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スーパーかあちゃんへの道13

「俺も40分で6品トライアルやってみよっかなー」

ある日曜日のこと。
主人が急に、呟いた。今度シャンプー変えてみよっかなー、くらいの軽い感じで。毎週の習慣になりつつある作り置きだが、もうすでにやや倦んでいる状態の私は、その軽い調子に反してもっのすごく嬉しかった。

スーパーかあちゃんシリーズで何度かトライアルしては毎度撃沈している40分6品トライアル(スーパーかあちゃんへの道010409、などを参照)だが、
代わりに作ってくれるだなんて、渡りに船であった。二つ返事でお願いしようとしたのだが、そうさせない何かが私の中にあることに気が付いて、ちょっとだけ思いとどまった。
そう、こやつはプロである。この一度のラクと引き換えに、はじめからないに等しい、私の自信とかいうものが、雲散霧消。てなオチにはならんだろうか。いやいやいや、それは今更。それを言ったら何も作ってもらえない。専属シェフがいるというのにそれは勿体なさすぎる。別に張り合っている訳ではないんだし、ここは素直に、お願いすることにしよう、と何度目かの葛藤に打ち勝った私は、大きく構えて言った。

「えー、作ってくれるの? めっちゃ助かる! じゃあお願いしようかな?」

我ながらパーフェクトな返答である。

「でも、急になんでー?」

と、一応そこは、聞いてみる。

「や、ほんとに40分で出来るのかなあって思って。本見てるとさあ、本当にこんなに作れるのかなあ、無理じゃないかなあって、前から思ってたからさあ」

ふうん。なんだか謙虚な感じじゃないの。まあだから、なんですか。その言葉通りに受け止めるとすれば、「野菜の切る順番とか、段取りが命だとか、いつも偉そうにアドバイスをしていますが、実際のところ、本当にできるもんなのかな? もしできなかったとしたら、それは嫁の段取りの悪さではなく、この本がハードすぎるのが原因な訳で、そこは僕も、一度アドバイスをした人間として、無責任なことは言えないじゃないですか。だからちょっと自分でもやってみようかな」ってことですか。ふうん。そんなタイプだったかな。

と思いながらも、それから買い物へ行き、材料を揃え、スマホのストップウォッチを起動する。で、ちょっと準備を整えて、

「いいよ〜〜」

の合図で開始する。さあ、いざ!!!

2分経過。
主人「まだ2分か」

5分経過。
主人「野菜の切り出し終わったよー」
本気かこやつ?

15分経過。
主人「3品出来た〜」
へえ。

23分経過。
主人「5品出来た〜」
嘘でしょ(立ち上がり見に行く)。
嘘ではない。

25分経過。
主人「片付け込みで40分でいいよ」
調子に乗り出した。

30分経過。
主人「タバコ一本吸ってきていいですか」
くそう。あからさまな挑発。実際に吸うわけではない。

38分9秒。
主人「終わったー。あ、出来るもんだねえ」

ね?こうなるでしょ?いやいやいやいいんだよ。わかっていたよ。ぜんっぜん、張り合ってないし。美味しいご飯が6品出来た、この事実は輝かしいことです。この6品が今週の私を救う。輝かしいことです。でもね。でもやはり、彼が証明した事実は以下のことなんだ。

『問題はこの本のハードさではなくて、嫁の段取りの方。』

私は知っていた。知っていたのだ。でもやっぱり、なんかせつないよ。歌でも歌いたい気分だよ。

私はいつも以上にモリモリ食べる気のする娘を笑顔で見守りながら、その笑顔は果たして、心の底からの本物のやつかい?ということを、我に問うていた。

はー。でもこの切なさこそは、たまには美味しいシェフご飯を食べられることの代償、ということで、これまで作ってくれたあらゆる美味しかったものを思い浮かべて、脳内で差し引きゼロにしようと、試みたのだった。

うむ。ありがとう、シェフ。


スーパーかあちゃんへの道は美食とイバラにに満ちている。



応援いただいたら、テンション上がります。嬉しくて、ひとしきり小躍りした後に気合い入れて書きます!