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嘘つきの本当 超短編

私は、あまりにも多くの嘘をつき過ぎました。
何から何まで嘘ばかりなので、
自分の存在すらも嘘のように感じます
朝起きてから夜寝るまでが全て嘘なのです。
呼吸をするかのように嘘をついてしまうのです。
女性を口説いたりする時はもちろんの事ですが、
職場でも友人達にも隙さえあれば嘘をつき虚像の自分を作り出しそれを演じていました。
友人から相談を受けた時も、どこかで失敗する事を願いながら、アドバイスをしていました。
大切な人の祝いの席でも無機質な妬みを抱えながら感動の涙を流していました。
遠くの方の災害や戦争の凄惨たるニュースを見ている時にも、更なる被害の拡大をどこかで期待しながら、早く収まって欲しいと言い募金活動などに勤しみました。
身近な人助けをする時も同じです。安全な場所から優越感に浸りながら奉仕していました。
他人の言葉を借りて愛の言葉を作り出します。
美味しくないものを美味しいと言います。
眠いときも我慢して、やりたく無い事をします。
観たくないものを観て
飲みたくない物を飲みます。
逆に本当の事は何か無いものかと考えます。
考えますが、確かに本当の事は何も無いのです。
嘘に塗れた私の人生は屋台骨からして、つぎはぎだらけなので
そもそも本当という概念というものが存在していないのです
本当の自分なんて言葉を聞くと滑稽にすら思えます。
逆説的に言えばあの時その時に嘘をついたと言う事実こそが唯一本当の事なのかも知れません、
そんな私ですから他人の言葉も行動も総てが嘘に思えてしまいます。
全ての景色は蜃気楼のようです。
クリスマスやお正月はもちろん
結婚式やお葬式
家族の愛や生まれたばかりの赤ん坊の産声すら陳腐に思えてしまうくらいです。
私の本当の気持ちは真実を求めたい
ですが、その気持ちそのものが嘘なのです
皆が皆で嘘をつき、つき続け、積み重ね、固めたものこそがこの世界なのです。
私は今も無邪気に庭で遊んでいる最愛の妻と娘に微笑みを送り返すのです。

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