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高尾歳時記 2023年10月27日(金)
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天気:晴れ
気温:22.5℃(高尾山山頂 12:00)
人出:混雑
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シンガーソングライターの谷村新司さんが亡くなりました。
「昴-すばる-」や「いい日旅立ち」など、これまでも、そしてこれからも歌い継がれていくであろう不朽の名作をこの世に送り出しただけでなく、その群を抜く比類なき歌唱力はもちんのこと、洒脱ながらもユーモアたっぷりの軽妙なトークでステージでも聴衆の心をガッチリと掴む、まさに不世出のアーティスト。アリスの時代から両親が大ファンだったため、物心ついたころにはラジカセ(もう死語でしょうか…)からいつも歌が流れていて、日常生活の一部でした。哀惜の念に耐えません。
数々の名曲のなかでも「昴-すばる-」は小学生の時、市の合唱コンクールの課題曲になり、みんなで一生懸命練習した思い出の曲です。星の名前であることは図鑑を見て知っていましたが、その頃はすでに高尾でも夜は街の光が明るく、夜空に瞬く星を見ることはほとんどできませんでした。
昴を肉眼で初めて見たのは、それからだいぶ経ち、高い山に登るようになってからです。南北アルプスの3,000m級の高山には、街の光が全く届かない場所がまだ残っています。空気が澄み、雲もなく、月明かりもない新月の夜は絶好の天体観察日和。夜明け前、漆黒の闇の中ヘッドライトを照らして出発。街を含めどこからも光が届かない稜線上でザックをおろし、登山道に仰向けに寝そべって、ヘッドライトを消します。すると視界に広がるのは、掛け目も誇張もなく数千もの星がまたたく満天の星空。あまりにも凄すぎて、恐怖を覚えるほど。子供のころ読んだ本に、はるか太古、天を埋め尽くす星々の恐ろしいほどの重量感に、「空が落ちてきやしないか」と本気で心配した学者がいたというお話があったのを思い出しました。こどもの時分は、本物を見たことがなかったので想像力が及びませんでしたが、いまはその心配を理解できます。
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寝そべりながら、まずは比較的容易に見つけることができる、オリオン座の三つ星を探します。そして、オリオン座ベテルギウスとリゲルの位置関係からオリオンの左手の付け根にあるベラトリックスを見つければ、その先にある、全天21の1等星のひとつであるおうし座のアルデバランが見つかります。ここでベラトリックスとアルデバランを結んだ延長線上を見ると、複数の星が寄り添って輝く連星が見つかります。それが昴(プレアデス星団)です。
話は全く変わるようですが、日本語には、自動詞と他動詞があります。自動詞は目的語をとらず「~は」や「~が」などの形になる動詞、他動詞は目的語をとり「~を」などの形になる動詞ですね。
例えば:
家が建つ
稲が育つ
議論は続く
扉が閉まる
問題が片付く
…は自動詞
家を建てる
稲を育てる
議論を続ける
扉を閉める
問題を片付ける
…は他動詞
「すべる」ということばがあります。この語を辞書で引くと、語義が違うふたつのことばが別掲されています。
広辞苑から引きます(注1)。原文縦書き。
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す・べる【統べる・総べる】《他下一》
①個々のものを一つにする。別々のものをまとめる。②支配する。管轄する。
すべ・る【滑る・辷る】《自五》
①物の上をなめらかに移行する。物の間を滞りなく通る。②にじり移る。すわったまますって行く。③静かに退出する。④足がなめらかに動いて止まらない。⑤位を降りる。退位する。⑥生まれおちる。⑦手に取ろうとしたものがすり抜ける。⑧思わず言う。⑨落第する。
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双方ともつづりは「すべる」ですが、語幹と語尾の間(動詞活用の位置)を示す「・」が付されているところが違うこと、そして、前者は他動詞、後者は自動詞としていることから、ことばとしては全く違うものであることがわかります。以下便宜のため、「す・べる」を[A]、「すべ・る」を[B]とします。
[A]は他動詞下一段活用。以下の通り活用します。
未然形 す・べない
連用形 す・べます す・べた
終止形 す・べる
連体形 す・べるとき
仮定形 す・べれば
命令形 す・べろ す・べよ
