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トマトを食べたら。
「皮って食べられないんだよね〜」
4歳の娘はそう言って、口からキュウリを出した。
そのあとトマトも口入れて、それから出した。確かにトマトにも皮はある。
そのあと咀嚼したジャガイモすらも吐き出したところで、私は大きくため息を吐いた。
そのくせ
「ぶどうパンもう一個食べていい?」
なんて言うので、
私は残されたトマトを頬張りながら「ダメ」と即座に言葉を投げ返す。
最初に用意されたものを、全部食べた人がおかわりできるんだよ?
と保育園ルールを持ち出すと、私がトマトを平らげた頃に、
「あーあ、トマト食べたかったなあー」と言い出した。
おぬし・・・とつい武士的口調でたしなめようとしてしまうが、確かに、目の前の野菜を奪っておいて野菜を食べないとパンをあげられないというのもフェアではない。
「絶対食べる?」
「うん。皮とってね」
承知。
私はトマト4分の1個分を、皮を綺麗に取って、なるべく薄くスライスし、塩を少量ふってしずしずとテーブルへ運ぶ。
マヨネーズもスタンバイしてある。
娘は宣言通りにそれを口に入れて、苦い顔をしながらも咀嚼する。
飲み込む。
「ねえ、食べたからパン食べていい?」
「もうちょっと」
娘は仕方なさげにもう一口頬張るが、急に目をぎゅっとつむって、涙を流した。それから私の方をチラチラ見てトマトがあたしを苦しめるの!とでも言わんばかりの顔で吐き出した。と、母の目には見えたが、本人がどれだけ真剣だったのかは、はかれない。
私はしばらく、その様子を見ていた。
すると娘はまた一口トマトを口に入れて、悲劇のヒロイン顔で吐き出している。と、母の目には見えたが、娘がどれだけ真剣だったのかは。
しかし野菜を食べないとパンを食べてはいけない、というルールに則ろうとしたこと、一口はしっかりと食べたこと、顔はどうあれ口には入れてみたことは事実だった。
「頑張ったから、半分食べていいよ」
そうして娘は、ぶどうパンを半分頬張った。
その向かい側で私は、残されたジャガイモ、キュウリ、トマトを猛然と食べる。
その様子を無表情に見ていた娘が、トマトが残り少なくなった時、突然「は!」と鋭い声をあげて大きく口を開けた。
しかし私はすっかり苛立ちに取り憑かれていて、どうせまた出す、と脅すようなことを一言、言ってしまった。
娘はそれですっかり気が萎えてしまい、二度と自分からは口を開けなかった。
そのことを、今日いちにちずっと後悔している。
あの叫ぶような口の中へ、トマトを放り込んでやればよかった。
(執筆時間30分)
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