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「フルーツ牛乳」the 2nd spoon_UNI

文芸ユニット「るるるるん」によるツイッター400字小説『3spoons』第三回テーマ ”フルーツ牛乳“

太陽とわたしは年々、ねぼうがひどくなっている気がする。

鷹取から海沿いにひと駅。夏休みのわたしは祖父の横を歩く。朝露に濡れたアスファルトの匂いを、太陽が悠々と焼いていく。時おり通りすぎるバンのエンジン音が、町を叩き起こしてまわる。波音が聞こえるとゴールは近い。須磨海岸の牛乳屋まで歩けたら、フルーツ牛乳を買ってもらう。

わたしから夏休みがなくなってずいぶん経った。昨日は『マウスピース』という単語が思い出せず、何時間もうなっていた。突然かおをのぞきこむ女、わたしの似顔絵を週に一度送りつける男、嫌いなことに追いかけられて歩きすぎた昼、なじみのない一角に牛乳屋を見つけた。初めて自分で一本買ってみる。

海岸で飲んだあれはフルーツと銘打っていたが、きっとバナナ牛乳だった。祖父との会話は思い出せないのに、バナナの香りのする甘い牛乳は覚えている。あの町は壊れて知らない町に生まれ変わった。

たいようがわたしの肩をこがす。あくびがでる。

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