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経済

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#東洋経済オンライン

日本が貧乏国に転落したのは日本人がエコノミック・アニマルだから

日本が貧乏になっているという言説が増えている。 実のところ、1人当たり実質GDP成長率は他の主要先進国と比べて低くなかったのだが、賃金が上がらない+円安のために、国民の購買力が相対的に著しく低下している。プラザ合意後によく聞かれるようになった「内外価格差」という言葉も、いつの間にか「高い日本」から「安い日本」の意味に逆転している。 その急速な貧乏化の原因だが、日本を敗戦からわずか23年後(1968年)に世界第二位の経済大国へと成長させ、1979年にはアメリカ人に"Japa

「安い日本」が新常態

購買力平価よりもかなり円安の水準が新常態になるのではという考察だが、つまりは生産性が先進国に比べて低いので、非貿易財・サービスや労働力が安い後進国に退行するということである。発展途上ではないので後退国と言うのが適切かもしれない。 実質実効為替レートは1973年の変動相場制移行前の水準にまで低下。 円安→輸出ドライブにならない産業構造に転換している。 経常収支は黒字を続けているが、内訳が大きく変化している。黒字は同じでも、貿易収支の黒字は国内生産を伴うが、所得収支の黒字は

インフレと新年早々印象に残ったこと

これ👇をグラフで見る。 消費税率引き上げと2021年4月の携帯電話通信料大幅引き下げの前後で不連続にしている。 日本銀行に続々と送り込まれたリフレ派は、インフレ予想が定着すれば企業と家計の金遣いが荒くなるので経済の好循環が始まると主張していたが、現時点でそれを信じる国民はほとんどいないだろう。 労働生産性の上昇を伴う経済成長期には財価格の上昇率がサービス価格の上昇率を下回る(→サービス価格/財価格の比が大きくなる)のが通常だが、小泉改革での戦後最長の景気拡大期(2002

日韓逆転?

購買力平価換算の1人当たりGDPは2018年から日韓逆転しているが、市場為替レート換算での逆転もあり得る状況になっている。 2021年には大韓民国の1人当たりGDPは市場為替レート1円=10.4ウォン換算で日本の89%だったが、9.3ウォンなら並んでいた。 直近のレートは1円=9.5~9.6ウォンだが、対ウォンでの円安進行と成長率の韓>日が重なれば、2022年が「歴史的事件」の年になってもおかしくない。それを回避したいのなら、賃金が上がる構造を回復させることである。

「岸田政策」の問題点

二点取り上げる。 一点目だが、企業に関しては将来不安というよりも「国内市場の量的拡大が見込めないという確信」とした方が適当と思われる。この確信は人口減少という事実に基づいているので、政策によって変える(→将来不安を払拭する)ことは難しい。 二点目だが、これが「日本経済の長期低迷の原因」の一つであることに気付いていないらしい。 日本は 人口減少のために潜在成長率が低い 資本蓄積が進んでいる ために、資本効率が低いのが自然である。ここで、資本に対するリターンを引き上げ

日本の賃金が上がらない三つの理由

日本の賃金が上がらなくなった理由についてはこれまでにも再三記事にしてきたが、最近また話題になっているので、今回は三点に整理する。 一点目は、人口減少→国内市場の量的拡大が見込めない→(物価が安定していれば)売上高は右肩上がりにはならない、との認識が定着したことである。 増収が期待できない環境では、企業は 固定費を抑える/下げる 固定費の変動費化を図る(→雇用の非正規化) ようになるが、これは家計の購買力減少→企業の国内売上の減少につながるので、ひとたびこのような均衡

有料
100

大企業の労働分配率の推移

昨日の記事の補足。 このアトキンソンの記事の4ページ目に「日本の労働分配率の推移」のグラフがあるが、2000~2018年度と期間が短いので、大企業(資本金10億円以上)について1960~2019年度を示す。2009年度以降は純粋持株会社の分を調整している。 労働分配率とは付加価値(人件費+支払利息等+動産・不動産賃借料+租税公課+営業純益)に占める人件費の割合のことだが、分母から支払利息等を除くと1980~1990年代の上昇トレンドが消える。 企業の人件費の抑制の度合い

アトキンソンの日本経済分析はほぼ正確~「ケチ」よりも「シビア」が妥当

D.アトキンソンが当noteと同じことを言い始めた。 議論の結果、「日本経済の最大の問題は、企業の緊縮戦略にある」ということで意見が一致しました。 「企業の緊縮戦略」とは、簡単にいえば、日本企業が労働者の賃金を下げるだけで、投資も増やさず、配当も控え、浮いたお金を内部留保金としてためこんでいることを指します。つまり、日本で内需が足りていないのは、消費にまわるべき個人のお金を企業が吸い上げて、貯金していることが原因なのです。 デフレの正体も、経済成長率が低いのも、ここに主因が

リフレ→反緊縮の本田のアトキンソン批判

日本銀行にブタ積みを増やせと迫っていたリフレ派の本田悦朗元内閣官房参与の主張を検証するが、穴だらけである。 本田はアトキンソンが「人口減少で元々労働者が減っているのだから、生産能力をそれに応じて減らすべきである」と主張していると言うがそうではない。アトキンソンの論旨は「労働力が大幅に減少し続ける中で経済を縮小させないためには労働生産性を高めるしかない」である。 今後の日本では、他の国以上に「生産性がすべて」となります。なぜなら、これからの日本では何十年にもわたって、どの先

「知の巨人」のお粗末な財政金融論

「知の巨人」の知識不足を検証する。 その前に権丈だが、高資産家・高所得者は中・低所得者に比べると、低リスク・低リターンの国債よりも高リスク・高リターンの株式や不動産等の保有ウェイトが大きいことや、増税も累進課税の選択肢もあることからは、国債費が「高資産家・高所得者を助けて中・低所得者を挫く」ものとは必ずしも言えない。 なんらかの理由で金利が上昇した場合、財政を持続させるためには、政府は増税か給付のカットを行い、そこから得たお金を国債費(元利払い費)に振り向けることになる。

池上彰の誤解説(前):デフレ

池上彰が8月15日放送の「池上彰のニュースそうだったのか!!」で誤った解説をしていたので、経済に関する二点について指摘する。今回は前編。 「今の日本はインフレorデフレ?」との問いにゲストの若手芸能人5人中4人がインフレと回答していたが、池上は「デフレから抜け出せないまま」「デフレが深刻だったのでなかなかインフレにならない状態」との説明をしていた。 しかし、消費者物価指数は緩やかながら上昇基調にあるので、持続的に下落するデフレが続いているとは言えない。 デフレが良くない

低い国債金利と高い企業のROE

新型インフルエンザ等対策有識者会議「基本的対処方針等諮問委員会」の構成員に起用された財政再建論者の小林が、約1年前の記事で頓珍漢なことを言っていた。 意図してやっているわけではないだろうが、結果としては低金利のもとで政府債務が膨らみ続けている。私は、何らかのバブルによって、謎の状態が起きているのだと思う。 日銀が国債を買い続けたとしても、それを上回って民間の投資家が売れば金利は上がる(債券価格は下がる)はずだ。日銀が全部買って市場から国債がなくなったとすれば、今度は貨幣の価