実践SaaSプライシング~プライシング事業を行っていく中でわかったこと~ #SaaSLovers
プライシングスタジオCOOの相関です。SaaS事業者にとって有益な発信をしている#SaaSLoversのリレーブログ企画にピンチヒッターで参加することになりました。
これまで数十サービスのSaaSプライシングを支援してきました。この記事では、SaaS事業に対してプライシング事業を行っていく中で私が調べてきたことや気づきをまとめました。
※記事作成後に弊社サービスコンセプトのほとんど種明かし的な内容となっていることに気づきましたが、昨今PSR評価低調で苦しいSaaS業界の発展のために、そのようなことを気にするシチュエーションではないと思ったので公開します。
SaaSプライシングについての考え方については、弊社代表高橋がまとめているnoteもあるので、理論的な背景などが気になる場合は、こちらをご覧ください。
海外ベストプラクティス:海外のプライシングベストプラクティスとは?
SaaSのナレッジを調べるとき、皆さんがまず調べることは海外SaaSのベストプラクティスだと思います。(私もSaaSのプロダクト責任者をしていた時に、まず調べることは海外SaaSのベストプラクティスでした。)プライシング事業をしている関係で、海外のブログや論文、事例について本当にたくさんの内容を読みつくしてきたので、今まで調べてきた中でも特に私にとって大切な記事を2つ紹介します。業界を代表するY Combinator、Price Intelligentlyのベストプラクティスの記事です。
Y Combinator:スタートアップの製品価格設定入門
まず、ベストプラクティスで有名なYCombinatorが推奨するプライシングの記事「スタートアップの製品価格設定入門」をご紹介します。
誰が書いた記事?
Y CombinatorはStripe、Reddit、Airbnb、Stripe、Dropboxなどに出資してきたシードアクセラレータの名門ですが、スタートアップビジネスのベストプラクティスの共有でも有名ですね。
誰におすすめ?
こちらの記事は、立ち上げ前から、立ち上げたばかりのSaaSの方におすすめの内容になります。
どんな内容?
シードアクセラレータだけあり、サービスの立ち上げ時のプライシングの考え方を中心に、単価が高くないとはハイタッチビジネスはすることができなくプライシングと事業形態が密接であるという戦略的な話から、実際に価格設定するためには、価格ごとに獲得顧客数と売上がいくらになるかを推計するとわかりやすいといった実用的な内容までまとめられています。
どれもよい内容ばかりですが、特にこの記事で私が重要と思うことは、プライシングを行うときには、行いたい事業形態について考えること、そして具体的な価格シナリオを検討して価格を決定することという2点です。事業観点ないプライシングは無価値ですし、価格のインパクトを検討していないプライシングは意思決定できないからです。
Price Intelligently:The Anatomy of SaaS PRICING STRATEGY
次にご紹介するのはSaaSのプライシング専門サービスを手掛けているPrice Intelligently(Profit well)のコンテンツ「The Anatomy of SaaS PRICING STRATEGY」です。こちらはSaaSのプライシング研究には必読の「SaaS Pricing」で検索すると常に上位に表示されるコンテンツです。
https://www.priceintelligently.com/hubfs/Price-Intelligently-SaaS-Pricing-Strategy.pdf
誰が書いた記事?
Price Intelligentlyは、サブスクリションメトリクスの管理プラットフォームを提供するProfit wellが手掛けているSaaS価格設定プラットフォームです。LPのロゴには、AttLasian、Hubspot、Mediumが並び、成功企業にも信頼されているグローバルでサブスクリプションプライシングといえばPrice Intelligentlyといっても過言でないサービスです。
誰におすすめ?
バリューベースのプライシング重視の内容なので、顧客のニーズが多様化し、シンプルな価格設定では不都合が生まれるミドルステージ以降のSaaSの方々に必読の内容です。
どんな内容?
バリューベースプライシングの重要性から、顧客ペルソナの設定方法、顧客価値を把握する重要性、価格分析の実行方法、料金表の設計方法など、SaaSプライシングで必要な観点が網羅的にまとまれています。特にバリューベースプライシングの有用性と、実際のプライシング検討では顧客ペルソナを検討すべきという観点は、顧客に信頼されるプライシングに必須の観点です。
国内SaaSベストプラクティス:国内では、どうプライシングされているか?
ここまで、海外ベストプラクティスで私にとって特に大切な記事をご紹介してきました。ここからは、ご紹介したようなナレッジを応用してコンサルティングとプロダクトを提供してきた私たちの実践知について共有します。
プライシング検討のシチュエーション
プライシングはどのようなシチュエーションで検討が始まるのでしょうか?海外ドキュメント含め、プライシングについて関連したまとめには大抵プライシングは利益に対して大きなインパクトがあると記載されています。では、プライシングは利益向上を考えるときだけに検討されるのでしょうか?実際の検討は、もっと切実で身近な理由から始まります。
「私たちのサービスを導入いただいたお客様の導入理由≒プライシング検討を始める重要度が高いシチュエーションと定義して、今までの数十サービスの導入理由を整理すると下記のようなルールが導き出せます。
プライシングは
事業においての「誰に」「何を」が
変化する/したときに検討が開始される
私たちはSaaS事業の料金設定のために、「誰に」「何を」「いくらで」のフレームで、価格決定を支援してきました。ある日、そもそもでプライシング検討が始まるシチュエーション自体が、事業のターゲットや提供価値の変化のタイミングであるということに気がつきました。
下記にわかりやすいように例を記載します。
エンタープライズ向けに事業を展開していきたいが(「誰に」の変化)、エンタープライズ向けのハイタッチプラン(「何を」の変化)をいくらにすべきか?
