”September調子はどうだい”誕生の裏側に学ぶ。時代に合わせた”共感”音楽マーケティングとは?
レコードに始まり、CDからダウンロード、そしてサブスクリプション…と時代に合わせて様々に形を変えている音楽のあり方。
皆さんは普段、どんなツールで音楽を楽しんでいますか?
今回は、株式会社スターミュージック・エンタテインメント取締役の中村さんをお招きし、弊社若井と”TikTokと音楽マーケティング”についてお話していただきました!
右・若井 映亮(以下若井)
わかい えいすけ・あだ名はヤング・東京都出身。
株式会社TORIHADAの取締役COO。
主にTikTokerを束ねるPPP STUDIO株式会社を2月に設立し、代表取締役に就任。
左・中村 雄太(以下中村)
なかむら ゆうた・埼玉県出身。
株式会社スターミュージック・エンタテインメントの取締役。
19歳からDJを始め、音楽プロデューサーとして様々なオリジナル楽曲やコンピレーションアルバムを手掛け、CDの累計販売数は15万枚を超える。CD販売数に加え、iTunes Store、Apple Music、YAHOO! JAPANショッピングなど様々なチャートで1位を獲得。
現在はショートムービープラットフォーム「TikTok」と連携し、同アプリ内へのコンテンツや楽曲提供も行い、Z世代・ミレニアル世代に様々なトレンドを生み出している。
大学時代にDJ仲間として若井と出会い、共に各業界でTikTokを活用したマーケティングを切り拓いている。
ーまず初めに、自己紹介をお願いします。
中村:株式会社スターミュージック・エンタテインメント取締役の中村雄太(なかむら・ゆうた)です。
スターミュージック・エンタテインメントは、音楽事業を中心にインフルエンサーマーケティング事業や広告事業など多岐に渡る事業を行っています。
基本的にはエンタメ領域にまつわる様々な事業を時代に合わせてやっているんですけど、TikTokが日本で始まった初期の頃から、音楽とも相性のいいショートムービープラットフォームということも有り、TikTokを活用した事業を積極的にやらせていただいています。
音楽レーベルはもちろん、様々な業種のクライアントのTikTokを活用したマーケティングをトータルサポートしてきました。
ーありがとうございます。お二人は学生時代から知り合いだったんですよね。
若井:ですね。僕が渋谷のクラブで、中村さんが六本木や新宿でDJをやっていてっていう。誕生日も2日違いくらいなんですよ。
お互いの誕生日には、それぞれのクラブに行ってお祝いし合っていたの懐かしいね。
中村:本当だね。懐かしい。
若井:では、早速よろしくお願いします!
中村:よろしくお願いします!
若井:まず、中村さんが音楽事業をやる中で、TikTokが出てくる前はどのように音楽を展開し、どのように届けていたかを教えてください。
中村:日本の音楽シーンでは ”CDバブル” と言われた時代から、iTunesを中心とした音楽のダウンロードサービスが始まって、そして現在はサブスクリプション(※)が主流になりつつある流れになっています。
※サブスクリプション・・・定額課金をして利用権を借りることで、利用分に応じて料金を支払うビジネスモデル。
欧米では当たり前のように市場に広まっている仕組みなんですけど、日本では去年が「サブスク元年」って言われるくらいでようやく普及し始めたところなんですよね。
音楽の売り方やあり方がここ10年の間にすごく移り変わっていると思います。
当初CDを売る時代、YouTubeとかもあまり普及していなくてアーティスト自身が自己発信できない時代って、レコード会社に所属するのが必須で、ラジオや番組のOPやEDで使ってもらったりライブ活動をしたりして。
CDを売る為に流通をしっかりおさえていかに店舗の展開をとるか・・みたいな事が凄く重要だったんですよね。
そんな中でスターミュージックとしては、その通例の座組みを固定概念とせず”いかにインディーズの強みを生かすか”、というところを考えてきました。
僕たちの最初の悩みは、 “いかに人に認知させるか、音楽を届けるか” ってところの難しさでしたね。曲をどうやって聴いてもらうかみたいな。
若井:その中でもスターミュージックは着実に伸びて行ったと思うんだけど、中村さん的に考える強みをもう少し教えて下さい!
