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ウォール街のランダム・ウォーカー(第12版):読書メモ

バートン・マルキール(2019)
訳者:井手正介

 社会人になり動かせるお金が増えてきた今日この頃、お金を銀行口座に眠らせておいてももったいないと思い証券口座を作成しました。しかし、いざ資産運用を学ぼうにも、ちまたには「絶対100%勝てる投資術!」(適当)とか「人生一発逆転の投資!」(適当)とか、そんな感じの書籍が多いのなんの。(個人的には当該書籍を通して儲かっているのは著者と出版社だけなのではないかと考えています。)
 そんな中、Twitter で資産運用関連の名著として紹介されていたのが本書。各金融商品・投資スタイル・投資方法のメリット・デメリットを両面提示で説明している点や、最終的に一つの投資法のみを絶対とするのではなく、あくまでも読者に選択を委ねている、判断の余地を残している点で好感が持てました。

 本稿では、本書の内容を備忘と今後の資産運用方針検討のためにまとめます。気づいたらとんでもない長さになってしまったので、読み物には適さないかもしれません、、、

まず簡単に結論だけ述べておきます。

結論:
①幅広く分散投資された市場インデックス型の投資信託を運用の柱にすべき。
②いかに手数料と課税額を減らせるかが重要。
③財産を増やすための原動力は貯蓄。継続性のある貯蓄計画を若いうちから始める。

 本書の構成はざっくり言うと、前半はこれまでの歴史における株式市場予測や金融資産のリスク・リターン関係についての研究蓄積の学習、後半は学習を踏まえた各人のポートフォリオの考え方やリターンを増やすための工夫についての著者の主張になります。手っ取り早く著者のポートフォリオの考え方について知りたい方は、とりあえず後半に進んでみるのも良いかもしれません。

では早速、本書の内容に入っていきます。
まず、本書のタイトルにもなっているランダム・ウォークですが、

ランダム・ウォークとは:
「物事の過去の動きからは、将来の動きや方向を予測することは不可能である」ということ

 株式投資界隈にはファンダメンタル学派とテクニカル学派が存在しますが、著者に言わせればどちらの知識をもってしても株式市場の動きを予測することはできません。
 次に、そもそもの話になりますが、本書でいうところの「投資」は、
①配当、金利、賃貸料などの確実性の高い収入の形で利益を上げること、②長期保有による値上がり益を得ること、
の2つを目的とした金融資産の購入を意味しています。
 つまり、株式投資における基本方針としては、何年何十年と安定的に配当をもたらし、あるいは持続的値上がりが期待できる銘柄を探すことになります。

そして、前半部分での従来の研究蓄積についての内容に入ります。

前半戦スタート

ファンダメンタル学派の理論

 株式の価値は、将来において企業が配当として支払うお金の流列(※各時点で生じる収入から支出を差し引いた額の時系列)によって決まるとするのがファンダメンタル理論です。言い換えると、現在の配当の水準と、その増加率が大きければ大きいほど、株式の価値は高いと言えます。この考え方については、著者も株式の評価に最も上手くあてはまるとしています。
 しかし、重要な問題として、ファンダメンタル学派は将来の成長の程度と期間について、はっきりした根拠に基づいていないと著者は指摘しています。問題点としては、①情報や分析が必ずしも正しいとは限らない、②アナリストが価値推定を誤っている可能性は拭えない、③市場も自らの誤り(株価の適正値からの乖離)を速やかに訂正するとは限らない、という3点を挙げています。(個人的には、①を認めてしまうと株式の将来予想の全てが不可能であり無意味ということになると思います。もっとも、著者の主張としてはまさにそういうことかもしれませんが。また、③においては、アービトラージによる市場修正機能の即時性について疑問を呈していますが、いつかは修正される、かつ長期保有するという2つの前提に立てば、修正価値に収束するのを待つこともできるのではないでしょうか。)