サービスバリューが上がってきているが(「何を」の変化)、価格転嫁できておらず利益毀損している
顧客とニーズの多様化(「誰に」と「何を」の変化)によって、従量課金や複数の料金プランを設定したい
なぜ「誰に」「何を」が起点になるかは私の理解では、コトラーのマーケティングプロセスで一定の説明がつくと思います。コトラーは、マーケティングプロセスとして、市場の選択→STP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)→マーケティングミックス4P(Place、Price、Product、Promotion)の流れで決定することを提唱しています。
「誰に」が変わるということは、「セグメンテーション」と「ターゲティング」が変わるということになります。「何を」が変わるということは、「ポジショニング」が変わるということになります。
STPの変化が起きるシチュエーションでは、プロダクトの見直しやプロモーション・マーケティング施策やチャネルも見直すことが多いと思いますが、当然マーケティングミックス全体の見直しが必要なため、価格も見直さなければいけないということではないかと思います。
ですので、事業の「誰に」「何を」が変わるときにはプライシングも併せて見直すべきですし、プライシングを見直すときは「誰に」「何を」がどう変わったのかという視点で検討することが大切です。
プライシング検討で重要視される要素
では、実際のプライシングの際にどのような要素を見ることが重要視されるのでしょうか?まず重要視されるのはY combinatorの提唱する通り価格ごとの顧客数と売り上げ変化です。合理的な意思決定のために、この2つは価格決定で最も重要視されます。
ただ実際にプライシング支援を行って痛感したことは、顧客数と売り上げの観点だけでは不十分ということです。というのも試算される顧客数増減の背後には実際の顧客がいます。誰が増えるのか、誰が減るのか、どのセグメントの顧客が増減するのかという目線がないと事業としての意思決定としては不足しています。
例えば、下記のようなミドルフェイズのSaaSがあったとします。
当初はSMB向けに顧客獲得を重視した戦略を展開してきたが、エンタープライズの顧客が増えてきており、今後は売上最大化のためにエンタープライズ顧客を拡大していきたい
この時、下記のような価格プランが見つかりました。
顧客数は10%下がるが売り上げが20%上がる価格プラン
この時悩ましいシチュエーションが発生します。減少する顧客がSMBなのかエンタープライズなのかわからないため、価格決定ができなくなるのです。
ポジティブサイドに目を向ければ、顧客数は下がるものの、売上は上がりますが、リスクサイドに目を向けると、もしこの価格にしてエンタープライズ顧客がゼロになってしまうと、エンタープライズ向けに開発した機能や、ハイタッチのための人材、マーケティング投資が無駄になってしまうためです。
価格変更の推計の際には、顧客数と売り上げの変化だけでなく、顧客層の変化も併せて考えることが肝要です。
海外プライシング理論は通用する?
今まで共有してきた知見は、日本と海外の差ではなく、単純にプライシングを実行しようとするとぶつかる課題かもしれません。それでは、日本と海外でSaaSのプライシングに差はないのでしょうか? 海外トレンドをそのまま日本で採用できるのでしょうか?
少なくとも価格変更時の顧客数や売り上げを推計すること、ターゲットを考えて価格設定することは有用でした。しかし課金形態(価格体系)に関しては、必ずしもそうでないようです。日本とグローバルの商習慣の差を考慮しないといけないように感じます。
例えば従量課金を例にとると、国内では明らかに、使った分だけ請求される完全従量課金よりも、段階従量課金(100,000PVまでいくらのような形式の従量課金)や事前購入型の従量課金(スカウト50通でいくらのような形式の従量課金)の形式をとっているSaaSが多いです。
日本においては、事前に稟議で予算枠を確保する都合上、利用量によって利用料金が変わる完全従量課金は説明が困難なため、稟議申請者に嫌われやすい傾向があるからと言われます。日本には稟議があり、海外には稟議がないように、商習慣に確実な差が存在します。(「Ringi System」でGoogle検索すると、日本の意思決定プロセスについてのグローバルから見た特異さを理解できます)
このような商習慣の差はシステムとして企業にハードコーディングされているため、B2Cサービスで問題となる国民性の差異以上に、B2BビジネスであるSaaSでは根深い問題です。とくに米国サービスをベンチマークして開発しているサービスでは、プライシングだけはベンチマーク対象と同じではうまくいかないケースもあるので、注意が必要です。
価格だけでなく、課金体系も踏まえて、真にバリューベースな視点で自社のターゲット企業に受け入れられる形態を考えていくことが大切です。
まとめ
今回は、いままで私が調査してきた中で有用だった記事のご紹介から、実際にプライシングビジネスで得た知見についてご紹介しました。SaaSにおいてプライシングは重要です。この記事を読まれたみなさまがプライシングで事業成長を実現されることを心より願っております。
もし、この記事を読んで弊社に興味を持ってくださった方や、プライシングについてのご相談がある方がいらっしゃいましたら、Meetyより気軽にご相談ください!
さいごに
#SaaSLoversの企画に参加するという貴重な機会を与えてくれた、木本さん、小松さんありがとうございます。自分自身の整理のためにもなり非常に良い機会でした。SaaS業界と#SaaSLoversの発展を心から願っております!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?