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2015年ドラマ『無痛~診える眼~』感想

2015年ドラマ『無痛~診える眼』(脚本/大久保ともみ、香坂隆史、丑尾健太郎、小川智子)観賞。妻を病気で亡くした為頼英介(西島さん)は看護師資格を持つ義理の姉(浅田美代子さん)と小さな診療所を営んでいる。のんびり屋でごく普通の人の良さそうな彼だが、一目見ただけで他人の体調や病気が判ってしまう力を持つ。更にその能力を発揮するのは他人の「とある症状」を見た時だ。

白昼堂々それは現れる。自転車に乗った男を見つめる為頼。
その顔には普通の人間には見る事のできない「とある症状」が出ていた。それは絶対であり危険信号だ。為頼は人々を避難させ、警察に通報する。その数分後、惨劇は起こる。無差別殺人。義理の姉、和枝が一般人をかばった際、男に刺されてしまうが為頼はその傷を見て、すぐに大丈夫だと判断する。駆け付けた警察官によって犯人逮捕かと思いきや、人混みの中、荒々しい一人の警察官(伊藤淳史さん)が躊躇せず、犯人に向かって発砲してしまう。この男はこれから為頼と行動を共にする早瀬だった。

西島さんは体に触れずとも患者の病状や予後が判る能力を持つ医師、為頼英介役。危ういほど正義感が強い刑事、早瀬に伊藤淳史さん。冒頭、刺された和枝(浅田美代子さん)が運ばれた白神メディカルセンターの医師、白神に伊藤英明さん。
白神もまた為頼と同じ能力を持ち、痛みを感じない無痛治療を研究しており、当院の患者であった先天性無痛症のイバラ(中村蒼さん)に開発中の治療薬を投与し、データを取っている。同じ能力を持つ為頼を白神メディカルセンターに誘い、為頼は「とある症状」である殺意を持った人間にのみ現れる「犯因症」について研究をすることを条件に受け入れる。
一方、早瀬は未解決の一家殺害事件について部署を外されたにもかかわらず積極的に調べていた所、白神メディカルセンターにて偶然患者の絵を拾い、そこに描かれたものが事件の構図と同じものであることから、その絵を描いていた重度の精神障害を抱えるサトミ(浜辺美波さん)に疑惑の目を向ける――。

伊藤淳史さんが珍しく気性の激しい役柄を演じています。彼の目は表情豊かで深みがあり、人を射る力がある。途中まで声が出せなかったサトミ役、浜辺美波さんは天使のように可憐だった。イバラ役、中村蒼さんは、後年『仮面ライダー BLACKSUN』の青年時代の南光太郎役を演じていた。まさか2015年で既に西島さんと共演していたとは知らなかった。この作品でも個性のある外見と緩急のある素晴らしい演技を見せてくれます。

白神はイバラについて「体も心も痛みを感じない人間」と言うが、イバラには心がある。心の痛みなら既に抱えていた。ただその想いを誰にどう表していいのか判断できなかった。そんな彼を利用したのは誰よりもイバラに理解を示していたはずの白神だ。無痛治療の研究と言いながら実際には心の痛みを感じていたひとりの人間であるイバラを支配していたに過ぎない。それを為頼に指摘されても時は既に遅かった。白神に裏切られた形のイバラは抱きつくように白神に向かって走る。そして二人は窓を破り転落。最後のシーン、為頼にはイバラから「犯因症」の印が出ていたため、動けなくなる。けれどその時のイバラの犯因症は歪んだ形だが、この先逮捕されるだけの白神への愛だったと思いたい。

類い稀なる能力を持っているからこそ、救えなかった命に対し、無力さを思い知る為頼のもどかしさが痛々しく、その苦悩は果てしない。それでも最後まで権力に支配されない為頼の真っ白な魂がドラマ全体を包んでいた。医師の前に人間である。この物語で為頼が出した答えは、どうしようもできない痛みを持つ人を否定しないこと。尊重すること。痛みはその人自身だ。それは心の痛みも含め、人間として大切なことだと思う。

このドラマの視聴率がその年のドラマでは最低だったと何かの記事で読んだ。けれどそんな数字にどこまで作品の完成度や素晴らしさが反映されているのか判らない。放送されたその時ばかりがすべてではない。素晴らしい作品は時を越える。そんなふうにして2023年現在の私はこのドラマに出会うことができた。

為頼英介役の西島さん。

この作品のDVDはもう既に公式には入手できない状態なのですね。
各配信などで視聴できますので、ぜひそちらをご覧ください。


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