テクニカル学派の理論

 市場の動きは参加者の心理的要因によって決まるとするのがテクニカル理論です。著者はケインズの「美人投票」論を用いて説明をしています。

美人投票:新聞紙上に100名の美女の顔写真を載せ、不特定多数の読者に6名を投票させ、投票結果として選ばれた6名に最も近い投票をした者に賞金を与えるという催し。この催しで好成績を残すのであれば、自身の価値基準ではなく他者の価値基準を想像・予測することが必要になる。

 以上と同様に、株式取引において他の参加者が欲しがる株式を予想して購入し、自身が購入した価格よりも高値で他の参加者に売却することで利益獲得を目指すのがテクニカル学派ということになります。利益獲得において重要になることは、この「後発参加者に高値で売りつけるゲーム」にいかに早期に参加するかということになります。この理論の非合理な点として、同じ手法を用いる人の数が多くなり、人が各種シグナルが形成される前に予想し動き出そうとすることにより、帰納的に現在の株価に全てが織り込まれた状態になるということを著者は主張しています。いかなる種類の規則性であれ、人々に知られ、しかもそれを用いて利益が得られるのであれば、それは自らを破壊することになるということです。さらに著者曰く、単なる「バイ&ホールド」戦略(ある銘柄を買って長期間保有する)だけでも、テクニカル戦略と同じくらい、ないしはそれ以上に儲かるともされています。
(※とは言うものの、早期の動き出しは予想の正確性とトレードオフなわけであり、個人のリスク許容度によって動き出しタイミングが異なるとすれば、シグナルによる段階を踏んだグラデーション的株価形成も認められるように思います。)

バブルの形成過程

 テクニカル学派の理論に比較的関連があると思われるバブルについても記述しておきます。しばしば耳にする市場の過熱を表すバブルという言葉ですが、ポジティブ・フィードバック・ループ(ロバート・シラー『投機バブル--根拠なき熱狂』)という流れで形成されると説明されています。具体的には、まずブームに関連が深いと思われる一連の銘柄が買い上げられることから始まり、株価が上がり始めるとテレビや雑誌が盛んに取り上げます。これによってより広範な投資家が引き寄せられることになります。こうして初期にゲームに参加した参加者は莫大な利益を得てそれを人に吹聴していき、それを聞いた人々によって株価はより一層上昇することになります。著者に言わせれば、これは「ポンジ・スキーム(ねずみ講)」であり、ブームの継続には「よりお人好しな投資家」の供給が必要になりますが、問題はその供給にも限界が来るということです。

現代ポートフォリオ理論(MPT)

 ファンダメンタル学派とテクニカル学派による理論は古典的な理論になりますが、新しい株価理論として開発された基本的なものに現代ポートフォリオ理論があります。現代ポートフォリオ理論では、すべての投資家はできるだけリスクを回避したがるものだという前提に立っています。そして、まずこの理論における分散投資に関する考え方から入ります。
 分散投資について、アメリカ株限定の場合には、様々な業種から選んだ50以上の銘柄に等金額投資することが一つのリスク低減目安になります。これによって総リスクの60%以上は低減できるようです。ただし、これ以上保有銘柄数を増やしてもリスク低減は期待できません。しかし、ここで諸外国の経済は必ずしも常にアメリカのそれとは同じ方向にはいかないため、国際投資分散によってさらに大きなリスク低減ができます。リスクの高い外国株式を少しだけ加えることによって、ポートフォリオ全体のリスクが低下するのです。ブルームバーグ社の研究では、アメリカ株(S&P500)とEAFE株(ヨーロッパ・オーストラリア・極東先進国指数)の最適割合はアメリカ:EAFE=82:18のようです。
 次に、現代ポートフォリオ理論においてより高いリターンを得るために編み出された資本資産評価モデルとベータの内容に移ります。
資本資産評価モデル(CAPM)とは、証券投資リスクのどの部分を取り除くことができ、どの部分はできないかという問題への一つの結論になります。この理論では、分散できるリスクをとったとしても市場はプレミアムを寄越さないという前提が置かれています。つまり、より高い長期平均リターンを得ようとするのであれば、分散しても取り除けないリスクを取らなければなりません。そして、「ベータ」と呼ばれるポートフォリオのリスク尺度を調節することで市場平均より高い運用成績を出せるとしています。

