銀行貨幣と国家貨幣

銀行貨幣(private money)と国家貨幣(sovereign money)について整理する。

貨幣の三機能の一つが「価値の保存」で、価値を保証するものが現存する実物資産(ストック)であるものが実物貨幣(商品貨幣)、将来の収入(フロー)であるものが信用貨幣になる。

信用貨幣の発行体には国家(政府)と銀行(正確には預金取扱機関)があり、国家貨幣は納税者の担税力、銀行貨幣は借り手の返済能力という無形の「資産」を価値の裏付けにしている。税金の意義は国家貨幣の価値を保証することで、国民の担税力(←経済規模)が国家貨幣の発行限度になる。国家貨幣の価値は政府が納税に用いることを国民に強要するから生まれるのではない。

画像5

信用貨幣は借り手の返済能力や納税者の担税力を超えて過剰発行されると減価(→悪性インフレーション)して経済が混乱してしまうので、制度的な歯止めが必要になる。銀行の過剰発行は公的規制で抑制できるが、政府には自主規制しかないので、フランス革命期のアシニャ紙幣や日本の西南戦争時のような失敗を防ぎにくい。

そこで現在では、政府は無利子の国家貨幣の代わりに有利子の債務証券(国債)を発行して銀行貨幣を利用する仕組みが世界標準になっている。国債濫発→市中に銀行貨幣が溢れる→悪性インフレのリスクが高まる→国債金利上昇となるので、債券市場が政府の「貨幣濫発」にブレーキをかける仕組みである。税収には国債の利払と償還を確実にすることで国債の価値を保証する意義がある(利払費を十分に賄えればよい)。税収が無リスク金利での借入を財源とした財政支出を可能にしていることは、「税は財源ではない」のではないことを意味している。

画像6

中央銀行の役割は、銀行⇄銀行や銀行⇄政府の受け払いに用いる無リスク貨幣を発行することで、信用リスクを無視できる国債はその裏付け資産として多用されるが、政府への信用供与は原則禁止されている。

国庫が中央銀行にある預金口座に一元化されている場合、政府は国債発行と引き換えに中銀預金を受け取るが、これは「国債は銀行預金では買えない」ことや「国債発行は事実上の財政ファイナンス(中央銀行の政府への信用供与)」であることを意味しない。下図は買い手が機関投資家の場合だが、政府預金の増加に対応するのは機関投資家の銀行預金の減少であり、機関投資家は銀行預金で国債を買っている。

画像4

機関投資家の取引銀行と中央銀行は仲介役なので、民間部門に銀行預金がなければ国債は市中消化できない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?