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「アトマイザー」the 1st spoon_クララ

文学ユニット「るるるるん」によるツイッター400字小説『3spoons』第四回テーマ ”アトマイザー“

姉の匂いが好きだった。だから、それを盗むことにした。

『琥珀に閉じこめられた古代の蚊から血液中のDNAを取り出し、
遺伝子操作を駆使して恐竜を再生する』というSF映画からヒントを得て、
溶かした樹脂に姉を閉じ込める。

琥珀磨きで出た粉は、万能薬として飛ぶように売れた。
特に火傷の治療に重宝され、わたしは富を得た。

口に含み、ころころと回転させてみる。
ざらめのようなしつこい甘味で、舌が痺れていく。

火に焚べてみる。
溶け出した樹液をアトマイザーに集める。
一日三回毎食後、わたしはその飴色の液体を全身に吹きつける。
すっかり姉の匂いを乗っ取れば、義兄も生まれたばかりのその息子も、
やがてわたしの肌を吸うようになるだろう。

琥珀の中で眠る姉は、化石よりも虚な目で、そんなわたしを懲らしめている。

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