[B]は自動詞ラ行五段活用。以下の通り活用します。
未然形 すべ・らない すべ・ろう
連用形 すべ・ります すべった
終止形 すべ・る
連体形 すべ・るとき
仮定形 すべ・れば
命令形 すべ・れ
さてさて、勘のいいかたにはもうこの時点で話のスジがバレているように思いますが、[A]の自動詞はなんでしょう。
以下、日本国語大辞典(注2)から引きます。原文縦書き。
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すば・る【統】《自ラ四》
(「すべる(統)」に対する自動詞)集まって一つになる。一つにまとまる。統一される。すばまる。すまる。
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同じく、日本国語大辞典から引きます。原文縦書き。
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すばる【昴】《名》
おうし座にある散開星団プレアデスの和名。二十八宿の一つで昴(ほう)。肉眼で見えるのは六個。統(す)べる星の意で、古くから王者の象徴、農耕の星として尊重された。
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広辞苑からも引きます。原文縦書き。
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すばる【昴】《名》
(一つにまとまる意の「統る」から)牡牛座にある散開星団。プレデアス星団。
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今を生きる我々にとって、「すばる」は固有名詞でしょう。某自動車メーカーのブランドに採用されていることもありますしね。しかるにこのことばは、はるかむかし、同じ星を見ていた私たちの祖先が、青白い星が連なり寄り添う様子をいいあらわしたものです。それには、その情景をことばに詠まんとする詩情を覚えます。
こんにち固有名詞としての用法以外語彙としては失われているに等しい「すばる」ですが、後の世を生きる我々に先人が残してくれた、何か大切なもの、心の豊かさを生む情緒や先人とのつながりを考えるきっかけをくれる、大事な無形の財産のように思えます。
そのようなことを考えながら、文明から隔絶された大自然で、漆黒の暗闇の稜線上に寝そべり、ときおり吹き抜ける風の音を聞きつつ、満天の星空を見上げます。
星は すばる。彦星。夕づつ。よばひ星すこしをかし。尾だになからましかば、まいて。
枕草子 清少納言
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星はすはるひこほしみやうしやう夕つつよはひほしをだになからましかはまして(写本ママ)
星は すばる 彦星 明星 夕星 よばい星 尾だになからましかば まして
[彦星] わし座の1等星アルタイル。
[明星] 明けの明星
[夕星] 宵の明星
[よばい星] 彗星
[尾だになからましかば] (もし)尾がなかったならば(よかったのに)
[まして] いうまでもなく
今につたわる枕草子の写本伝本は後世のひとたちがさまざまあちこちでうつしとったもの。うつしをかさねる過程で構成や内容に差異が生じたが、先人らの研究の結果整理分類すると、それらには四つの系統があり…というお話については、専門家の方々のご教授を頼ることとします。
高尾山では、10月28日土曜日から12月3日日曜日まで、「高尾山もみじまつり」が開催されます。開催期間中はバンドによるライブ演奏など、様々な催しものが予定されています。
高尾山の本格的な紅葉のシーズンはもう少し先ですが、山頂のもみじは紅葉が始まっています。本格的な見頃は、11月中旬から下旬にかけてと思われます。
今日も花の多いところを巡ってきました。
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しかし、こんな状況でも高尾山には一般の観光客が足を向けない静かなトレイルがあちこちにあります。今日も人混みを避けてひとめぐりします。
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注1
広辞苑 第六版、岩波書店
注2
日本国語大辞典 第一版、小学館
注3
国立公文書館請求番号:特027-0016-0006
簿冊名:枕草子
件名:枕草子 6
目録情報URI: https://www.digital.archives.go.jp/item/3980692
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