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アルツハイマー型認知症と睡眠障害について


認知症と睡眠障害は併発することが多い組み合わせだと思います。

特に夜勤に携わる介護士さん、看護師さんとお話しすると、ものすごく徘徊したり寝てくれなくて困った…というお話をたくさん聞きます。

在宅で介護をされている家族様も「夜急に歌い出して寝れなかった。」「急にうろうろし出した。」「わけのわからないところで転んでた。」

という話も聞きます。

今回は、アルツハイマー型認知症と睡眠の因果関係を解説していきます。


認知症における睡眠の特徴

認知症の睡眠障害は、重症度や変性の進行状態に関連しています。

アルツハイマー型認知症では、マイネルト基底核、脚橋被蓋核、後外側被蓋核、脳幹のノルアドレナリンニューロンが変性し、レム睡眠の減少につながるのです。

とはいえ、マイネルト基底核とか普段介護していてもまず触れる言葉ではありませんよね。

レム睡眠に関してはこちらもご参照ください。

では、脳の部位に関して解説します。

・マイネルト基底核

脳の淡蒼球の下の方にある部位です。

この場所が編成することにより、アセチルコリンの産生が低下します。

アセチルコリンは脳の神経伝達物質でリラックスしている時に働く副交感神経や運動神経からも分泌されます。

この部位の主な機能は、視覚認知における現実と仮想現実の比を調節することです。

・脚橋被蓋核、後外側被蓋核

脳幹にある神経核です。

網様体賦活系を介して意識レベルや睡眠・覚醒、注意、動機付け、学習の調節に関わっていると考えられています。

・ノルアドレナリン

アドレナリンと共に、この化合物は闘争あるいは逃避反応を生じさせて、心拍数を直接増加させるように交感神経系(興奮する神経)を働かします。

脂肪からエネルギーを放出し、筋肉の素早さを増加させます。


以上のように睡眠障害を生じる例はこういった覚醒や睡眠に関わる部位が変性している可能性が高いのです。


アルツハイマー型認知症の方の睡眠の特徴である『睡眠時間の減少』『睡眠効率の低下』『浅い睡眠時間の増加』『夜間覚醒の増加』『レム睡眠の減少』が挙げられます。

しかし、この特徴は高齢者の睡眠の特徴とも一致する部分が多いです。

アルツハイマー型認知症では、これに徘徊、日中の居眠りにつながります。


サーカディアンリズム睡眠障害

サーカディアンリズムとはいわゆる体内時計です。

私たちは、朝起きて日の光を浴び、太陽の光の下活動して過ごし、太陽が沈み、月が昇り夜になって家に帰り、寝床に着く。

そういった生活を送っています。(逆の方もいると思いますが…)

しかし、大多数の方がそうだと思っています。

認知症になるとこのサーカディアンリズムは乱れてしまいます。

今回は睡眠に着目して解説します。

まず、睡眠に関わるホルモンに関して紹介しておきます。

メラトニンとセロトニンです。

・メラトニン

メラトニンは、脳内の松果体において生合成されるホルモンです。 網膜から入った外界の光刺激は、体内時計(生物時計・視交叉上核)を経て松果体に達します。 明るい光によってメラトニンの分泌は抑制されるため、日中にはメラトニン分泌が低く、夜間に分泌量が十数倍に増加する明瞭な日内変動が生じます。


・セロトニン

脳内の神経伝達物質のひとつで、ドパミン・ノルアドレナリンを制御し精神を安定させる働きをします。他の神経伝達物質であるドパミン(喜び、快楽など)やノルアドレナリン(恐怖、驚きなど)などの情報をコントロールし、精神を安定させる働きがあります。


メラトニンは光の影響を受けやすく、日中は光の影響で分泌が抑制されます。

夜になると分泌量が促進されていきます。

このメラトニンの量が少ないと夜間の寝付きが悪くなってしまいます。

セロトニンはメラトニンと逆で日中光をしっかり浴びることにより分泌されます。

セロトニンは精神を安定させる役割もあるので不足してしまうと鬱病になったり、感情のコントロールがうまくできなくなってしまうことがあります。

メラトニンはセロトニンを原料として分泌されます。

なので、セロトニンが日中分泌されていないとメラトニンが分泌されず、寝付きが悪くなってしまいます。


太陽の光を浴びないことにより不眠になってしまうのはこういったメカニズムによるものです。

認知症の方は日光をあまり浴びていない傾向にあります。

また、平均75歳の健常な高齢者と睡眠障害が合併しているアルツハイマー型認知症の方とメラトニンの分泌量を比べた研究では、アルツハイマー型認知症の方の方がメラトニンのそう分泌量が低下しているみたいです。


個人的な見解とケア

認知症と睡眠障害は介助負担を著しく増加させる組み合わせではないかと私は感じています。

介護をする家族からしても、夜間急に大声を出されたり、徘徊して行方不明になる心配があると思います。

この状態を少しでも緩和できる方法を考えてみましたので、よろしかったら参考にしていただければと思います。

1.日中散歩する習慣をつける

サーカディアンリズムを整え、ホルモンの分泌を促していくためにも、太陽の光は必要不可欠です。

太陽の光を浴びるには外出が一番だと思います。

夜寝付きが悪くなったと感じるのであれば、散歩を習慣かしても良いのかもしれません。


2.少し疲れるよう日々の生活を変えてみる

施設でも自宅でも認知症を呈すると活動量は格段と減ってしまいます。

リハビリや運動機会を提供して疲れるというのもときには大事です。

脳に変性がなくても疲れていなければ寝れない時は寝れません。

家事や施設の仕事を手伝ってもらうなど疲れる手段はいろいろあると思います。

活動を底上げして生活リズムを整えるのも良いと思います。


3.服薬の調整

いろいろ試してみたけど大声を出して暴れる…といった本当に厳しい状況であれば、主治医に相談することをお勧めします。

施設でもそうですが、暴れるということは脳の抑制が完全に外れています。

服薬で調整できるのであれば看護師さんやDrと相談して服薬のコントロールも必要だと思います。


あくまで一例ですし、もっと良い対応方法もあると思います。認知症の対応に正解はありません。

睡眠障害の介入は難しいですが、本人も辛いと思います。

いろいろな手段を試していきましょう。

最後までご覧いただきありがとうございました。


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