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赤いピン 超短編
外では蝉が我が世の春とばかりに騒ぎたてている。八年近くも地中に居た反動は穏やかではない。
いつもながら思う事だが実家という場所は本当に退屈だ。
お盆休みに帰省した俺はやる事もなくゴロゴロと、ただ時間を持て余していた。
今更この辺りを出歩く気にもなれないし、友人達も誰が地元に残っているのかも曖昧だ。家庭もあるだろうし、わざわざ連絡を取って約束を取り付けるのも面倒くさい。
妻や子供達は少し遠くの公園にピクニックに出掛けて行った、天気も良いので一緒に行こうと誘われたが、口から出た瞬間に消えるくらい適当な理由をつけて断った。
別に暇だから行っても良かったなと、後から少し後悔した。
そのまま何をする訳でも無く、ソファに仰向けに寝そべりだらしなくスマホをいじっていた。
そうしていると、ふと、駅までの道を検索してみようと思い立った。
駅まで行く道は何通りかあり、昔よく家族でこっちの道の方が近いと言い合っていたのを思い出した。
地図アプリを開くと地図の画面上に赤いピンが刺さっていた。
間違って刺してしまってたのか?
この辺りに来るのは久々だし道を検索する事もなければピンを刺した覚えもなかった。
ところで、このピンの場所は一体どこなんだろう?おそらく何かの拍子に間違えて刺したピンだろうけど、不思議と少し興味が沸いた。
歩いて行くには少し遠いか、
そこで、俺は母の自転車を借りることにした。
あんなに出不精だったのに、知らぬ間にこの謎の赤いピンの場所に行く事が決まっている自分に少し笑えた。よし、探検だ。
思えば自転車に乗るのも久しぶりだ。本当にいい天気だな。日差しが少し目に痛い。
昔は、この辺を毎日自転車で友達と走りまわっていたなと、少しノスタルジックな気分に浸ってみた。
そんなに田舎でも無いけど、決して都会では無い、そんな町だ。
小川も流れているし田んぼもある、小さな山で虫取りも出来た。
赤いピンの場所はと、自転車を止めて、もう一度スマホで確認する。
そもそも、この町で地図なんて使った事がなかったから上から見るとこんな形の町だったんだなと目新しさすら感じた。
赤いピンの刺さっている場所の近くで自転車を降り、道の端に自転車を停めた。
目の前には苔の少し生えた石の階段があり登った所に神社の鳥居がある。
そうか、ここは神社だったのか。子供の頃はここが神社だなんて意識してなかった。
俺は階段を登り鳥居をくぐった。さらに奥に進むと神社の境内が見える。境内の横を抜け、少し奥の目立たない場所に大きな切り株がある。
大きさでいうと幅3メートルくらいで、その切り株にはちょうど鎌倉のような穴が空いている。
俺たちが掘った穴だ。赤いピンはこの場所に刺さっていた。
階段を一気に上がったせいか、全身から汗が溢れ出て、その汗と一緒に当時の記憶も溢れてきた。
小学生だった俺たちは毎日いつもの四人組で遊んでいた。
ある日この切り株を見つけ、ここを俺たちの秘密基地にしようと毎日少しずつ切り株を削り穴を掘っていった。
切り株の穴に四人が入れる大きさになった時に俺たちは小遣いを出し合ってアイスクリームとラムネで基地の完成を祝い乾杯をした。
そして誓いを立てた。
「ここは、俺たちだけの秘密基地だ。絶対誰にも内緒な!母ちゃんにも!俺たちでずっとここを守るんだぞ!」
切り株の穴はあれから20年以上も経っているのに不思議と綺麗なまま残っていた。
あの頃の事を思い出すのは久々だ。
なんだか赤いピンに笑われた気がした。
俺の方はすっかり歳を取っちまった。なんて、少し役者を演じてみたら少し涙が出た。
帰り道に当時よく行っていた駄菓子屋に寄ってアイスクリームを買って食べた。
久しぶりの夏休みだ。
ひょっとしたらあいつらも赤いピンに呼び出されて来てるかなと思ったけど、流石にそれまでは叶わなかった。
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