本当の原因を隠す『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』

非婚・少子化問題の第一人者のようになっている山田昌弘だが、近著には重大な問題がある。

欧米先進国の3パターン

山田は日本はフランスやスウェーデンとの違いを無視したために「同じような対策」を打っても成功しなかったと分析しているが、これは事実に基づいていない。

続いて、1960年代からフェミニズム、女性の社会進出の波が欧米先進国で起こると、日本でも、ウーマンリブ運動が起き、戦後一貫して増えていた「専業主婦世帯」が1975年を境に減少に転じ始めた。ここまでは、欧米先進国と同じような道を辿っている。
そんな中、1980年代。西ヨーロッパの大陸諸国(フランス、西ドイツ、イタリア、スウェーデン、オランダなど)は、さらなる子ども数の減少、つまり、少子化に直面することになる。合計特殊出生率が2を割り込む事態が起きたのである。次節で述べるように、その中のいくつかの国々では、少子化対策に成功し、出生率が回復する。
このような状況を見て、「いずれ、日本の家族のあり方や女性の生き方も、欧米と同じような方向に動くに違いない」と思うのは自然である。そしてその後、西ヨーロッパで起きたのと同様の少子化が日本でも起き、政策課題にのぼったとき、日本でも、少子化対策に成功したフランスやスウェーデンと同じような対策を打てば、少子化対策に成功できると思った識者や政策担当者が多かったのも、うなずける。
研究者の論文、著作から、政府の白書、一般啓蒙書に至るまで、少子化対策に成功した国として言及され、研究されているのは、スウェーデン、フランスが圧倒的に多く、オランダがそれに次ぐ。
アメリカ、イギリス、アイルランド、そして、オーストラリア、ニュージーランド(主に英語が公用語の国なのでアングロサクソン諸国と呼ばれる)は出生率の低下はほとんどなく、現在も2.0前後で推移している。
おおざっぱに言えば、欧米先進国と言っても、そもそも少子化が起きなかった国々(英米豪など)、少子化が起きたが政策を行って回復した国々(仏、スウェーデン、蘭など)、少子化が起きたが移民でしのいでいる国(独、伊、西、カナダなど)の3パターンに分かれている。

少子化対策に成功した(とされる)国

France métropolitaineの合計出生率(TFR)は1993年の1.66から上昇して2005~2015年には1.9を超えていた(灰色線は人口置換水準の2.07)。

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山田はこれを少子化対策の成功の証としているわけだが、そうではなく、「女性が子どもを作る時期が遅くなった」こととその減速によるものである。さらに、出生に占める外国出身者の割合も2018年には23%に達している。

出生率の情勢指標は、1966年には女性1人当たり子ども2.9だったのが、1975年には1.9、1990年には1.6へと低下したが、その後また上昇し、2010年頃には2で安定する。女性が作る子どもの数が減ったということも多少はあるが、その主な原因は、女性が子どもを作る時期が遅くなったことである。・・・・・・情勢指標の低下が華々しい様相を呈し、出産奨励主義者の間に一時パニックを引き起こすほどであったのは、とりけ女性が母となる平均年齢が上昇したためである。実際はいかなる時点においても、子どもを作る者としての生涯の全期間にわたって女性が産む子どもの最終的な数が、2人より下に落ちたためしはない。

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スウェーデンのTFRは上下動が激しいが、これは出産・育児支援制度の変更に伴う損得に合わせて出産のタイミングを調整しているためと見られる。2010年のピークからは再び低下しており、政策によって高出生率を維持しているとは言えない。移民による「ドーピング」も無視できない(移民を除くと2019年には1.62)。

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オランダも2000年代の反転上昇が帳消しになっている。2016年以降は出生に占める非西洋諸国出身者の割合が20%を超えている。

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フランス、スウェーデン、オランダを「少子化対策に成功した国々」とするのは事実に反している。

少子化が起きなかった(とされる)国

アメリカのTFRは急低下して過去最低に、非ヒスパニック白人に限ると1.6台に低下している。

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イングランドとウェールズのTFRも1.6台、UK出身者に限ると1.5台に低下している。

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アイルランドは脱宗教化が遅れたために例外的に高出生率だったが、やはり2010年代になると低下傾向が続いて2019年には1.72になっている。

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アングロサクソン諸国が「出生率の低下はほとんどなく、現在も2.0前後で推移している」というのは事実に反する。

北欧

ノルウェーもスウェーデンに似たような傾向で少子化対策に成功した国とされているが、2019年のTFRは過去最低で非移民は1.48となっている。

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さらに「不都合な真実」がフィンランドで、2019年のTFRは日本よりも低い1.35になっている。生まれた子の7人に1人は移民系である。

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フィンランドの専門家が分析するように、1970年代の出生率低下は主に出産時期の遅らせによるもので、最終的に産む数(コーホート出生率)はそれほど低下していなかったが、2010年代の低下にはコーホート出生率の低下も寄与していると推測されている(これは他の先進国にも共通する懸念)。

