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「パワハラ相談」は心理職と協力したほうがいい理由

Amiは心理の専門性を弁護士に提供し、メンタルヘルスにおける課題を解決するサービスの提供を行っています。

しかし、弁護士と心理職の協働の可能性もあるのではないかという仮説のもと、今回は心理の専門性を弁護士の方とともに実践することについての可能性を考え、お届けしたいと思います。

本日のテーマは「職場の問題」です。

職場の問題と心理の仕事

働く人に対して、心理職が関わることには次のようなものが挙げられます。

・メンタルヘルス不調
・職場の上司や同僚との対人関係の悩み
・休職・復職
・職場のハラスメント問題
・ハラスメント加害者へのコーチング
・ハラスメント被害者への支援
・長時間労働の問題
・労災問題
・パフォーマンスアップ(生産性の向上、モチベーション向上など)
・キャリアカウンセリング
・コーチング
・職場のクライシス(事故、統廃合、同僚が亡くなったなど)
・職場でのパフォーマンスがある部下との関わり
・転職活動
・就労支援

これらはわかりやすい一部ですが、いかがでしょう?
ブラック労働や、ハラスメント、労災などは、個人からの依頼にしろ、企業法務にしろ、弁護士に寄せられる話題もあるのではないでしょうか。

職場の問題を受ける心理職がいる場所

職場の問題のご相談を心理職が受ける場合には、例えば、次のような場所が考られます。

・医療機関のカウンセリング
・開業のカウンセリング
・組織内のカウンセリング
・組織が契約している外部のカウンセリング機関(EAPなど)

医療現場でのカウンセリングであれば身近に主治となる医師がいることで、心身に不調な症状が出ている場合には治療についての専門サポートが得られやすくあります。一方で、医療機関と職場との連携では苦労される声も少なくないように思います。

また、組織内や組織外のカウンセリングであれば、一定の関わりを組織と持つことができるので、組織の様子を前提として話がしやすいことや、関係者と連携をして行くことや、環境調整などの関わりやすさなどの利点があります。一方で、それだけ距離が近いということは、相談が組織に伝わってしまうのではないかという不安も挙げられます。原則は相談内容は職場には共有されず、一定の守秘義務の中で相談出来る場合も多いですが、利用する方としては話すことが伝わって評価に影響があるのではないか、などの声もあげられます。

そのような違いはあれど、心理職の専門性心理職が先述のような職場の問題に関わる場合には「心理の専門性」を活かして関わるのですが、具体的にはどのような関わりをするかという点をお話をさせていただきます。

そもそも「心理の専門性とは?」という点ですが、例えば、心理の専門性を証する一つに「臨床心理士」がありますが、臨床心理士の専門性としては以下の四つが挙げられます(参照:臨床心理士資格認定協会)

1・臨床心理査定
2・臨床心理面接
3・臨床心理的地域援助
4・調査・研究

特に、1と2についてはいわゆる「カウンセリング」としてのイメージを持たれる方が多いかもしれません。

「心理査定」は、医師がするような診断名をつけるものとは異なりますが、種々の心理テストや観察面接を通じて、個々人の独自性、個別性の固有な特徴や問題点の所在を明らかにすることを意味します。また同時に、心の問題で悩む人々をどのような方法で援助するのが望ましいか明らかにしたり、他の専門家とも検討を行う専門行為などを指しています。

つまり、その方の性格や考え方、行動などを専門性を持って見立てていく作業を行い、その方の解決に向けて望ましい方向性を検討したり、必要に応じて他の専門性を持った方や関係者と連携や情報共有をしながら、問題解決を図ります。

精神疾患などの知識も有しておりますので、診断こそできないものの、心身の症状を確認し、医療機関の受診の必要性などをともに検討することもございます。

また、臨床心理面接は、クライエント(相談依頼者)との人間関係が構築される過程で「共感」「納得」「理解」「再生」といった心情が生まれる貴重な心的空間と呼ばれます。その場において、来談する人の特徴に応じて、さまざまな臨床心理学的技法(精神分析、夢分析、遊戯療法、クライエント中心療法、集団心理療法、行動療法、箱庭療法、臨床動作法、家族療法、芸術療法、認知療法、ゲシュタルト療法、イメージ療法など)を用いて、クライエントの心の支援を行っていくことが臨床心理士の中心的な専門行為といえます。

つまり、精神疾患や心理学や行動科学などの知見を元に現状を整理したり、その後の方向性を検討するところに専門性を有しているともいえます。

相談に来られる方は「どうしていいかわからない」など、整理がされないような状況で訪れる方も少なくありませんので、まずは現在の状況をともに整理していくような作業が非常に重要であるといえます。

職場の問題に関しても、まずは問題状況を整理したり、頭ではわかっていても気持ちがついてこない状況について、情緒的な援助をしたりすることもあります。

また、朝目が覚めても体が起きられない、寝つきが悪い、夜中に何度も目が覚める、食欲がない、会議中に涙が止まらない、休日に出かけることができなくなった、など様々なエピソードから、医療機関受診の必要性を考えたり、医療機関の情報提供をさせていただいたり、復職に向けての過ごし方のサポートをするなどの関わりもございます。