システマティック・リスク:
株式市場全体が変動し、また全部の株式が少なくともある程度は一緒に動く傾向があることから生まれるリスク。市場リスクともいう。
非システマティック・リスク:
株式のリスクのうち残りの部分。その企業特有の要因によって生まれるリスク。

 銘柄によっては市場の動きに敏感に反応するものもあれば、比較的安定しているものもあります。この相対的な変動性、または市場に対する感応度の大きさは、過去の実績に基づいて推計することができ、これがベータです。つまり、ベータ=システマティック・リスク(市場リスク)を数値で表したものということになります。そして同時に、ベータ=個々の銘柄のリターンの動きと市場全体のリターンの動きの相関関係を捉えるものということでもあります。
 ポートフォリオ理論では、株価は常に一緒に動くとは限らないため、他の株式のリターンの変動と組み合わせることで変動性を相殺し、低下させることができます。よく分散された60の銘柄を組み入れると非システマティック・リスクはほとんど取り除かれ、ポートフォリオはベータに比例して(仮にベータが1であれば市場と同じように)動くようになります。そして、総リスクのうちプレミアムによって報われるのは、あくまでも分散投資によっても取り除くことができないシステマティック・リスクの分だけというのがこの理論の概要になります。
 しかし、著者が80年代における投資信託のリターンとベータについて行った調査によれば、個別株式やポートフォリオのリターンと、計測されたベータには何の関係も見出されなかったようです。ここから言えることとしては、著者も本書内で述べていますが、低ベータ銘柄も高ベータ銘柄と同程度のリターンを上げられているのだとすれば、低ベータ銘柄によって市場と同程度のリターンをより少ないリスクで得られるということになります。ハイリスク・ハイリターンを狙いたい場合にも、低ベータ銘柄をレバレッジをかけて信用買いすればよいという一つの結論が導き出されます。これを概念として定義しているのが、リスク・パリティー戦略です。高リスク・高リターンのポートフォリオを作る方法は2つあります。一つは、普通株に代表される高リスク資産を中心に組み入れて運用するもの、もう一つは大部分を比較的低リスク・低リターン資産で占めるポートフォリオを作り、借入金で自己資金の何倍もの規模で運用するものです。リスク・パリティー戦略では、後者の運用を取ることで相対的に高いリターンを得られるとしています。

行動ファイナンス学派

 これまでの理論や投資手法では、投資家は完全に合理的に行動することを前提としていました。しかし、投資家を非合理的な存在として捉える新しい理論の一つとして、行動ファイナンス理論があります。これは行動経済学の知見を金融に応用しているもので、投資家の非合理的な行動を数量化すること、あるいはいくつかのパターンに分類することが可能だと主張するものです。以下がそのパターン分類になります。

①自信過剰:
 多くの個人投資家は、根拠なしに市場平均に打ち勝てると信じており、その結果投機に走り、また不必要な短期売買を繰り返す。そして、売買頻度の多い投資家ほどパフォーマンスが悪い。(確かに、投資1年目の途中経過を見ても、最初に購入したまま放置しておいたほうが利益になっていたとさえ思います。「下手糞の上級者への道のりは己が下手さを知りて一歩目」(井上雄彦『スラムダンク』第22巻より)、反省しようと思います。)

②偏った判断:
 人は自ら運用成績をコントロールできると信じている。例えばテクニカル学派だが、過去の株価のパターンから将来がわかると信じている。

③群れの心理:
 「集団思考」は個々人が集団で行動することによって、ある間違った考え方が訂正されずに逆に増幅され、あたかも正しい考え方かのように広く共有される現象である。これが先述の「ポジティブ・フィードバック・ループ」を生み、「よりお人好しの投資家」に株を高値で売りつけるゲームが始まる。そして、個人投資家はブームがピークに差し掛かる頃に本格的に投資信託を購入する傾向が強いため、個人投資家の手にするリターンは市場平均を下回ることが多い。

