見出し画像

3話・後編完結 開かずの間 怖い話シリーズ

怖いから眠れるはずが無い、と思っていたが身体は疲れていたしストレスでクタクタでもあったため
意外と寝つきは早かった

だが、やはり神経はピリピリしていたのだろう……ガチャ、という鍵の開く音で目が覚めた

寝起きでぼんやりとしていたが、ドアノブを回す音に続き短い廊下を踏む
ミシ……ミシ……という音で意識がハッキリとしてきた



え?誰かが入ってきた?


生唾を飲む
布団から顔は出ていたが目を開ける勇気はない

やがて襖の開くスーという音がし、歩いてきた何かが同じ部屋に入ってきたようだ

じっとりと冷や汗をかきながら、耳を澄ませる
ごくごく小さな息遣いが聞こえた
ギシッと何がが軋む

それからは足音がないことから、歩いてはいない

そこでハッと気づいた
つけっぱなしにした電気は消えていた
瞼が閉じていても明かりは感じるはず
だが、光はまったく感じなかった
それはこの何かが入る前から消えていたのだ

気配と息づく音

緊張が増していき、耐えられないくらいの圧力で
父はとうとう薄目を開けた

起きていることに気づかれないよう、寝息を立てながら体制を変える……と
部屋の中心にある机の上、父の布団から少し離れた所に人が立っていた

身体が硬直する

もしや初めて人ならざる者を見てしまったのか……?


息を殺したまま薄目で観察する


どうやら着物姿らしい
これは……女将ではないか
髪型も体型も間違いない
確かに女将ならマスターキーで入れるだろう


しかし一体なぜ無断で客室にいるのか
泥棒でもしようというのか?
いや、不自然だ
それならなぜ机の上に棒立ちになって……


一体何をしているんだ……



女将の視線の先に
あの、天井に開けられた穴があった
女将は揺らぎもせず、一心に穴を見つめ続けている



そして無言だった女将が小さく何かを呟いた
聞き取りづらかったが、
女将が何度も繰り返すその言葉が理解出来た時
父は寝ているフリをしながら布団にうつぶせになり
二度と朝になるまで目を開けなかった
いつの間にか意識を失っていた






次の日
父は5時に跳ね起き、身支度を適当に整えると
すぐさま部屋を出た


それでも出る直前、テレビから離した鏡台が元の位置に戻り
さらに布が捲れ、中の鏡が晒されていることに気づいたが
元に戻すことはもちろん、その鏡を覗くことすらしなかった

女将が直したのか、それさえも知りたくない
一刻も早くこの部屋から出たかった


昨日と同じ、婆さん3人組が待ち構えているカウンターに
5500円を置く


女将の「お構いも出来ませんで……」
の言葉に対し


「助かりました、ありがとうございました」
と、心にも無い言葉で返す

それに対し、3人は無表情に頭を下げた




そうして父にとってこの帰省は忘れられない恐怖として語り継がれる物語となったのだ



穴を見つめ続ける女将の姿





そしてあの言葉




「いらっしゃい 」


呼びかける、小さな声





いまでも考えてしまうという

女将は何を、あの部屋に招いていたのかを








この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?