そして、職場という特性から、労働安全衛生法などに基づいた支援を行うこともありますし、ストレスチェックに関わることや組織のメンタルヘルス支援体制の構築のサポートを行うこと、ハラスメント被害を受けた人への支援や加害側への再発防止のためのコーチングを行うなど、職場においては具体的な解決のために個人や組織に向けてサポートを行うこともあります。

職場の相談における弁護士と心理職

やや私の主観もありますが、会社や相手を訴えるなど具体的な問題解決を目指している際に弁護士に相談をする方が多いのではないでしょうか。もちろん、悩みながらの方も少なくないと思いますが。

余談ですが、企業等が福利厚生として外部/内部のEAPを導入していたり、企業と提携している心理相談室があると思いますが、その場合は、紛争に関するご相談は受けられないような場合もありますので、相談者が弁護士に依頼をしているような場合だと、ご相談が受けられないような契約もあるかと思います。

ただ、このような企業等の契約と外れた場所でご相談を受ける際には、弁護士への依頼と同時に、カウンセリングをご利用されていくような場合もあります。カウンセリングが先行している場合には、今後の方針がまとまったところで弁護士に繋いでいく、などがあります。

また、弁護士への依頼が先行している場合には、弁護士に相談中なのだけど、やらなくてはいけないこととそこに向かう気持ちのバランスが取れなくて、やりきれなくてカウンセリングを受ける、というような場合もありました。

かなり心身ともに疲弊している状況でもあるので、そこで話をしたような事実関係の整理などをご本人同意のもとで、情報提供紹介状のような形で弁護士に書面をお送りさせていただくようなこともあります。

先にカウンセリングを利用していたような場合に、それまでの様子を弁護士の方にご本人の同意のもとで情報提供をしたり、その後も定期的にやりとりをしながら相談者様の問題解決にともに寄与するようなこともございます。

その意味では、気持ちの面の受け止めや状況の整理などが心理の専門性が活きる場所であり、問題解決を具体的に進めていく中では弁護士の専門性が活きるのではないかと思います。

このように弁護士と心理職の協働の可能性を私は感じています。

パワハラの問題(被害側)

2020年6月に改正労働施策総合推進法が施行され、職場におけるパワーハラスメント防止措置が義務化されたことにより、ハラスメントの相談窓口での対応や、ハラスメント研修などで関わる機会が増えています。この辺りは弁護士の方も共通する部分もおありでしょうか。

例えば、心理職が職場のハラスメントの相談窓口での対応の際には、ハラスメントが発生し始めたタイミングで相談に入る場合や、ハラスメントが発生し始めてしばらくしてからの場合、体調不良が生じ始める場合、休職や異動を考える場合など様々な段階があります。

ハラスメントで相談が入る場合、個々の差はありますが、中には「ハラスメントは辛いけど、どうしていいか分からない」という方もいます。

他にも、ハラスメントを受けている自分の情けない気持ちや、誰かに他言することで相手から報復されるのではないかという不安、本当は自分が悪いからこういう状況になっているんじゃないか、など様々な気持ちの中で相談者は相談にいらっしゃいます。

そのような様々な気持ちで相談の場に訪れる方々は、どうしたらいいかをなかなか決断できないような場合もあるため、早期対応が大事ではあると思いつつ、すぐに解決のための手段に進めないことがあります。

だからこそ、そのような場合に、様々な気持ちを整理しつつ(情緒支援)、今後の対応を整理していく(問題解決)ような関わりをしていきます。

ここでいう問題解決の場合に、組織の中では会社のコンプライアンス窓口に繋げることなどがありますが、会社はハラスメントは許されないものであるという姿勢で被害のヒアリング、加害側や周囲へのヒアリングなどが行われます。

しかし、ヒアリングには時間がかかったり、問題解決のためには会社に委ねる場合が少なくはありません。そこで会社に任せていても話が全然進まなくて、困ってしまい、弁護士に相談される場合もあるのではないかと思います。

つまり、組織頼みでの解決ではなく、自分個人の味方となって問題解決のために向かってくれる弁護士という存在は非常に心強いのではないかと考えます。

「問題解決」を弁護士が進め、「情緒的なサポート」を心理職が担う、このような攻撃と回復の攻守のバランスを取りながら相談者をサポートしていくチーム結成は、もっと広く実践ができるといいのかなと思うことがあります。

ハラスメント以外にも、ご相談をお受けする中で法律の力を借りたくなる時は少なくありません。普段は法テラスや地域の法律相談などをご紹介いたしますが、この辺りもともに協働できる弁護士の方がいると心強いような印象があります(依頼に関しては慎重にあるべきと思うところですが)

そして、もしよかったら、弁護士側からこういう時に心理との協働があると心強いと感じることがあるなどで思うことがありましたら、可能な範囲でぜひ教えていただけたらありがたいです。

法律に関連したご相談をともに解決していけるような弁護士との協働をより取り組んでいきたいと思う今日この頃です。

最後に

本記事は、福岡県弁護士会で「弁護士・事務所職員のメンタルヘルスケア」の研修会を行った中村さんに、労働分野での弁護士と心理職の協働について、書いていただいた記事となります。

弁護士と心理職の協働は、被害者支援等の刑事弁護を中心に行われており、労働分野での協働はまだ多くはないですが、労働分野での協働にもメリットが多いと考えております。

心理職との協働に興味・関心をお持ちの先生においては、是非、お話を伺わせていただきたいですので、お問い合わせをいただけますと幸いです。



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