見出し画像

詩『ジッパー』

着ぐるみになった夢を見た。着ぐるみに入った夢ではない。着ぐるみそのものになった夢だった。私の中に誰かがいる。その感覚は夢うつつに隔たり無く幼少期からあった。操られている、というのではない。自分が自分という確からしさの欠如、何処までいっても重ならず、背中を追うような歯痒さに取り憑かれてきた。

それは一つの結果だった。背中にできた妙な凹凸、背骨に沿ってしつらえられたジッパー。誰かが《私》を着ている。気心の知れた友人と近況を語り合う。SNSで話題の店でランチを食べる。noteに文章を書く。生まれてきてから数十年信じてきたものが、その瞬間、私から引き剥がされていく。

私は腕を背後に回してジッパーを下ろす。鏡ごしにその内側を覗く。視界の全てが闇に変わる。私は《私》にくるまれる。事物から切り離された私はもはや私ではなく情動の流れ、あるいはスパークした神経細胞の描く星座となる。永遠の夜は続く。一切の不安は消えた。残ったのはただ言葉を垂れ流す、裂け目だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?