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夜明けの牛丼

締切明け、まず何食べる?

学生時代の私は、学内の食堂で配布する冊子を編集するサークルにいた。
月刊誌であり、締切は毎月やってくる。
毎月第2土曜日は「集中作業」、通称「集中」。
(なぜか「シューチュー」のイントネーションは「ニャンちゅう」。)
この日は朝10時から校了するまで、部室に詰め通し。
校了するまで帰れま10」である。

もう一昔前の12月第2土曜日。
この年の1月号は、地獄の作業だった。

表紙が年明けでめでたいはずなのに、どんより淀んだ初稿が提出される。
1ページ記事を担当していた1回生が逃亡し、台割の大工事を強いられる。
なぜか初稿の提出締切を破る者が多発する。

副編集長で校了のGOサインをするため、私は最後の記事が校了するまで居残りせねばならない。
※基本的には編集長が校了の決裁をするが、当時の編集長は色覚特性のある人だったので、色の判断が必要なものは私も決裁権を持っていた。

午前4:00、全記事が校了。
ゾンビのごとく部室から這い出る編集長、自分、DTP担当、記事担当者。
もう東山から、おひさまが顔を出している。

飲まず食わずで作業しどおし、若人4人の腹は当然すっからかん。
しかし、こんな時間ではどこのお店もあいていない。

我々は百万遍の交差点にある、24時間営業の牛丼チェーン店に駆け込んだ。
ごくシンプルな牛丼、そしてなんの変哲もない味噌汁。
五臓六腑に染み渡る味。

社会人になって時折そのチェーン店で牛丼を食べるが、あのときの味には出会えない。
きっと、ひとつ大きなものをつくりあげた後だからこその美味であったのだろう。

青春を過ごしたあの部室も、老朽化により取り壊され今はもうない
我々は、帰る場所を失ってしまった。
あの牛丼の味だけが、青春を思い起こすよすがとしてまだ残っている。



#創作にドラマあり

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