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賽の河原 超短編
子供が親より先に死ぬと三途の川のほとりで石を積まされる。石を積み上げた頃に鬼が来てそれを崩す。
その作業を無限の時間の中繰り返す。
僕は8歳の頃 既にこの世の限界、と言うか生きている事に意味なんて無いと考えるようになった。
きっと可能性は無限大でこの先の人生には色んな楽しい事や幸せが待っているなどと月並みな事を言われるのだろう。
愛する人達と築き上げる人生。努力次第では富と名声を得ることだって出来るみたいな事を言われるのだろう。
でも、僕に言わせてみればこの世全ての事には苦悩がついて回る。
僕は二年間と期限を設けて人生というものを多感的に観察する事にした。
結果人生には意味が無い。死ぬなら早ければ早い方が良いとの答えに辿り着いた。
この答えが正解なのかどうかは僕自身が後100年近く生きてみないと分からない事なのかも知れない。
でも、待つのは苦手なので11歳の誕生日に僕は自身で毒薬を調合した。
これで意識も身体も全てから解放され無に返れる。
だが、僕は死後の世界の存在を計算していなかった。
よりによって賽の河原に来るはめになるなんて。
これからずっとこの河原でただ石を積み続けるなんて、人生で味わう筈であろう苦悩より辛い気がする。
計算違いにも程がある。
僕は河原の小石を手の上で弄びながら辺りを見回し、冷静に自身の置かれている状況を見つめ直した。
石を積む、高くまで積み上げる、鬼に崩される、また積み直す。
くだらない。
要は積まなければ崩されない。
ただ何もしなければ良い。
仮に殴られても死にはしない、むしろ死にたい。
つまり、この石を積む意味は存在しない。
そこで僕はストライキを決行する事にした。
ストライキを行うのなら人数が多いに越したことはない。まず僕は他の子供達に共闘を促した。
何名かは僕に賛同したものの、大半の子供はそのまま黙って石を積み上げ続けた。
想像と違う。
皆で立ち向かえば、こんな無駄な事をせずに済むのに。
誰かに言われた事を疑問も持たずやり続ける。こいつらは生きていても死んでいてもどうせ死んでいるんだな、と僕は彼らを見限った。
僕たちはストライキに賛同した数名で集まり三途の川を眺めながら次に打つ手を相談した。
「おい。お前ら石を積めと言っているだろう。」一人の鬼が来て僕たちにそう言った。
「何故こんな馬鹿な事を延々と続けさせるのだ?あなたたちに何か得でもあるのか?生産的な答えが聞けない限り僕たちは作業を拒否します。」
僕がそう言うと鬼は赤い顔を更に赤くし「勝手にしろ」と向こうの方に去って行った。
鬼の意外な対応に少し拍子抜けしたが、まぁ当初の予定通りなので問題は無い。
感覚的にして多分一カ月程が経ったが事態は何も進展しない。
鬼たちは僕達に関与しなくなったし、僕達もただただ何もしないだけだった。
お腹も空かないし、眠くもならない、無限の時の中無気力だけが蔓延する。
唯一の変化と言えばストライキに賛同していたメンバーが一人また一人と抜けて行き、また石を積み始めた事だ。
半年ぐらいが経過したころ遂にストライキをしているのは僕一人になっていた。
退屈しのぎに石を積んでも良いかなと思ったが、それでは僕の要求が通らない。
僕の要求?考えてみればそんな物は無い。
僕は河原で一人ただただ手の上で小石を弄ぶだけだった。
「君はいつまでそうしているつもりだ?」
声をかけられた方を向くと、この場所には似つかわしくないスーツ姿の男性が立っていた。
「別に。おじさん、なんでそんな格好しているの?」
「ここに居る子供達はみんな石を積んでいる。君は何故それを拒絶する?」
「あ、無視?まぁいいや。だって、そんな事をしても意味が無いでしょ。」
「意味が無いかどうかは君が決める事では無い。君は勝手な思い込みで人生に意味が無いと自らの命を絶った。ここでも同じ事を繰り返すのか?」
「じゃあ教えてよ。何の為に石を積むのか。」
「君は本来の人生の役目を終える前に命を絶った。そして同時に親を始め周りの人間を不幸にした。その罪を浄化させる為に石を積むのだ。石を積み続ける事によって浄化された魂は死ぬ前の状態に戻りもう一度人生をやり直せる。賽の河原とは罰を与えるのと同時に再生の機会を与えるそんな場所だ。未熟な子供がしでかした事だ。一度くらいは慈悲を与えて貰える。」
「へぇ。なるほどね。現世に戻れるか。まぁここに居るよりはマシか、それだったら僕も石を積もうかな。」
「今の話は嘘だ。」
「えっ?嘘なの?」
「どちらにしても君には真偽を確かめる術は無い。
君は物事に意味が無ければ何もしない。意味なんて考えず、とにかく目の前にある石を積めばいい。盲目的に。そうすれば何か意味が見えるかも知れないし見えないかも知れない。ただ」
「ただ?」
「何もしなければ何も変わらない。」
「でも、そんな時間も目的も分からずに石を積み続けるなんて、そんなのただの地獄じゃないか。」
「なんだ、知らなかったのか。ここは地獄だ。」
「確かに、そうか。」僕は改めて辺りをぐるりと見渡し、ずっと手の上で弄んでいた石を見つめた。
そして、とりあえず目の前の石の上にそれを乗せた。
「あの、ところでおじさんはなんでスーツなの?」
「これか?」
「だって賽の河原にスーツって変でしょ。何か意味があるの?」
「特に意味は無い。」
そう言いスーツ姿の男は去って行った。
僕はさっき乗せた石の上にそっともう一つ石を積んだ。
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