④損失回避願望:
 人は同じ額の変動であれば、利益よりも損失のほうがはるかに大きいものと受け止める。


この他にも、行動ファイナンスの見地から得られる事実として、以下のものがあります。

・多くの投資家が損失の発生している銘柄を持ち続けるのは、やがて株価が回復し、後悔の念を回避できると期待するためである。

・投資家には大なり小なり資金的制約があるため、バブル期には非合理的な高株価は多くの裁定業者よりも長生きをし、修正がされないことがある。

・投資家の傾向として、穴馬銘柄に対して寛容すぎるというものがある。多くの投資家はリスクは高いが一獲千金の可能性のある投資対象に対して、不当に高い値段をつける傾向がある。つまり、安全性の高い対象は相対的に割安に評価され、結果として高いリターンを生み出す可能性が高い。

後半戦スタート

 続いて、後半部分での、著者のポートフォリオの考え方やリターンを増やすための工夫についての内容に入ります。ここでは、筆者が〇箇条のように明示しているものを中心にまとめます。

成功するための3つのルール

以下は、著者が個別株を購入する際に意識すべきこととして挙げているものです。

①利益成長率が今後5年以上にわたって市場平均以上の銘柄を買うこと
 (ただし、そんな成長銘柄を見つける方法については、ある意味当然ですが、詳しい記載がありません。)

②株価がファンダメンタル価値以上になっている銘柄には手を出すな
 著者は、市場にまだあまり知られておらず、株価収益率が市場よりも極端に高くなっていないような成長株に投資することを提案しています。成長率を予想することは難しいですが、仮に予想が間違っていたとしても、株価収益率が低ければ損失はそれに対応したものにとどまります。

「成長が期待でき、かつ低PERの銘柄を探そう。もし成長が実現したら、利益成長と株価収益率の上昇による二重のボーナスが得られるため、大きな利益を生み出すだろう。将来の成長がすでに織り込み済みの高PER株には気を付けよう。もし成長が実現しなければ、利益の減少と株価収益率の低下で二重の損失を被るからだ。」

③投資家が砂上の楼閣を作れるようなストーリーが描ける銘柄を探そう
 著者は、その銘柄に関するストーリーが人々、特に機関投資家の想像力をつかむことができるか、それを直感力、あるいは投機のセンスによって判断するように主張しています。つまりは、テクニカル学派の理論にあるシグナルなどは気にしなくて良いということです。

財産の健康管理のための10か条

①元手を蓄えよ:
 投資の元手になる資金を、時間をかけて着実に貯蓄することが財産増加の原動力となります。

②現金と保険で万一に備えよ:
 不慮の医療費支払いや一時的な失業時期をしのぐために、安全でいつでも引き出せる形である程度の現金を持つことが必要です。医療保険などでカバーがされているなら3か月分の生活費が手持ち現金の目安になります。また、保険のお勧めとしては「自家保険」が良いでしょう。掛け捨ての死亡保険に加入すると同時に、保険料の節約分を免税の老齢貯蓄プログラム(日本でいうとiDeCoになるでしょうか)で運用します。(現在、私の勤めている企業はDC制度(企業型確定拠出年金)を導入しており、現在はiDeCoへの加入ができませんが、2022年以降に法改正があるようで、それに伴いiDeCoに加入可能になるかを調べようと思います。)

③現預金でもインフレ・ヘッジ:
 必要になる時期が判明している現預金に関しては、銀行に寝かせておいてもインフレによって価値が目減りするため、大口定期預金、インターネットバンキング、短期国債などで運用するのが良いでしょう。

④節税対策と年金制度の活用:
 あらゆるチャンスを利用して免税措置を活用し、いかに税金がかからない形で貯蓄できるかが重要です。日本でも使えそうな制度がないか調べる必要がありますね(未調査)。

⑤運用目標をはっきりさせる:
 運用を始めるにあたり、自分はどこまでリスクを取るべきか、そして自分の所得税率下ではどのようなタイプの投資の組み合わせが最適なのかを認識する必要があります。高いリターンはそれに見合った高いリスクを取って初めて得られるものです。自分が保有株の見通しを心配せずに安眠できる水準を決めることが重要になります。

