詩『イカロスの墜落のある風景』
闇に溶けた足を見てそこにある骨を意識した。無音に耳を傾け、寿命を迎えた細胞が寂しく火花を散らせながら消えゆく姿を想像した。無重力空間の端から端へ辿り着くまでの間、何度地面に叩きつけられるか指を折って数えた。
全身に張り巡らせた鋼は調律されないまま不協和音を奏でる。言語領域はアルコールで浄められ、あうあうと言葉にならぬ言葉が漏れ出る。自意識に書き込まれたプロトコルは何度もカッターで引き裂れ、無意味な文字の羅列に変換される。
それでも、僕の背中に羽は生えてこなかった。
一条の線だった。視界に亀裂が入り墜落の線が引かれる。眼球の表面を泳ぐ蚊のように、二本、三本と線は続く。見上げると夥しい数の墜落の線があった。年齢も性別も無く、あらゆる属性を剥ぎ取られた線が薄らと蒼みがかった光を帯びて降り注ぐ。
優しい連帯感。精子として子宮を遡った頃の懐かしい記憶。自他の境界が薄れゆき、身体の内側の質量が下がる感覚。背中の羽は溶け落ちたままだけど今なら飛べる。そう呟いて僕は墜落のある風景に踏み出した。
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