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2022年『グッバイ・クルエル・ワールド』感想

2022年『グッバイ・クルエル・ワールド』(監督/大森立嗣)観賞。
この作品は、私が西島さんを知って間もない時期に公開されたので、ただヤクザ映画は苦手だな、と思っていたのと西島さんの役が死んじゃうの、やだな、くらいにしか思っていない頃でした。(この後、こんな感想なんて吹き飛ばされるような作品群を観ることになります)

そして鑑賞。とても良かった。私は好きです。西島さんの役は元ヤクザですが足を洗って静かに家族と暮らしたいと願う安西役。そのために最後の手段で大金を掴むべく素性も知らない連中と集まり、ヤクザ組織の資金洗浄現場を狙い大金の強奪をする。

番組宣伝では、劇中流れるブラックミュージックを前面に出し、気持ち良く大金を奪うシーンが映し出され、クライムエンターテインメントと言う部分が大々的な触れ込みで『パルプ・フィクション』のような小気味良い印象でしたが、実際観た後だと、もっとずっと繊細な作品だと思いました。そしてただひたすら暴力って怖い、という部分に立ち返りました。特に斎藤工さん演じる萩原のガタイのでかさと、派手で特徴的なファッションは威圧感たっぷり。一瞬優しさを見せた直後、冷酷な本性を現して殴るわ蹴るわで戦慄。特に美流(みる/玉城ティナさん)が暴力を受けるシーンはかなり激しい。ただその美流と恋に落ち、最終的にずっと一緒に行動する大輝(宮沢氷魚さん)とのシーンは復讐のシーンでもどこか天使のように可愛らしく無邪気なので、犯罪を重ねているのに若い恋人同士のデートのようで眩しくて、現代のボニー&クライドに見えた。

そして、西島さん演じる安西は、妻の実家で暮らすことに成功はしたもののヤクザだった過去は消しきれず、元・舎弟に容易に脅迫されてしまうなど不器用さが気の毒だった。静かに暮らしたいと願っていても結局、資金繰りには犯罪という手段しか考えられない。結果、家庭を壊してしまう。仕方ないと言われたらそれまでだとしても同情はする。
その同情は、美流と大輝を捨て駒のように扱いつつもヤクザや金目当ての連中から匿っていた大森南朋さん演じる刑事、蜂谷のほろりと見せた優しさからも感じた。まだまだ若い彼らを逃がしてあげたいと思ったほんの僅かな隙で彼らに裏切られる。ここからの大輝と美流は怖いものなしのようにはしゃぐが、そのふたりの自由の道を阻んだのは皮肉にも平穏を夢見た安西だった。

最後に生き残るのは誰だろう。
ひとりだけ?  後を追う? そして、安西と蜂谷はボロボロの姿で再会し、ヤクザと刑事と言う殻を捨てて笑いながら語り合う。互いに深い傷を負っている。ふたりが話していると、カメラが動き僅かに画面の端に移る連中が近づくのが見える。青空の中で銃声も聞こえる。けれど、どうなったのか観ているこちら側には判らない。どんな結末であっても安西と蜂谷の人生に思い残しはないと願いたい。グッバイ・クルエル・ワールド。後腐れのないケイパームービーのラストはこちらに判断を委ねられる。とても面白かった。

大迫力のポスター
大輝(宮沢氷魚さん)と美流(玉城ティナさん)

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