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2020年8月の記事一覧

国債が消えても世の中からおカネは消えない

「国債が完済されると世の中からおカネが消える」という思い込みが正しくないことを示す。 世の中のおカネ(マネーストック)は銀行の信用供与によって生まれるが、1990年代までは民間向けが大部分を占めていた。銀行部門が保有する国債がすべて償還されても、民間向け信用供与に対応する預金は消えない。 1990年代末から第二次安倍政権発足頃までは、民間向け信用の減少and/or政府向け信用の増加が続いたが、依然として民間向けが政府向けを上回っている。 現代の通貨システムは「民間経済活

国の借金を返してもおカネが消えるとは限らない

池上彰の「国の借金」の解説については先日の記事で検証したが、今回は「池上は間違った事実を拡散している」「正しい経済の仕組みを解説する」と主張する経済学者について検証する。 動画の4:20~では明治初期の歳入は政府紙幣発行が主体で「この時代には国債もありません、国の借金という問題もありません」「物価を抑えるためにたまに納税してもらうことが必要になります」と説明しているが、これは事実とは異なる。 政府紙幣発行が主だったのは新政府成立直後の第1期(慶應3年12月~明治元年12月

「知の巨人」のお粗末な財政金融論

「知の巨人」の知識不足を検証する。 その前に権丈だが、高資産家・高所得者は中・低所得者に比べると、低リスク・低リターンの国債よりも高リスク・高リターンの株式や不動産等の保有ウェイトが大きいことや、増税も累進課税の選択肢もあることからは、国債費が「高資産家・高所得者を助けて中・低所得者を挫く」ものとは必ずしも言えない。 なんらかの理由で金利が上昇した場合、財政を持続させるためには、政府は増税か給付のカットを行い、そこから得たお金を国債費(元利払い費)に振り向けることになる。

商品貨幣と信用貨幣と銀行の役割

貨幣と銀行の役割について考察する。 貨幣には ①価値の単位(尺度) ②価値の保存 ③交換の媒体 の三つの機能があるが、まずは価値の単位として「円」が用いられているが、交換の媒体としては用いられていない、つまりは現金や銀行預金が存在しない経済を考える。 春に農家が猟師から10万円相当の肉を買い、秋に収穫した米を10万円分支払うとする(時間差物々交換)。この間、猟師は農家に貸し、農家は猟師に借りがある状態になる。貸借関係を明確化するとともに猟師が取りっぱぐれを防ぐための方

池上彰の誤解説(後):国の借金と中央銀行の役割

8月15日放送の「池上彰のニュースそうだったのか!!」を検証する後編。前編はこちら。 中央銀行番組では説明不足だったが、明治15(1882)年に日本銀行が創立されたことには同10(1877)年2月~9月の西南戦争が関係している。 西南役征討費は明治9会計年度(9年7月~10年6月)の税収の約8割、歳出総計(征討費を除く)の約7割に相当したが、政府はこのほぼ全額をⓐ政府紙幣の発行とⓑ国立銀行(国営ではなく国が認可した民営銀行)発行の紙幣の低利借入で賄った。それによる巨額の不

銀行貨幣と国家貨幣

銀行貨幣(private money)と国家貨幣(sovereign money)について整理する。 貨幣の三機能の一つが「価値の保存」で、価値を保証するものが現存する実物資産(ストック)であるものが実物貨幣(商品貨幣)、将来の収入(フロー)であるものが信用貨幣になる。 信用貨幣の発行体には国家(政府)と銀行(正確には預金取扱機関)があり、国家貨幣は納税者の担税力、銀行貨幣は借り手の返済能力という無形の「資産」を価値の裏付けにしている。税金の意義は国家貨幣の価値を保証する

転向リフレ派の理解不足

財政拡大は不要のはずのリフレ派が転向して大規模財政出動を主張しているが、この講演を聞くと現代の貨幣制度の構造と日本経済について理解していないことがわかる。 「企業と政府が投資を拡大することで生じる資金不足は日本銀行がマネタイズする」と何度も言っているが、市中で用いられるマネーを作るのは民間銀行の役割であって中央銀行ではない。銀行券は交換される銀行預金がなければ市中には出現できない。また、中銀預金は銀行間決済に用いられるもので、企業や政府の投資をファイナンスするものではない。

信用貨幣論の誤解

最近、信用貨幣について不正確な言説が流行しているようなので、その一つのこの記事を題材にして検証する。 日本政府は「何もないところから」自国貨幣を創造することができますし、実際にしています。 このことは、政府の予算執行にも表れていて、年度はじめの4月1日に政府が国会の議決を経た予算を「何もないところから」執行し、確定申告によってその年度の税収が確定する(税の払込が終わる)のは翌年の5月頃です。ですので、そもそも政府は、町内会のように集めた会費で成り立っているのではなく、「何

個人の借金と政府の借金は本質的に同じもの

先日の記事では、国債残高の多寡を個人の借金の感覚で判断してはならないと書いたが、どちらもdebt financeであることは共通している。そこで今回は、国債発行と個人の借金は全く別物ではなく、本質的には同じであることを示す。 支出の原資(財源)普通のサラリーマンA氏がZ銀行のローンで住宅を購入するとする。 Z銀行がA氏に信用供与(預金発行)→住宅販売会社に支払→A氏が給与収入からZ銀行にローンを返済(元金+利息) 住宅販売会社に支払われたカネはZ銀行が信用創造したものだ

国債は「返済の必要なし」

度々書いてきたことだが、重要なので改めて取り上げる。 個人には寿命があるので死ぬ前に返済し終えなければ子や孫にツケを回すことになってしまうが、企業や政府は存続し続ける限りは借りていられるので、期限が来る度に借り換えを繰り返していけばよい。 企業には市場競争に敗れて存続できなくなるリスクがあるが、政府は外国に征服されたり内戦で破綻国家になったりしない限りはそのようなリスクはほぼゼロとみなせるので、利払いを続けられる限りは借入を増やせる。日本国政府の利払費は財源の税収の約1/