中村:一番はフットワークの軽さというか、時代の流れに俊敏に対応できるところかなと思います。
CDは2,000円で販売できるけど、ダウンロードだと250円とかで。さらにサブスクだと1,000円で聴き放題だから、1再生あたり大体0.3円から1円前後とかなんですよね。
そうやって大きくプラットフォームが変わる時は絶対に、レーベル間や事務所間でその狭間ができて、「CD売れなくなるからダウンロード配信しない」とか、「売り上げが下がるからサブスクは出さない」とするレーベルや事務所も出てきます。
ーなるほどなるほど。
中村:やっぱり、昔のCDバブルを見てきた方々からするとあまり理解できないというか、その辺りのギャップがあったと思うんですよね。
でも僕らはこういう時代がくることは前から想像していたので、いかに人に聴かせるかの方を重要視してきたんですよ。
なのでそこの意思決定が俊敏にできたっていうとこも、ひとつポイントかなって思いますね。
ースターミュージックさんがそうやってスピード感を持って踏み切れた理由って、一体どんなところにあるんでしょうか?
中村:そこに関してはもう、「とにかくやってみる」っていう考えがあったことが一番大きかったですね。
ダウンロードやサブスクが始まった時もいち早く取り入れて、早いタイミングで音楽配信の流れに乗る事ができたと思います。
そういう情報ってどこにも出ていないから、本当にトライしてみて確信できたっていう感じでしたね。
若井:なるほどね。マーケティングでいうと、具体的に何を使っていたの?
中村:CDの時代はいかに棚を取るかで、流通とどう組むかとその店頭での販促だよね。
ただ僕が知っている限り、音楽のデジタルマーケティングでTikTokほど可能性しかないものって未だかつてないと思ってる。
若井:なるほど。TikTokが出てきて、音楽のマーケティング戦略は結構変わったの?
中村:一気に変わったね。
今までレーベルがないと音楽配信できなかった時代から、サービスを使えば個人でも音楽配信できるようになったから、”デビュー”っていうものに対しての付加価値って今はゼロに近いほどなくて。
音楽を誰でも配信できる時代だからこそ、どう仕掛けを作るかがポイントだなっていうのを、今一緒にやっているうじたまいで体現できたのかなと思います。
ーうじたまいさんといえば、『September調子はどうだい』の曲の人ですよね。具体的にどんな取り組みをしているのでしょうか?
中村:以前から、TikTok発で短尺の音楽を流行らせてトレンドを作っていきたいって思って色々仕掛けていたんですけど、その時にちょうどTikTokの運営の方とも「TikTokからメディアに出る人が出始めているけど、音楽軸はまだ誰もいないよね」「一緒に音楽軸でのスターを作りましょうよ」っていうのを話していて、TikTok内の企画で “歌うまコンテスト” をやることになったんです。
結構たくさんの応募があったんですけど、その時にうじたまいを見つけて、ピンポイントに「この子いいと思います」っていう話をしました。
それで初めてお会いした時に、「一緒に音楽の新しい可能性をTikTokから作り出して、トレンドを作っていきましょう」っていう話をしたら意気投合して、それから一緒にやることになりました。
その時、彼女まだフォロワー3万人くらいだったんですけど、そこから半年で20万人になりました。
ー企画とかは、うじたまいさんと一緒に考えているんですか?
中村:基本的に日々のトレンドの話とか、こういう仕掛けしていこう、みたいな話を大枠はしていて、細かいクリエイティブな作曲や作詞のアイデアは彼女の意思を尊重してやっていますね。
彼女のポテンシャルは相当高くて、声もいいし企画もできて、発想したものを表現する力もすごく高いんですよ。
あとは15秒の曲を毎週出す、 ”毎週オリジナル曲リリース” とかもやりましたね。より多くの人に音楽を届けていく為に、色々なマーケティング戦略を一緒に始めて。
その中で生まれたのが、1億再生を超えた『September調子はどうだい』でしたね。
ー色々と試行錯誤していく中で、TikTok上で流行ったり真似されたりしやすい音楽の特徴とかってあるんでしょうか?
中村:うーん。
それが去年の春〜夏くらいまでは、女子高生が可愛くリップシンクしたりダンスをしたりしてっていう仕掛けを作れば良くて、すごく分かりやすかったんですけど、今は本当にトレンドもコンテンツも多様化しているので、今はお決まりの”これ!”というものはなくて。
でも、僕とうじたま(うじたまい)とのキーワードでもあるんですけど、一番重要なのは「共感を作る」っていうところかなと思っています。
一方通行の押し付けみたいなPRや広告のようなコンテンツではなく、歌詞と動画クリエイティブや内容がリンクしているかとか、そのあたりが流行りを生む間違いない理由かなって思いますね。
ーなるほどです。そうやってTikTokで流行った曲って、カラオケとかで出すと結構歌われるんですか?