若い世代に、子供よりも自分の自由を優先するミーイズムが浸透したことが関係していると見られる。

これだけ子どもや家族への福祉政策が充実しているにもかかわらず、「子どもがほしくない」という人も増えている。
国営放送局Yleの調査によると、2008年から2018年にかけて「子どもが欲しくない」と答えた人の割合は10倍以上に増えた
But now, according to the study, women said that they're not having children because they don't want to lose their freedom. Some of those women said that if they gave birth to a child they'd have to give up travelling, enjoying hobbies and spending time with friends.
教育を受け仕事をする女性が増え、避妊がもっと簡単になったことで、女性がより少ない子ども数を選択するようになったのだ。
いろんな意味で、出生率の低下は成功談(サクセス・ストーリー)なのだ。

「子どもがほしくない」という人には北欧型の手厚い子育て支援も出生率引き上げには効果がない。最近では海外の専門家の間でも、北欧モデルの有効性に疑問が持たれ始めている。

But Prof Gauthier does note that even Scandinavia has begun to see a fall in its fertility rates, showing that the real key to higher birth rates remains unclear.
"With Scandinavia we thought they had got it right... until about last year when their fertility rate started to decline," she said.
“We’re moving towards a China-like situation but without any sort of one-child policy,” explains Senior Research Fellow at Nordregio, Anna Karlsdóttir.
Karlsdóttir is surprised that the generous provisions for parental leave and childcare in the Nordic countries have not had a greater impact on birth rates.
What has been impacted, however, is the rising age of first-time parents. Women want to complete their education and embark on their careers before having children.

考察

山田はフランスや北欧諸国は少子化対策に成功したにもかかわらず、それを真似た日本では効果が上がらなかったのは、日本人特有の価値意識のためと分析しているのだが、そもそもフランスや北欧諸国は少子化対策の成功例ではないので、日本で効果が上がらなくても不思議ではない。原因を「特有の価値意識」に求める必要はないということである。

たしかにフランス、そして、スウェーデンなどの北欧諸国は、1980年頃、出生率が2を大きく割り込み、1.6程度まで低下した。しかし、それ以降、政府の少子化対策が進み、多少の上下はあるものの、2015年には、出生率は1.92(フランス)、1.85(スウェーデン)まで回復している。

ここからは推測だが、他の著作物から判断すると、山田は男女共同参画などに肯定的なリベラルな価値観を持っているので、「フェミニズム、女性の社会進出」が少子化を促進する普遍的要因であることを世間に知らしめたくないのではないだろうか(アメリカではリベラルな青い州は赤い州よりも出生率が低い)。そのため、フランスや北欧諸国を真似た少子化対策が効果を上げなかったのは日本人特有の価値意識のためであり、少子化克服には日本人の意識変化が必要という日本特殊論・精神論でごまかす必要があったということである。

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(上図は2017年のアメリカ各州を白人の合計出生率が低い順から左→右に並べたもの。2016年の大統領選挙でドナルド・トランプ勝利の州は赤、ヒラリー・クリントン勝利の州は青に色分けしている。)

評価

★★☆☆☆

補足①

女のempowermentや男女の役割分担の否定→男女のマッチングが阻害される→あぶれる男女が大量発生する。男は精神的ネオテニーのkidultになり、女は鬼婆化する。

Twenty-year-old university student Diana Lam described Kong men at her age as “toxic.”
“They seem to be like ‘kidults.’ They are obsessed with video games and figurines. If a Kong man does not have a promising career or the ability to take care of a woman, Hong Kong women will not date him,” she said.

補足②

日本とフランスや北欧諸国の違いは価値意識よりも「輸入した奴隷」の有無である。

かつての「社交」に「仕事」が代わった現在、一度は消えた「乳母」が復活して、高学歴高収入の母親たちを支えている。今日の「乳母」は、乳をやったりはしないが、出産後間もなく職場復帰していく女性の子どもたちの世話をしているのである。
オペアの出身国と、この制度を利用している家庭についての調査結果によると、現在、オペアの約90%がフィリピン人であり、オペア雇用者の多くがシェラン島北部の高級住宅地を含む、年収2000万円以上の裕福な家庭だという。実態が明らかになるにつれ、この制度は異文化交流としてではなく、多忙を極める子持ち家庭が、オペアを家事と育児補助を担う安い労働力として、メイドのような形で利用しているということが明らかになった。そこで統合政策大臣は、この現状は元来の目的にかなっていないため、制度を見直すか廃止するのが妥当だと判断したのだ。
この提案に即座に不快感を示したのが、デンマークの大手新聞社(Berlingske)の女性編集長、Mette Østergaard氏だ。
彼女の主張はこうだ。デンマークは他の北欧諸国、欧州諸国と比較しても、まだまだ管理職レベルでの男女平等が進んでいない。自分のような立場の女性が仕事に集中し、なおかつ家庭で子どもと過ごす時間を確保するためには、家事と育児をしっかり担ってくれる人材が不可欠である。また子どもの世話はいつも同じ人であることが子どもの福祉を考えても最適であり、急な発熱などにも同じ家庭に暮らすオペアはすぐ対応ができる。オペア制度はデンマークのキャリア女性の権利を支える要であり、この制度を廃止することは、女性の社会進出を阻むことにもつながるのだと。

フェミニズムは元々、「上の女」が仕掛ける権力闘争の思想なので、下の女は敗者になることが運命づけられている。

But I was a history major and had been introduced to the suffragette movement, reading first-person sources where white women were espousing their right to vote as a way to uphold white supremacy. It was very instructive about what the goals of the feminist movement might be, as opposed to the words that were being proclaimed.

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