兵庫県明石市の子育て支援策を検証

メディアで絶賛され、一部の国会議員も注目する兵庫県明石市の泉房穂市長の子育て支援策だが、全国展開できるものではなく、持続可能性にも疑問があり、甚だしい過大評価と結論せざるを得ない。

泉市長の就任以来、市の人口は右肩上がり。中でも子育て世代の人口が大きく増加。合計特殊出生率(2019年)は全国1.36、兵庫県1.41に対し、明石市は1.70を記録している。

産む予定の人がお金を目当てに市外から転入してくれば、明石市の出生率は上がるが、転入者の以前の居住地の出生率は下がる。以前からの明石市民の出生率が上がらなければ、全国ではゼロサムである。

よく“歳出額が増えるでしょう”と聞かれるが、選ばれる街になり、人口、赤ちゃんが増えれば経済が回り始める。おかげで6年連続の税収増だ。子どもにお金をかければ経済は良くなるということだ」。

市の税収は増加基調にあるものの「6年連続」ではない。全国の市町村税収もほぼ同じ推移をしているので、明石市の「子供にお金をかける」政策が経済的に成功している証にはならない。

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泉市長は就任後、子ども部門の予算を倍増させる一方、下水道整備計画の予算を大幅に削減、職員給与も一律4%カットするなどの大胆な措置を講じている。

泉市長が就任した2011年度と2018年度を比較すると、歳出合計に占める割合は児童福祉費+6.9%ポイント、土木費-5.0%ポイント、人件費-2.0%ポイントとなっている。こども部門の職員数が3倍になったとのことだが、教育公務員の給料月額合計は10%減らされている(職員数減少&1人当たりの減少)。

人口が増えて住宅も増えれば、公共施設やインフラストラクチャー需要も増えるはずなので、将来にツケを先送りして人気取りのばら撒きをしているだけの可能性が大である。民主党政権の「コンクリートから人へ」は政権交代後に一転して批判されるようになったが、それをもっと極端にした泉市政は称賛されている。

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明石市の人口は全国の0.24%だが、待機児童は全国の2.9%を占めていることも、政策がバランスを欠いていることの傍証である。

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番組で宇佐美典也(東京大学経済学部卒→経済産業省→退職)が

「公務員の人件費(職員給与)が4%削減されても子供に返ってくるほうがむしろ大きい」
「公務員人件費削減は中間層に対する増税と捉えてよいもので、それを子育てに回すということで(効果を)実証した」
「お金を取られてるのに、お金を取られた方もむしろ生活が楽になる政策を打てるというのは感動的」

などと褒めちぎっていたが、明石市職員全員が中間層ではないうえに、職員でも子がいなかったり、子育てが終わっている人には給付として返ってこないので生活は楽にならない。市職員を狙い撃ちにした賃下げを美化する悪質な印象操作である。

宇佐美が「感動した」「素晴らしい」「野党の合流新党の党首になってほしい」「市長のままで大臣とか参議院議員をやれるようになってほしい」などと繰り返しヨイショしていたのも胡散臭い。

泉市長の政策は①子育て支援、②公共事業叩き、③公務員叩き(→暴言)の大衆迎合的ポピュリズムで、②③は1990年代後半から跋扈するようになった「改革派」そのものである。子育て支援が注目されるために見過ごされているが、泉市長の政治思想は維新に近いことも指摘しておく。

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付録

泉市長が少子化対策の参考にしたフランスでは、合計出生率は1975年に人口置換水準(グラフの灰色線)を割り込み、1993年には1.66に低下したが、そこから反転上昇して2010年には2.0を上回った。

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しかし、出生率の低下は主に「子どもを作る時期が遅くなったこと」、反転上昇は遅くなるペースの鈍化によるものなので、少子化対策が功を奏したためとは言えない。それに加えて、非ヨーロッパ系移民の増加も出生率を引き上げている(2018年は母親の23%が外国出身)。泉市長の認識は根本的に間違っている

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出生率の情勢指標は、1966年には女性1人当たり子ども2.9だったのが、1975年には1.9、1990年には1.6へと低下したが、その後また上昇し、2010年頃には2で安定する。女性が作る子どもの数が減ったということも多少はあるが、その主な原因は、女性が子どもを作る時期が遅くなったことである。・・・・・・情勢指標の低下が華々しい様相を呈し、出産奨励主義者の間に一時パニックを引き起こすほどであったのは、とりけ女性が母となる平均年齢が上昇したためである。実際はいかなる時点においても、子どもを作る者としての生涯の全期間にわたって女性が産む子どもの最終的な数が、2人より下に落ちたためしはない。

子育て支援が充実しているフィンランドでも、2019年の合計出生率は1.35に低下している。出生数の1/7は移民系である。

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フィンランドは妊婦検診が無料なのはもちろん、プレスクール(就学前教育)から高等教育までの教育費も無料など、子育てに関するさまざまな制度が整えられている。

フィンランドにはさまざまな子育て支援の手当や、産前30~50日からの105勤務日間も取得できる「母親休業」(はじめの56日間は給与の90%、その後70%)、母親か父親、もしくは両者が母親休業終了後~158勤務日間とれる「親休業」(給与の70~75%)など、育休の制度が充実している。

その他の北欧諸国でも、子育て支援の出生率引き上げ効果が疑問視されるようになっている。

Karlsdóttir is surprised that the generous provisions for parental leave and childcare in the Nordic countries have not had a greater impact on birth rates.

Prof Gauthier does note that even Scandinavia has begun to see a fall in its fertility rates, showing that the real key to higher birth rates remains unclear.
"With Scandinavia we thought they had got it right... until about last year when their fertility rate started to decline," she said.

泉市長は「政治がちゃんとやれば出生率は(自然に)上がる」と力説していたが、北欧諸国はその安直な主張に対する強力な反証になっている。

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