中村:それをまさにやり始めていて、この『September調子はどうだい』は3月18日からカラオケDAMで配信されています。本人にも、リクエストがめちゃくちゃ来ていたんですよ。
若井:そうなんだ。Spotifyとかでも聴けるの?
中村:聴ける聴ける。
うじたまい - 独りうた ~September調子はどうだい~
配信先リンクhttps://linkco.re/ybzhEDgg
若井:そうなんだ。どのプラットフォームが一番聴かれてるとかあるの?
中村:LINE MUSICだね。これは前からクライアントのレーベルにも話していたんだけど、TikTokのユーザー層的にもLINE MUSICが一番相性いいんだよね。あと、YouTubeもすごい聴かれるかな。
若井:なるほど。共感っていうのがポイントなんですね。
中村:令和時代は「共感」がキーワードですね。
ーターゲットを想像して、「これは共感しそうだな」って考えて作っていくんですか?
中村:彼女(うじたまい)の場合は、まさに自分の思ったことを歌にしてのせるからこそ、どんどん共感が生まれるんでしょうね。
リアルな21歳の子が感じることや思うことを表現しているから、そこから共感が生まれていっているんじゃないかな、と思います。
『September調子はどうだい?』も、彼女が学生時代を振り返って、過去の自分に向けて歌った曲なんですよ。それがリアルで、みんなに刺さったのではないかという。
若井:勝手にアレンジを作った人が多かったのもすごくない?
中村:本当にね。
TikTokって本来は既存である音源を使って動画を撮っていくっていう方法でトレンドが生まれていくんですけど、今回は全く新しいバズり方で。
彼女がアカペラで歌った曲に対して、みんなが思い思いのメロディーを自分でつけてアレンジして歌ったり、自分のストーリーを付け加えてフルバージョンを作ったり、そういう形でどんどん広がっていって。まさに、共感が共感を呼ぶ形で。
若井:たしかにいい曲だよね。実際共感してる。
中村:そうなんだよね。TikTokを最初からずっと見てきて、音楽軸で色んなチャレンジをしてきたからこそ、共感の大きさはかなり感じています。
他にも、何センチとか頑張るぅ詐欺とか、ハッシュタグチャレンジになった曲もあります。
ただ、TikTok内で8000万回再生を超える曲をいくつも生み出してきましたが、バズったのはTikTok止まりだったんですよね。
だけどSeptember調子はどうだいは、まつりちゃんがメロディーつけてカバーしてくれたのがきっかけでズドンってバズったことで、他媒体にまで広がっていきました。
若井:共感以外のポイントはあるの?テクニックとか、TikTokの活用という軸で言うと。
中村:特にこの情報爆発している中で、いかにサブスクで聞いてもらえるかが大事な時代では、一球入魂で勝負するというよりかはTikTokを活用してどんどんチャレンジしていく事が重要だと思いますね。
若井:ABテストをどんどんしていく感じ?
中村:そうそう。TikTokテストしながら、どれが良くてどれが悪いのかっていうのをアップデートしていって、その中で良かったものを深掘っていくって感じだね。
若井:どんどんデータドリブンになっているんだね。小さくリリースして、勝てそうなやつを見つけて思いっきり張っていくっていう。
中村:そうそう。
若井:他のレーベルもTikTokに注目しているの?
中村:そうだね。注目度が圧倒的にこの1年でめちゃくちゃ変わってて、この間はBTSがTikTokに先行で配信を出したりとか。
若井:DA PUMPもそうだよね。
中村:DA PUMPもまさにそう。もう今やみんな注目してますよね。
しかも先行配信って、普通プライオリティあるところでしかやらないので、それくらい各社注目が集まっているかなと思っています。
アメリカのリル・ナズ・Xっていうアーティストの、TikTok発の楽曲『Old Town Road』が全米ビルボード19週連続1位になったのも、特に音楽業界への影響は大きかったかもしれないです。
ー19週連続1位・・!それすごいですね。
中村:音楽業界は、新しい手法としてTikTokにもっと注力するべきだと思うんですよね。
音楽マーケティングにおいてTikTokをどう活用すべきか、是非スターミュージックとTORIHADAにぜひ相談してもらえればと思っていますね!
若井:ぜひぜひ(笑)
中村:やっぱりファン獲得ツールとしても圧倒的に有効だし、そのあたりをもっと音楽業界の人たちが注目してもいいんじゃないかなとは思うよね。
若井:逆に、「まだTikTokはな…」っていう声はあるの?