⑥マイホームの活用:
 世界の人口が増加を続ける限り、不動産は最も強力なインフレ・ヘッジになります(もっとも、日本に限って言えば国内の人口は減少の一途をたどる予想ですので、需要減少の流れがありそうですが)。本書ではアメリカでの住宅所有のメリットが説明されていましたが、日本での住宅所有のメリットには何があるのでしょうか。まず、住宅ローン減税はありますね。他にも固定資産税、売却時の譲渡益への課税などについて何かないのか調べる必要があります(未調査)。また、REITをポートフォリオへ加えることも、REITが株式や他の資産クラスと相関が高くないため、ポートフォリオ全体のリスク低減に役立ちます。そして、REITに関してもインデックス・ファンドが良いでしょう。

⑦債券市場に注目:
 ゼロ・クーポン債は期中に再運用利回りがどうなるかを心配する必要がありません。注意点としては、割高な手数料を要求する証券会社が多いです。そのため、個人投資家にはノーロードの債券ファンドがお勧めです。また、ファンドではなく特定の債券を購入したい場合には、既発債ではなく新発債を購入すべきでしょう。通常新発債は利回りが既発債よりも高めに設定されることや、新発債の購入には証券会社への手数料が発生しないためです。また、債券選択の際には、債券格付けがシングルA以上のものに限定したほうが良いでしょう。長期債に投資をする際には、近い将来金利が低下しても発行体が繰り上げ償還して借り換えることを禁止する、10年間のコール禁止条項がついているかを必ず確認すべきです。かなりまとまった金額を再建に投資する場合には、毎年運用手数料を取られるファンドよりも、利回りの高い特定の債券を購入したほうが良いです。高格付け債に限定すればリスクは小さいため、敢えて多数の債券に分散投資する必要はないでしょう。一方、投資資金が数千ドル(数十万円)程度の小口であれば、流動性が高く、リスク分散も図れるファンドに投資するほうがよいでしょう。

⑧金、ダイヤ、書画骨董、コレクター・アイテム:
 これらは手を出さない方が良いです。また、商品先物取引はスピード勝負であるため、個人投資家はカモにされるだけです。ヘッジ・ファンド、プライベート・エクイティ、ベンチャー・キャピタル・ファンドは手数料が高すぎるためにこれらも手を出さないほうが良いです。

⑨投資にかかるコストに目を配る:
 投信やREITで運用する場合にはコストの差が鍵。低コストのファンドほどネットのリターンが高いです。

⑩分散投資が大原則:
 これはもう何度も説明されていますね。

何が株式と債券のリターンを決めるのか

 株式投資の平均リターンは現在の配当利回りと今後の一株当たり利益、配当の成長率でもたらされます。そこで、株式を永久に保有し続けると仮定すると、一株の価値は将来期待できる無限の配当の流列の割引現在価値を合計したものになります。よって、以下の等式が成り立ちます。

長期平均の株式投資の総リターン=投資時点の配当利回り + その後の配当の期待成長率

 ただし、投資期間が1年あるいは数年程度になると、市場の評価水準の変化、特に株価配当倍率あるいは株価収益率の変化が大きく影響します。
 また、債券のリターンの決定要因は、投資した時点で計算された最終利回りと、金利の変化です。債券の長期投資家にとっては、購入時に計算される最終利回りがほぼそのままリターンとして実現します。
 加えて、特定のタイミングから10年間の株式の平均総リターンの予測として、期初のPERが低い時期に投資をすればその後10年間の平均リターンは高く、反対にPERが高い時期に始めると低いリターンに終わるという傾向があります。

アセット・アロケーション(運用資金を各金融商品にどのような割合で投資するのかを決めること)の5つの基準

①リスクとリターンは正比例。
②株式も債権も投資期間が長いほどリターンの変動幅(リスク)は低下。つまり、投資対象を保有し続けられる期間が長いほどポートフォリオに占める株式の割合を高めるべき。
③ドル・コスト平均法は注意すべき問題はあるがリスクの低減に役立つ。
④定期的はリバランスはリスク低減・リターン増加につながる。
⑤リスク許容度は証券投資からの収入を除く所得の種類と個々人の総合的な財務状況によって決まる。

