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牛乳 超短編

 大嫌いな牛乳を飲み始めたのは小学校3年生の頃

 大好きなアキ子ちゃんより身長が低かったからだ。

 僕は鼻を摘みながら毎朝毎晩牛乳を飲んだ。

 牛乳の恩恵に授かったからなのか、成長期なのか僕の身長はみるみるうちに伸び小学校を卒業する頃には列の後ろから数えるくらいになっていた。

 僕は中学に入学したらアキ子ちゃんに告白しようと決めていた。

 そして中学の入学式終わりに僕はアキ子ちゃんを校舎の裏に呼び出した。

 校舎の裏で僕達は向かい合いアキ子ちゃんは少し不安そうに静かに僕の顔を見上げて来た。

 僕はその瞬間にとんでもない事に気付いてしまった。

 そして、その瞬間に僕の長年に渡る初恋は終わりを迎えた。

 僕は家に帰り悲しくて悔しくて泣き続けた。

 そして、翌朝家の牛乳ポストに届けられていた牛乳瓶を叩き割り、そのまま近所を回り歩いて、次々と牛乳瓶を割った。

 大量の返り血ならぬ返り牛乳を浴びた頃に、僕は近所の大人たちに取り押さえられた。

 皆に何故こんな事をしたんだ?と聞かれ

 僕は「こんな事になるなら、大きくなりたくなかった。」と答えた。

 意味が分からないと困惑の表情を皆が浮かべ、僕は両親の下で更に叱られた。

 叱られる事は覚悟していたし、別に殴られても良いと思っていた。

 それよりも大切の物を牛乳のせいで失った怒りの方が大きかった。

 失われた時間はもう二度と戻せない。

 僕は貴重な時間を無駄に進めてしまったのだ。

 よりによって大嫌いな牛乳のせいで。ほんの小さな恋心のせいで。


 校舎の裏でアキ子ちゃんに見上げられた時に僕は気付いてしまった。

 僕は女の子を下から見上げるのが好きだったんだ。

 近くからアキ子ちゃんを見下ろした瞬間に僕の恋心は嘘みたいに冷めてしまった。

 僕はアキ子ちゃんをその場に残し泣きながら家に帰った。

 気付くのが遅すぎた。もっと早く自分自身と見つめ合っていれば途中で牛乳を飲むことを止める事も可能だったはずだ。


 これからの人生、伸びきった僕の身長では恐らく「女の子を見上げる」を味わう事は少ない。

 僕は絶望のまま朝食を食べた。

 何の楽しみも無い人生の始まりだ。
 授業の時間割表をぼんやり眺めていると、残されていた希望に気付き歓喜した。
 中学からは英語の授業が始まるのだ。
 

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