マーケティング部は、リアルに閉じこもってはいけない。

デジタルマーケティング(デジマ)は、よく出島と揶揄されることがある。出島とは、1634年に江戸幕府が外人流入防止策として築造された人工島のことである。その心は、デジタルマーケティング(デジマ)は特殊な部隊であり、重要性は何となく認められているものの、本丸(本業)とは切り離され、ビジネスに与える影響は小さい部隊である、というものである。

特にブランドが強い企業において、このような空気感が強い傾向があり、マーケティング部門内ですら、非デジタル(オフライン)のコミュニケーションが王道で、社内の影響力を強く持っていたりすることが多い。どうしても会社内だと無意識であっても政治的な空気感が存在するため、「リアル対デジタル」という、対立軸が生まれやすくなってしまい、非デジタル担当者からすると、今まで特殊部隊だった出島の人たちが我々の本丸領域に逆流して攻め入ってきた、と身構えられることが多々ある。

企業組織内外において、この間違った認識を変えていくことが、デジタルトランスフォーメーションの根幹だと思っている。デジタルマーケティングの推進において、マーケティングのデジタル化のフェーズはとっくに終わっており、どう組織を変革していくか、そのためのマーケッターとして、どうやってPerception changeを実現していくか、という段階が今であり、マーケッターとしての腕の見せ所だと思う。

私は、社内のワークショップやトレーニング等の通じて、社内マーケティング関連部門の人たちや上層部、そして(総合)広告代理店のパートナーたちに、「リアルに閉じこもられないでほしい」と伝えている。これは、筆者がマーケティング業務に携わり始めた10年近く前に、「リアル」なマーケティング担当者の方々から、デジタルは事業貢献度が低いという前提で「デジタルの世界に閉じこもるな」といったことを言われてきたことの裏返しである。

今、デジタルでのコミュニケーションを置き去りに、リアルだけでのコミュニケーションは成立しない。これはデジタルがリアルよりも偉い、というような対立軸ではなく、すべてのオフラインコミュニケーションにおいてもデジタルによって測定され、施策を拡張させるスキームを組む必要があるということである。

 近年、バーチャルインフルエンサーというマーケットが活況である。彼らは実在しない、CGによって創造されたバーチャルヒューマンであるのだが、多くの支持者(フォロワー)を獲得し、そのファッション性、価値観、スタイルやコンテキストに多くの主に若い人たちが共感している。人々は、そのインフルエンサーが実在しないことを知った上で、その何かに共感しフォローしている、という現象が非常に興味深いと思った。
私は仕事で、バーチャルインフルエンサーの方々と協業し、「中の人」とディスカッションすることで、この現象について深く考えさせられ、もはやバーチャルはリアル以上にリアルである、と感じた。つまり、企業視点で生活者とのコミュニケーション活動を考えたとき、バーチャルに陶酔している生活者を理解し、バーチャルを通じてコミュニケーション活動をすることは、もはやリアルを超えていると考えるに至った。

最後に。当たり前だが、企業のプロダクト(商品)とカスタマーが出会うリアルの場所だけを整えればよいのではなく、そこに至るまでのすべてのプロセスにおいてコミュニケーションプランを構築することが、企業のマーケッターの仕事である。そう考えると、デジタルの重要性をより感じることができると思う。

「リアルの世界に閉じこもらない」。自戒を込めて、常に言い続けていきたいと思う。

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