態になっていたようです。
 
できる限り事務員は大切にしたいので、6か月の有給休暇を用意する想定で、ご家族も含めて話し合いました。事務所としては有給を取得いただいて復調後に再度働いていただきたいと思っていたのですが、迷惑をかけたくないと感じたご本人とご家族から退職の申し出があり、有給休暇をとらずに退職という残念な結末に至りました。
 
ありがたいことに当事務所は事務員の定着率が高いのですが、評価に見合った待遇を用意することを長年意識しており、当事務所では特にボーナスを高く設定しています。高い待遇を用意することは、優秀な人材を確保する必要がある法律事務所経営に欠かせないのではないでしょうか。

 ■法律事務所はいろんな依頼者や相手方と接します。経営者として事務局のケアはどのようにお考えですか。

あえて事務局に任せていますね。これは私の経験を基にした方針ですね。昔、大学時代の友人がうつ病を患ったことがあります。放っておけず、医師面談にも一緒に出向くだけでなく、ご家族と私自身がつながり、友人のケアに当たったことがあります。その際に、「がんばれと言わないこと」、「温かく見守ること」を医師からアドバイスされたことがあり、このアドバイスを事務局のケアに取り入れています。
 
一見突き放しているようにも見えますが、当事務所ではこの方針で上手くケアすることができていることもあり、事務局を信頼してケアを任せていますまた、困ったら頼ってきてくれるような関係を築くことができているのも任せることのできる一因ですね。
 
加えて、事務局との関係性をより良くするために、経営者として余計な意見を言わないことを大切にしていますね。どんな組織にも言えますが、経営者が意見を言いすぎると、従業員全体が委縮してしまいますので、事務局と良い関係を築くことやケアを任せることが難しくなってしまうと思います。
 
その他に、弁護士業務での経験・知見も事務局のケアに活かしています。弁護士業務の1つである企業法務を多く経験していると、いろんな企業内トラブルに向き合います。「従業員を大切にすること」の難しさや、経営の難しさは依頼者から持ち込まれる相談から感じることも多く、そこから学んできたことも自然と事務所経営の中に取り入れていますね。

■事務員同士の人間関係にも注意を払っていますか。

当事務所は元々忘年会や旅行はしていなかったんですよ。仕事は仕事、プライベートはプライベートかな、と思っていました。
 
ところが事務員側から、「先生、忘年会しましょうよ」と言われたんです。飲み会や旅行もそれ以降、定期的にするようになりました。ディズニーランドに行ったり、帝国ホテルに行ったり。親睦を深めると、本当に事務局の雰囲気も良い。事務員同士が家族ぐるみで付き合っていますね。
 
飲み会や事務所旅行は否定する風潮もありますが、事務員同士大変良い関係になったので、やった方が良いんだなぁと驚いています。事務所経営に答えはありませんね、偏ったイメージを持たず、何でもみんなで、一緒に楽しんでみることも大切です。

■いろんな苦労を重ねた上で、後継者育成に役立てていることはありますか

先にも触れましたが、「成功するイメージを持つこと」の大切さを伝えています。依頼者対応や難易度の高い事件、業務量の多さなど弁護士としての道を歩く以上、つらいことは必ずある。だからこそ、弁護士として成長するためには、駆け出しの頃は特にいろんな案件をこなして、成功を重ねることが大切です。今でこそ交通事故や企業法務などを中心に受任していますが、刑事事件にも力を入れている時期もありました。
成功を重ねることで報酬や依頼者からの感謝などを具体的にイメージでき、成功させようと前向きに考えることができるようになります。石倉弁護士にも、なんとしてでも依頼を成功させるように前向きに考えることにより、疲れを吹き飛ばそうと伝えています。

3.仕事を好きになる

「とにかく仕事を好きになってみること。長年やっているからこそ、心から仕事を楽しむことが大切だと思っています。」

宮本健治弁護士

■先生は常に前向きですね。

前向きでいるコツを掴めたきっかけがあるんです。

昔、全国大会常連の女子高校のテニス部練習に、当時中学生だった息子たちが参加させてもらったことがあります。
平日は3時間ほど、土日祝日は、午前9時ころから午後4時ころまで練習が続く。さぞ、大変だろうと思って知り合いの部員に、「こんなに激しい練習を毎日するとなると、大変だね。」と声をかけました。
 
その答えは、「えー、大変だなんて。大好きなテニスをこんなにできるなんて幸せです。本当に嬉しくて毎日練習しています。」でした。
 
イヤイヤ練習していたら、大変なストレスになる。仕事も同じですよね。この時の話をきっかけに私が考えたの前向きでいるコツは、「一見辛そう、嫌そうに見えることも、好きになるって決めて、とにかくやってみる」ということです。頑張っているときは、ストレスも糧にできる。弁護士の仕事を好きになることがストレス解消の第一歩です、長年弁護士業をやっているからこそ、心からそう思います。

■仕事を好きになるコツはありますか。

弁護士の仕事は勝敗にこだわる必要があります。依頼者のためにベストを尽くす必要がある。それに、やるからには勝ったほうがかっこいいですよね。
 
私は高校の時の模試にも結果にこだわり続け、全国模試で10位台につけていました。野球もやって、テストの結果も良いってかっこいいですよね。仕事も、勝った方がかっこいいので、結果にとことんこだわってきました。良い結果を求めて良い結果を何とかして出すことこそが、仕事を好きになるコツだと思いますね。

■交通事故分野では難解な事件を多数こなされた実績がある。前向きに乗り越えてきたからこその結果でしょうか。

依頼者のためには、訴訟で勝つ必要があります。私への依頼は難易度が高いものが多く、脊椎分離症と交通事故との相当因果関係、高次脳機能障害と交通事故との相当因果関係、嗅覚脱失と交通事故との相当因果関係…苦労もありましたが多くの難事件や高額の訴訟で勝訴を勝ち取れました。

交通事故被害者のために、弁護士ができることはやっぱり結果を出すことです。単に前向きなだけではなく、相当に努力も重ねました。依頼者が私の仕事に期待してくれる以上は、頑張りたい。笑顔を何度も見てきたからこそ、奮起できる。心からやりがいを感じ、長年無我夢中で走ってきました。

■最後に、ストレスを抱え悩むことが多い若手弁護士へ、メッセージをお願いします。

とにかく、仕事を好きになってほしいですね。私たちの仕事は依頼者を笑顔にできる。

判例を読む、勉強をする。自分が勝つ姿を明るく想像する。その積み重ねこそがストレスではなく、明るい希望を抱き、解決につながると信じて走ってみてほしいですね。

4.終わりに

弁護士歴40年の大ベテランである宮本先生のインタビューはいかがでしたでしょうか?若手の先生方から経営をされている先生方まで幅広く参考になる内容かと思いますので、是非ご参考にされてみてはいかがでしょうか?

Amiではストレスや悩みを抱えた先生方向けにカウンセリングを提供しております。弁護士会のメンタルヘルス研修での講師経験や弁護士業務に精通したカウンセラーがお話を伺いますので、お悩みの方是非ご検討ください。

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