中村:そこまではないんだけど、やっぱりまだそこまで効果を実感していないから、「どうなの?」みたいなのはあるかな。
だから、音楽プロモーションの一環としてUGC(※)とかの一般ユーザーを巻き込んだ施策とか、色んな仕掛けをやっていくべきだとは思いますね。
UGC・・User Generated Contents(ユーザー生成コンテンツ)の略。ユーザーの手によって生み出されたコンテンツのこと。
中村:やっぱり一方通行の広告よりも、UGCとして音楽を使って、自由に色々な表現をしてくれるほうが圧倒的に認知にも繋がるし、そこからファンとか顧客になっていくと思うので、そういう上手い使い方をもっとしていくのがいいのかなぁ、とは思いますね。
もちろんただUGCに踊ってもらうだけではダメで、どういったクリエイティブにするのか、そこでどう共感を作るのか、というところが一番のポイントであり難しいところですね。
若井:変な話、例えばアーティストさんがTikTok上に15秒の曲とかを30日連続リリースして、自由に編曲しちゃっていいよみたいなグランプリやって。
一番聞かれたやつ3曲だけリリースしますとか、そういうチャレンジがあったらすごい面白いよね。二次創作のゆとりをもたせるというか。
TikTokで歌じゃなくても、”ファミマの音楽の続きを作ってみた”とかあるじゃん。ああいうゆとりは大事だよね。
”独りうた”も結局メロディーほとんどないから、みんなが付け加えていくみたいな。
中村:そうなんですよね。
ー音楽業界全体的には、二次創作に対しての規制とかは多いのですか?
中村:日本はわりとクローズしてて、勝手にカバーしてはいけない風潮が強いですが、以前よりも大分オープンになってきている印象です。
二次創作からトレンドが生まれている事例も数多くありますので、ここからもっとオープンになっていくといいですね。アメリカでは凄くオープンですし。
ーアメリカだと大物アーティストとかもですか?
中村:大物アーティストもオープンですね。
若井:彼ら自身が結構のってたりするからね。ジャスティンビーバーが、もともとTikTokが買収した「Musical.ly(ミュージカリー)」(※)でコンテンツを流行らせたりしたよね。
「Musical.ly(ミュージカリー)」・・リップシンクの音楽アプリ。現在はTikTokに統合。
中村:そうだね。そういった時代の変化によって、音楽レーベルのあり方も変わってくるよね。
若井:そうだね。
マネジメント会社も、自分達だけでもTuneCore(チューンコア)とかを使って誰でも音楽配信できるようになってきたけど、レーベルはレーベルで今の時代に合わせてノウハウを進化させているっていうことだよね。
今まであったメジャーとインディーの大きな垣根が無くなってきていて、工夫しているかしていないかになって来ているというか。
中村:まさにそういうことです。
若井:それで、工夫している側の最先端が中村さん!ということで…
中村:はい。そういうことにしておいてください(笑)
若井:最後に、楽曲マーケティングでTikTokを何故活用すべきなのか、ポイントを教えてください!
中村:前談でも色々とお話させて頂きましたが、音楽業界は今TikTokをもっと上手く活用していくべきだと思っています。
昨今のサブスク時代のデジタルマーケティングにおいては、いかに幅広いユーザー層に届け、継続的に音楽を聴いてもらうかが重要です。
その上でTikTokを活用する理由として3点あります。
・幅広い層に楽曲をリーチできる
・ユーザーの二次創作から生まれる爆発的なバイラルヒットを狙える
・一度バズるとTikTok内で継続的に色々なユーザーにリーチができる
私の経験から、まだ知名度のないアーティストでもTikTokを上手く活用する事で、爆発的なバイラルヒットを狙え、他の施策以上に新たなリスナーやファンを獲得する事が出来る事を確信しています。
今後間違いなくTikTokを主にショート動画での音楽マーケティングは主流となるでしょう。(もうなりつつありますが...)
若井:可能性しかないね。やっぱりTikTok初期からやってきた経験とノウハウは、TikTokを活用したマーケティングにおいて本当重要だと思うし、実感してる。
中村:本当そうだね。トレンドの移り変わりが早いし、簡単そうに見えて簡単じゃないから奥が深い。笑
TikTokを活用したいけど活用方法が分からないという方が多いと思うので、今までの経験やノウハウを生かして、そういった方々のトータルサポートをもっと積極的にしていけたらと考えています。
TikTokからのヒット曲をどんどん生み出したいし、TikTokの可能性をもっと知ってもらいたいと思っています。
ー音楽業界全体の変容と、それに対するTikTokの活用法、アーティストやレーベルの動きについて非常に勉強になりました。中村さん、本日は本当にありがとうございました!
<取材・写真>
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