詩『サクリファイス』
あなたが冷蔵庫に入ってる。
見開いた眼差し。
腫れぼったい唇。
憎ったらしい鼻。
毎日見ると少し食傷する。
でも、私は幸せ。
あなたに、この世界に、感謝している。
それ痛かった?
痛かったよね?
切断面の縁を人差し指の腹でなぞる。
凝固した血液の表面はつるりと滑らかだった。
自分の心に《悲しい》というラベルを貼る。
感情のスペクトラムは微細に変化しながら、
ラベルの下側で別の感情に場所を譲る。
どうやら私はあなたが死んで《嬉しい》、
らしい。
与えられた約束の時間は短い。
物語は全てまやかしで世界への信頼は
疾うの昔に枯れた。
残った虚な《私》という器が朽ちるのも、
そう遠くはない。
でも、あなたを見れば思い出す。
私がまだ死んでいなかったって。
しばらくは余韻を堪能させてもらおう。
あなたが悪臭を放つまでは。
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