兵庫県明石市の子育て支援策を検証
メディアで絶賛され、一部の国会議員も注目する兵庫県明石市の泉房穂市長の子育て支援策だが、全国展開できるものではなく、持続可能性にも疑問があり、甚だしい過大評価と結論せざるを得ない。
産む予定の人がお金を目当てに市外から転入してくれば、明石市の出生率は上がるが、転入者の以前の居住地の出生率は下がる。以前からの明石市民の出生率が上がらなければ、全国ではゼロサムである。
市の税収は増加基調にあるものの「6年連続」ではない。全国の市町村税収もほぼ同じ推移をしているので、明石市の「子供にお金をかける」政策が経済的に成功している証にはならない。
泉市長が就任した2011年度と2018年度を比較すると、歳出合計に占める割合は児童福祉費+6.9%ポイント、土木費-5.0%ポイント、人件費-2.0%ポイントとなっている。こども部門の職員数が3倍になったとのことだが、教育公務員の給料月額合計は10%減らされている(職員数減少&1人当たりの減少)。
人口が増えて住宅も増えれば、公共施設やインフラストラクチャー需要も増えるはずなので、将来にツケを先送りして人気取りのばら撒きをしているだけの可能性が大である。民主党政権の「コンクリートから人へ」は政権交代後に一転して批判されるようになったが、それをもっと極端にした泉市政は称賛されている。
明石市の人口は全国の0.24%だが、待機児童は全国の2.9%を占めていることも、政策がバランスを欠いていることの傍証である。
番組で宇佐美典也(東京大学経済学部卒→経済産業省→退職)が
「公務員の人件費(職員給与)が4%削減されても子供に返ってくるほうがむしろ大きい」
「公務員人件費削減は中間層に対する増税と捉えてよいもので、それを子育てに回すということで(効果を)実証した」
「お金を取られてるのに、お金を取られた方もむしろ生活が楽になる政策を打てるというのは感動的」
などと褒めちぎっていたが、明石市職員全員が中間層ではないうえに、職員でも子がいなかったり、子育てが終わっている人には給付として返ってこないので生活は楽にならない。市職員を狙い撃ちにした賃下げを美化する悪質な印象操作である。
宇佐美が「感動した」「素晴らしい」「野党の合流新党の党首になってほしい」「市長のままで大臣とか参議院議員をやれるようになってほしい」などと繰り返しヨイショしていたのも胡散臭い。
泉市長の政策は①子育て支援、②公共事業叩き、③公務員叩き(→暴言)の大衆迎合的ポピュリズムで、②③は1990年代後半から跋扈するようになった「改革派」そのものである。子育て支援が注目されるために見過ごされているが、泉市長の政治思想は維新に近いことも指摘しておく。
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付録
泉市長が少子化対策の参考にしたフランスでは、合計出生率は1975年に人口置換水準(グラフの灰色線)を割り込み、1993年には1.66に低下したが、そこから反転上昇して2010年には2.0を上回った。
しかし、出生率の低下は主に「子どもを作る時期が遅くなったこと」、反転上昇は遅くなるペースの鈍化によるものなので、少子化対策が功を奏したためとは言えない。それに加えて、非ヨーロッパ系移民の増加も出生率を引き上げている(2018年は母親の23%が外国出身)。泉市長の認識は根本的に間違っている。
子育て支援が充実しているフィンランドでも、2019年の合計出生率は1.35に低下している。出生数の1/7は移民系である。
その他の北欧諸国でも、子育て支援の出生率引き上げ効果が疑問視されるようになっている。
泉市長は「政治がちゃんとやれば出生率は(自然に)上がる」と力説していたが、北欧諸国はその安直な主張に対する強力な反証になっている。
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