ライフサイクルに合わせたポートフォリオ

 投資家が年を取るにつれて、リスクが高い投資の割合を減らし、債券やREIT、配当が安定して高水準な株式の割合を増やすべきです。そして、55歳には定年後に備えた生活設計に取り掛かり、利子、配当収入を中心としたポートフォリオにしましょう。つまりは、債券の比重を高め、株式は成長性よりも配当収入を重視したより保守的な運用にするということです。そして定年後は、ポートフォリオの大部分を様々な満期や種類の債券で運用するのが良いでしょう。

幅広く分散投資された市場インデックスファンドを勧める理由

①ほとんどの個人投資家は十分に分散投資するに足りるだけの資金力を持っていないため。
②ほとんどの若者は今後月々の積み立てによって徐々に蓄えていくため。


最後に、以下には、著者による各論的な tips で私が参考にしようと思ったものを集めました。

・著者に言わせれば、市場で常に損をする人というのは、相場の過熱に身を任せてしまうタイプの投資家である。重要なのは、短期間に手っ取り早くお金を儲けられそうな投機にお金をつぎ込みたくなる誘惑を振り払うことである。

・著者がバイ&ホールドを勧める理由としては、本書では1960年代半ばから90年代半ばまでの30年間に起こった大きな上げ相場の95%が、この期間の約7500取引日のうちのたった90取引日に起こったことが確かめられているといいます。もし全取引日の1%強に過ぎない90日を外したとすると、株式投資の高い平均リターンの大部分は実現しなかったことになるとのことです。(ただし、ここで言う「大きな上げ相場」とはどのようなものを指しているのか、詳しく原典を当たらないことには、バイ&ホールド戦略の有効性について正確な判断が難しいように感じます。)

・株式投資にとって重要なのは新しい産業が経済や社会をどのように変えるかや、どれだけ規模的に大きくなるかということではない。大事なのは、その産業や企業が利益を生み出し、それを維持していく能力である。(この点に関しては、本質的に重要なのが後者だとしても、前者と後者は比較的相関が高く、後者は前者の部分集合のように感じます。経済や社会を変貌させ、規模的に大きくなる産業や企業は往々にして利益を生み出す気がします。つまり、前者から探っていくことは後者を見つけ出すヒントにはなるのではないかと思ってしまうのですが、これはそういうわけでもないのでしょうか。)

・72の法則:何年で価値が倍になるかの推定。72を金利で割った結果が必要年数になる。

・アナリストはネガティブな株価コメントを出そうものなら、将来重要な投資銀行ビジネスを失うかもしれないという懸念を抱えているとのこと。これを加味するとアナリストの売買判断は買い側に寄った超強気判断ということになる。アナリストの売買判断は「買い」となっているものしか意味がないのではないだろうか。もしくは、アナリストに売り判断をさせる銘柄というのは相当空売りに向いているのではないか。

・市場の暴落過程で値下がり銘柄を売らずに持っておいたほうが良い場合というのは、当該銘柄の業績見通しが良好なものであり、遠からず株価が大きく回復することが見込める場合。

・インデックス・ファンドではなるべく基準指数が広範で包括的なものが良い。アメリカ株でいえば、S&P500ではなく、ラッセル3000、ウィルシャー5000、もしくはMSCIブロードUSインデックス。

・退職後に資産を自分で運用する場合、一年間に生活費のために取り崩す額は保有資産の4%以内にとどめるべき。資金の枯渇を回避し、退職時の蓄えをそのまま保てる。


本当の最後に、本書を踏まえての私の今後の簡単な投資方針について記載します。ポートフォリオの内訳ですが、株式75%(アメリカ株40%、先進国株15%、新興国株20%)、債券10%、不動産10%、現金5%、の布陣で行こうと考えています。既に著者の言うことに若干従っていないですね(債券割合が低い、アメリカ株割合が高い)。多少高リスクを攻めてみたいと思うギャンブル精神の表れと、アメリカへの期待からの内訳なのですが、特にアメリカ経済の状況はウォッチをしていこうと思います。



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