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30年前のチーズケーキとブランディングディレクターの仕事


昔からチーズケーキが好きでした。

甘いものはあまり食べないのですがチーズケーキだけは別で、カフェを経営してた頃も毎日せっせと仕込んでいました。カフェを閉めたあともチーズケーキの専門店を開く計画を立てるほど(頓挫しましたが)。いまだにあちこちのチーズケーキを取り寄せては家族と楽しんでいます。


そんなある日、とある企業からリブランディングの依頼がきました。

地元でお菓子を製造している会社で、企業フィロソフィーから商品のブランディングまでお願いしたいとの事なので中々の大仕事です。ちょうど商品企画からのプロデュースに力を入れていくタイミングだったのでこちらからも是非やらせて欲しいとお伝えしました。


ブランディングを進めるにあたりその会社の情報を集めていた時のこと。製造している商品一覧の中にあるチーズケーキを見てハッとしました。それは30年近く前に母がよくお土産に買って帰っていたチーズケーキだったのです。


離婚して夜も働きながら女手一つ、子供3人を育て上げた母。もちろん裕福な家庭環境ではなかったのですが特に貧しさを感じたことはありませんでした。それだけ頑張っていたのでしょう。頑張りすぎて何度か倒れたこともありました。

そんな母が仕事帰りに、家にいなかった事へのお詫びの気持ちなのかお土産を買って帰ることがありました。例のチーズケーキです。その時のフォークを入れた瞬間のフワフワした感覚が未だに残っています。そのケーキを食べながら交わした会話は覚えてませんが、懐かしさと共に少し寂しいノスタルジーにかられるのは当時の記憶のせいでしょう。今では歳も重ね弱音を吐く事も多くなった母の、元気に働いていた姿を思い出すから尚更。


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さてリブランディングの依頼があったこの会社ですが、傍目にも変わらなければいけないと思います。昔ながらといえば聞こえは良いのですが、単純に時代に合わなくなってきている部分が出てきています。改めて企業として社会をどう変えていくのか、どのように貢献していくのか見つめ直さないといけないと感じます。


ただ、そんな中でも変えてはいけないものがあります。


何十年と作り続けられているこのチーズケーキは紛れもなくファンに支えられています。その中には私のように子供の頃を懐かしんで食べている人も多いでしょう。作り手の想いとファンの想い。この二つを大事にしなければリブランディングの意味はありません。

ブランディングはファンに愛され続けるために何ができるかを考える行為。そこにファンを欺いたり裏切ったりする要素が少しでもあると、それはいつか大きなしっぺ返しとして戻ってきます。ファンに見放されたらブランドとしては再起が難しい世の中です。

我々ブランディングディレクターの仕事はこのような企業の想いを世の中に正しく伝える役割があります。企業の想いと生活者の想いをつなげる橋渡しの役割です。形のない、想いのブランディングを形のあるデザインやコピーに落とし込まなくてはいけないのです。


ただここで厄介になるのがこの作業には「翻訳」が必要だという事です。

企業の想いやこだわりはそのままでは伝わりづらい。それどころか場合によってはノイズとなって煙たがれる。みんな日々の生活の中でわざわざそんな話を聞きたいとは思ってないからです。


しかし大抵のビジネスはここで失敗しています。想いを伝えれば伝えるほど客足が遠のいていく。悪循環に陥り苦しんでいる人たちを沢山目の当たりにしてきました。かくいう私もそうで、冒頭に出てきたカフェでも今思えば自分のやりたいことを一方的に押し付けていました。頑張れば頑張るほど苦しかった。そして母が離婚した原因も父の商売が上手くいかなくなったから。ビジネスの失敗は家族の形を変えてしまう事もある。


ブランディングで重要なのが、企業に伝えたい想いがあるように、生活者にも想いがあるのを忘れないことだと思います。いくら想いやこだわりが強くても、(無意識のインサイトも含め)生活者のニーズを捉えていなければただの独り言になってしまう。そのニーズに響くように企業の想いやこだわりを翻訳しなければ、頑張っても報われない人たちが減ることはありません。



かつての自分を救うために、同じように苦しむ人を一人でも減らすために、想いをつなげる仕事をしているのだと最近改めて気づかされました。難しい仕事ではあるのですが、こんなにやり甲斐のある仕事もないと思っています。30年前に食べていたチーズケーキを作っている会社からリブランディングの依頼が来るのですから。


つい先日、足腰も弱くなってきた母の新しい引越し先が決まりました。買い物にも便利な場所です。引越し祝いにはこのチーズケーキを買っていこうと思います。昔話に花を咲かせて久しぶりに楽しい時間を過ごしてほしいものです。


※2020年9月16日 追記

こちらのリブランディング案件「776 CHEESECAKE(ナナロクチーズケーキ)」として2020年10月3日に販売開始が決まりました!


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元々は「白い貴婦人」というチーズケーキ専門店をされてる会社だったのですが、今回新しいブランドを立ち上げることになりました。これまで「白い貴婦人」で作り続けたスフレチーズケーキも素材や製法から検討し直し、試作を何度も重ね、ファンも納得の美味しさに仕上がっています。


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ラインナップは熊本・水俣の「福田農場」で扱う不知火海レモンの風味が広がる「スフレチーズケーキ」、にっぽんの宝物グランドグランプリを受賞して全国的にも有名な「オオヤブデイリーファーム」のヨーグルトを使った「レアチーズケーキ」、地場の生産者と連携して新しい6次化を進めている「MARS」のフロマージュ・フレを使った濃厚な「ニューヨークチーズケーキ」、同じく「MARS」の熟成白カビチーズを使った大人な味わいの「ベイクドチーズケーキ」の4種類。それぞれ熊本のこだわりの素材を使ったこだわりのチーズケーキです。


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パッケージは「わっぱ」を使って本物のチーズの容器をイメージしました。ケーキの包み紙にまでこだわったギフトとしてもお勧めな商品に仕上がりました。


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およそ30年熊本の人々に愛されてきた「白い貴婦人」のチーズケーキのように永く愛され、今度は全国の皆さんに楽しんでもらえるブランドに育っていくように私も陰ながらサポートしていきたいと思います。


写真:大塚淑子(instagram



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